あるはたらくひと の いちにち 1

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78-79 232-234 237,240 320 355 388-390 443,449-450 574

□ 78-79 □
【ある げんばかんとくうけの いちにち】

あさ ろくじきしょう きょうもいいてんきだ こしがいたい
こら しょくにんせめ おきろ

なかなかおきないしょくにんせめを
ふとんからひきずりだして げんばへむかう

おはよう かるくちょうれい たいそう
しょくにんせめ ちょうだるそう
おまえしっかりやれ だるいのはおれのほうだ
まじめにやれよ あしすべらせてしんでもしらないからな

ひるすぎ せしゅが ちゃがしもってくる ちょっとせけんばなし
せしゅ おとこまえ けっこう おれごのみ

しょくにんせめ こっちみてる うわ ちょうにらんでるよ
おまえ こっちばっかりみてないで あしもとみろよ
あんぜんだいいちって へるめっとにもかいてあるだろ
おちてもしらな

うあっ

しょくにんせめ あしすべらせた
じめんに まっさかさま

でも しょくにんせめ ちょうじょうぶ
あわててかけつけた おれに ぶいさいん

もうね、アホかと。バカかと。

やばいおれちょうなきそう
ないてんじゃねーよ としょくにんせめがわらう
ないてねーよ とおれがなく

けっきょく せしゅ ほったらかし
きょうのさぎょう ぶじ? しゅうりょう
そうじして かいさん

むきずの しょくにんせめと かいものしてかえる
よそみしてたこと おこったら しょくにんせめは
おまえが せしゅと たのしそうにはなしてるからだろ とむくれた

ちょっとはんせい
しょくにんせめが ぶじで ほんとうに ほんとうによかったとおもう
あるげんばかんとくうけの いちにち
あしたも なにごとも ありませんように

□ 232-234 □
【ある すなおになれない はいしゃせめのいちにち】

きょうも いちにちじゅう ただひたすら かんじゃのくちのなかをのぞく

でもきょうはとくべつ あいつがやってくる

あいつは すうかげつまえ はをむしばだらけにしてやってきた

みぎしたのおくばが ちょっといたくて… なんていうから みてみたら
みぎしたのおくばどころじゃない あちこち ちっちゃいむしばだらけ

さいしょは どうしようもないおとなだ とおもっていたけれど
せわかけます なんてなさけなさそうにへらへらわらうあいつをみてたら
なんだか あいつがくるの たのしみになってた

そろそろじかん あっ きたみたいだ

かんごふになまえをよばれて しんさつしつにやってくる あいつ

きょうも せわかけます… と いつものように へらへらわらう あいつ

そのえがおをみてると すごくやさしいきもちになれるんだけど
ほんとうですよ いいおとななんですから しっかりかんりしてください… なんて
くちうるさくいってしまう おれ

しんさつだいによこになって あいつははずかしげもなく おおぐちをあける

ちりょうはだいぶすすんで のこったむしばは あと2ほん

きょうをふくめて あと2かいしか こいつに会えない…

そうおもうと なんだか むねがぎゅっとくるしくなった

でも おれははいしゃ こいつのむしば なおしてやらなきゃ

わざとゆっくりちりょうしたのに あいつは
せんせいはいつもてぎわいいですねー なんて わらっていう
こっちもきもちもしらないで… とおもうけど
ついうれしくなってしまって でもなにもいえない なさけないおれ

あと1かいでおわりだから と あいつにいって ちょっとせつなくなる

あいつのじゅうしょも でんわばんごうも みようとおもえば みられるのに
なにもできない じぶんがくやしい

あたまをさげて かえろうとする あいつのせなかに こえをかけた

さいごのちりょうがおわったら、しせきとってあげようか

おねがいします と あいつはほほえんだ

おれもちょっとはしんぽしたじゃん なんて ちょっぴりうれしくなる
すなおになれない あるはいしゃの ごご

□ 237 □
【あるぱんやのてんいんのいちにち】

かじでかぞくもいえもなにもかもうしなって
ふらふらしてたおれ まだじゅうろくさい

そんなおれをひろってくれたまだわかいぱんやのてんちょう

「しょくじはあまったぱんばかりだけど
それでもよかったら すみこみでここではたらかないか」

まるでほんとうのちちおやのように おれをかわいがってくれた

おれにやさしさと いばしょと しごとをくれたひと
きょうもおだやかなかおで ぱんをやいている

くすりゆびには しごとちゅうははずしている ゆびわのあと

あなたがすきですなんていえるはずがない

やきあがったぱんをならべながら
いつもばれないようにすこしだけなく あるぱんやのてんいんのあさ

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□ 240 □
【あるぱんやのてんちょうのいちにち】

むかしからつい すてねこやすていぬをひろうことはよくあったおれだが
まさかにんげんをひろうことになるとはおもってなかった

みせのうらにちからなくたおれていたほそいからだ
どうしたんだときいても つらそうにわらうだけでなにもこたえない

うりもののぱんをみっつ こーひーのかんといっしょにわたすと
わたしたものぎゅっとかかえてぼろぼろなきだした

ああせっかくのぱんがつぶれてしまうじゃないかとおもいつつ
かおのぞきこむとちいさく ありがとう といってわらってみせた

まだあどけないひょうじょうにおもわず
ぐしゃぐしゃのあたまをかきまわして
ちからになってやりたいとおもってしまったのだ

むかしからよくうつりぎでうわきをしては
にょうぼうにあいそつかされそうになっていたおれだが
まさかこのとしでおとこあいてにほれるとはおもっていなかった

げんきによくはたらいて よくわらう あいつのすがたをながめながら
ひたすらそのしあわせをねがう あるぱんやのてんちょう

□ 320 □
【ある たぼうなしゃちょうの いちにち】

ひしょの もーにんぐこーるで めざめる
きょうは 3じかんも ねむれたな

びすけっとと さぷりめんとかじって ちょうしょく しゅうりょう
あさから かりかりかりかり・・・・・・おれは りすかと といつめたい
じかんないから こいちじかんは むりだが といつめたい なきごといいたい

でも ひしょが むかえにきたので といつめるの ちゅうし
こいつに なさけないところ みせたくない
ばりばりはたらくせ!

・・・20じかんご、ばりばりやりすぎて しにそうな おれ
もしかしなくても ばか
みえをはる げんきもなくて くるまのなかで ぐったり

「しゃちょう だいじょうぶですか?ひとだんらくしたら どこか でかけられたら どうですか」
うんてんせきの ひしょが やさしいことば
どこか・・・なあ

いや ずっと しごとする
「え?」
おまえから はなれてまで いきたい どこかなんて おもいつかん

ひしょの みみが まっかになっていることにも ふたりいっしょに いけばいいことも きがついてない
あるたぼうな しゃちょうの ごぜん3じ
おつかれさま

□ 355 □
【あるこんびにばいとのてんいんのいちにち】

しゅうまつでも、しんやでもかんけいない。おれはしごとだ。
こんなじかんでもおきゃくはぽつぽつはいってくる。

どあがあく。
「いらっしゃいませ」
かっぷるがきた。おんなのこはおとこからはなれないでくっついている。
おとこのゆびのあいだからみえるおんなのこのほそいゆび。

おとこがざっしをさがすときも、おんなのこがおかしをゆびさしているときも
てはにぎられたままだった。

「ありがとうございました」
れじのまえにたってもふたりのてははなれない。
きっとそれがふたりにとってのしぜんだからだ。

けいこうとうのしたでひとりになったおれは、
あんなふうにだれかとてをつないでいたことをおもいだして、
でもそれもおもいででしかないな、とおもいなおして、たなだしをはじめた。

あるこんびにばいとのてんいんのいちにち

□ 388-390 □
【あるふりーたーせめのいちにち】

どようはちじ みせにもどってすぐおーだーひょう
かくにん
やった ひるさいどはいつにいまるさんからはいってる

はいたつまちのたなのいちばんまえに できあがった
ばかりのぴざ でんぴょうにはおなじじゅうしょ
きょうはたいみんぐがいい おれさいこー

でも はいたつじゅんびをしながら くびをかしげる
びみょうな いわかん
はしりながらかんがえることにして ばいくはっしん

よるのじゅうたくがいをすいすい
ずっとかんがえてる
へんだな きょうのおーだーいつもとちがう

ここのおーだーはたいていおなじ
はーふあんどはーふのえるさいず
かたがわはきまってないけど かたがわはいつも
まるげりーた
でも きょうはまるげりーただけのえすさいず

うけは おとくいさんだ
いつも ごくろうさまとむかえてくれる
うれしそうに とどいたよ と おくにいるやつに
よびかける
きいてるおれまでてれそうな しあわせなこえで

きっときょうはたまたまひとりなんだ きっと

あぱーとについた げんかんのちゃいむをおす
うけがでてきた
だまってさいふをだす くらいかお
へやもくらい

だいきんをわたされたとき うつむいてたかおがみえた
めがあかい
からだのなかが かっともえた

すいませんわすれものしました と だっしゅ
あぱーとわきのべんだーで じゅーすをかう
もちろんじばら
だっしゅでもどり ぽかんとしているうけに
かんをさしだす
さーびすきかんなんです どうぞ

うけはすこしそれをながめてから
はれたほおにあてて
つめたいね うすくわらった

えがお うれしいはずなのに
むねのおく くるしいひがきえない
よたよたばいくをはしらせる あるふりーたーの ながいよるのはじまり

□ 443 □
【あるたくしーどらいばーのいちにち】

きょうもせっせとはんどるまわし
いやなきゃくにもおあいそわらい
あめふりもくようごぜん2じ のりこんできたふたりぐみ

のみかいあがりのりーまんふたり
「○○まち いっちょうめにあるこんびにかどまで」
「あい、りょうかい」
おれ ういんかーだしてはしりだす

すこしして
よっぱらいぜめ めがねうけのかたにもたれてゆめのなか
ごくちいさなためいきひとつ みらーごし
よっぱらいぜめのかたのうえ ふれられないまま
ちからなくにぎられた めがねうけのてが ふるえてた

よくあるはなし よくみるこうけい
でも だけど
ほんのすこしだけとおまわり
2ふんちょっとのまわりみち

あれくらい だれかにほれたことあったっけ
ほんのりうらやましくなった たくしーどらいばーのあさは まださき

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□ 449-450 □
【あるかたおもいめがねうけのいちにち】

とまったたくしー おこすのがむりなほど よっぱらいぜめはゆめうつつ
もう、しかたねぇなぁ わざとらしいためいき たくしーまたせてかついでへやへ

だるいからだにちからをいれて いっぽいっぽあめのろうかをあるく
ちかくにかんじるたいおんと こきゅうと たばこのにおいに
のどが なさけなく ごくりとなった

かってにへやのかぎをあけて いちどもはいったことのないしんしつへふみこむ
べっどにころがしてやると しあわせそうにまくらにほおずり
くそ、おれのきもちしりもしないで しあわせそうにしやがって
ずっとずっと もう ずっとずっとすきで おかしくなりそうなくらい すきなんだ

せっかくだから   きすくらい いいかな
なんておもってかおをよせる さけくさいいきが はなさきをかすめたしゅんかん
いきなりねがえり しんぞうがこわれそうなほどみゃくうって からだをどける
のんきにねているよっぱらいぜめのかおが すこしだけ つらい

かわらないたいどで あしたもきっとわらえるから
なにもしなくて …できなくて よかった
これでよかった よかったんだよ おれ
のどのおくと まぶたのおくが なんだかあつい
まっくらにしたへや ふりかえってねいきだけ みみにのこした

またせてたたくしーのらんぷが なんだかにじんでて
これはきっとあめのせい
わらおうとしたけど うまくわらえない
くもるのはめがねのうちがわ

てをあげるまえにしずかにひらいたどあからからだをすべりこませて しーとにしずむ
ふぅ と おもわずふかいためいき
みないふり きこえないふりのどらいばーのたいどが いまはありがたい

だってどうしようもない いいだせるわけがない
せっかく【しんゆう】になったんだろう これいじょうはいらない
なにものぞむものなんてない もうなれきった じぶんへのうそ
いいきかせるようにむねのなかでくりかえす かたおもいめがねうけに よるがにじんだ

□ 574 □
【ある えきいんの いちにち】

きょうも でんしゃのなかには ひとがいっぱい ほーむもいっぱい
おさないで かけこまないで それではよんばんせん はっしゃいたします
でんしゃのまどに いってらっしゃい あたまをさげる これがえきいんのしごと

とけいをながめる つぎのでんしゃに きまってかけこんでくる こうこうせい
そろそろくるかな ああきた かいだんを いちだんとばしで かけおりてくる
あぶないな まえに おじいさんがいるのに はらはら
ああやっぱり よけようとして こうこうせい ばらんすくずした

あくろばっとな たいせいで じたばたしてるけど やっぱりおちる そりゃそうだ
かんいっぱつでかけつけて うけとめた!つもりが いっしょにほーむにたおれこむ
いててて だいじょうぶか おい
むねのうえ まっかなかおして こうこうせい ごめんなさいと ひらあやまり

おれはいいけど あぶないから かけこみじょうしゃは やめなさい
ぽんぽんと あたまなでて おきあがる あいてて こしうったかも

ぶじにでんしゃにのりこんだ こうこうせい がらすごしに ぺこりとあたまさげる
こし おさえながら わらって てをふる いってらっしゃい
こうこうせい すこしわらった えしゃくする しぐさが ういういしい
うごきだす でんしゃ からみあう しせんは あっというまにひきはなされる

そして つぎのひも そのつぎのひも おなじじかんに そわそわするようになる
ある えきいんの あたらしい いちにちの はじまり

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