□ 91-92 □
【あるしゅぎょうちゅうけんしのいちにち】
ここは けんとまほうのせかい
おのれのけんをみがくため すんでたいえをとびだして
まいにちじっせんしゅぎょうもかねて しょうきんかせぎにせいだしてる
↓
だけどさいきん ちょっとこまりごと
おれとくんでる やせっぽちのとうぞく
くちがわるくて てがはやい おまけにかねにちょうきたない
さいきんじゃあいつ しごとなかまにも きらわれるしまつ
↓
おまえ よのなか かねばかりじゃないだろってちゅういしたら
「うるせー おまえみたいなせけんしらずに なにがわかる」
おもいっきりにらまれて はしってどっかにいっちまった
てにいれたばっかりの しょうきんぜんぶといっしょに
↓
すばしっこいのがうりのあいつを ひっしにさがしまわる
ちくしょう おれのやどだい めしだいまで もっていきやがって
とっつかまえたら いっぱつなぐって あやまらせてやる
おまえ なにかんがえてんだ ちっとはおれのいうこときけよ
いつもにくまれぐちたたくの なんでだよ
↓
「おまえみたいなせけんしらずに なにがわかる」
あいつのくちぐせ そうだ いまになってきがついた
おれはあいつのこと なにもしらないってことに
↓
そういえば あいつ てにいれたかね なんにつかってるんだ?
↓
やっとさがしあてたちいさなむら ちずにものってないまずしいむら
ふるいきょうかいに あいつ こばしりにはいってく
ちいさなこどもと ばあさんしすたーにかこまれて あいつ にっこりわらってた
どうやら ここはこじいんみたいだ
↓
しばらくこかげからみてると
あいつ きんかのふくろを ばあさんしすたーにぜんぶわたした
あーこら おれのやどだいとめしだいはどーなる
だけどそれをいうのは さすがにきがひけた
↓
こどもたちとあそんでやってるあいつ それこそこどもみたいなえがお
たぶん ここでそだったんだろうな
かなりひねくれてるし かわいくないし すなおじゃないけど
やっぱりゆるしてやろうとおもう あるしゅぎょうちゅうけんしのごご
□ 339-340 □
【ある ひりきな おとこの いちにち】
あさ すっきり めが さめた
しょうじごしの ひは とても あかるい
ずっと すれちがっていた ひとから
とくべつな ふくを きせてもらった
↓
ゆっくりと そとに あるきでた
もう みんなが あつまっている
その ちゅうしんに いるのは あなた
たたかいに むかう つわものの かお
↓
おれたちは きょう しにいくさを する
かてるわけのない むぼうな たたかい
あなたは うつくしい かたなを くれる
おれは かたなを うけとる うやうやしく
↓
あなたは しずかに ほほえんでいる
おれは あなたを じっと みる
なあ くちに だしは しないけれども
ほんとうは こんな いくさ したくない
↓
じぶんが しぬのは こわくない
ただ あなたを うしなうのが こわい
あなたは ぷらいどの たかい おとこで
それゆえ こんな あさを むかえた
ほんの すこし その きょうじを まげれば
いきのびることは できたのに
↓
あなたのいきざま あなたのいのち
ほんとうは どちらも まもりたかった
でも りょうほうは むりだと しって
くるしむ おれに あなたは わらった
↓
なやむ りゆうなど どこにもない
いのちと ぷらいど
ひとつを とるなら
わたしは ぷらいどを とって しぬ
↓
おれは そうか と いうしか なくなり
このひを むかえて いま ここに いる
あなたが しぬのを となりで みとるか
あなたの となりで しぬか するために
↓
なんて むりょくなんだろう
なんて やくたたずなんだろう
あなたが とらだと いった おとこは
つめを まるめた ねこより よわい
↓
それでも むじょうに じかんは ながれ
たたかいの ときは まぢかに せまる
あなたは みんなを ひきいて はしる
その となりを おれは いく
↓
しぬな
ひとことさえ いえず
ただ となりに いるしか できない
ある ひりきな おとこの いちにち
□ 423-426 □
【あるしごとにんのいちにち】
じゅうにねんまえ しごとがえり はしのしたで こどもをひろった
ふゆのさむいさなか ひとり かわらであそんでいた
↓
まわりのにんげんにきくと ちかくははおやにしなれて ちちおやはもともといないとか
せわするにんげんもおらず ひとり いつもあそんでいるのだとか
↓
こえをかけると ぱっとかおをあげて こばしりにちかよってきた
おさないながらに きれいなかおをしていた
とてもすなおな めをしていた
↓
きまぐれだった
↓
ちいさなてをつないで ふたりならんで ちいさないえにかえった
いえのなかにひとのけはい
とをあけると しごとのちゅうかいにんが せんせい とおれをよんだ
↓
こどもをそとにまたせて しばらくしごとのはなし
はんときほどして ちゅうかいにんはかえる
あらためてこどもをへやにいれると そでをひいて こどもがわらった
↓
せんせい せんせい
↓
いみもしらないで むじゃきにおれをよんだ
そのめが とてもすなおだったので
しごとがえりのきたないてで ちいさなからだを だきしめた
こどもはとてもすなおで なんでもいうことをきいた
せんせい せんせいと たもとをひいてなついてくる
↓
それがいじらしくて かわいらしくて たまらない
↓
きたないいえにかえるのが たのしみになった
いえにもどるまえ てをあらうのが くせになった
↓
こどもがじゅうさんになるまで ひざのうえにのせて だいじにそだてた
↓
こどもがじゅうよんのとき はじめてだいた
↓
こういのあいだじゅう つらそうなかおとこえ
それでも いやだ とも やめてくれ とも いわなかった
↓
こういがおわったあと なみだでぐしゃぐしゃのかお
せんせい おれ もっとがんばんね
とちゅう きうしなって ごめんなさい
↓
つらいくせに いきもととのっていないくせに すなおなめでわらう
せんせい と おれのそでをひいてわらう
↓
このこはなんで おれにひろわれた
どうしてこんな さいていなにんげんに ひろわれてしまった
↓
ぜつぼうかんがおれをおそう
それでも どうしてもてばなしがたくて かわいくて いとしくて
また ぬれたよごれたてで だきしめた
さいきんでは しごとをみつけて やっといちにんまえだと はしゃいでいた
あいかわらず おれのことは せんせいとよぶ
↓
ちかごろ よのなかがおかしい
めっきり きなくさくなってきた
おれのしごとが どんどんたまる
つかれてかえると おかえんなさいと むかえてくれるこえが すくいだった
↓
なかまがひとり ころされた
なじみのゆうじょが てびきしたらしい
もとじめがおれをよんだ
「おまえも いろこをかっているだろう
すてるか ころすか ふたつにひとつだ」
↓
ひろったこのてで すてろというのか
↓
だいたこのてで ころせというのか
↓
だまりこんでいると もとじめはさらにいった
「おまえができないならば おれがころしてやろう
なかまをうしなうのは もうまっぴらだ」
↓
わかりました じぶんで けりをつけます
↓
おもいあしで いえじをたどる
ひとごろしのては けっきょくなにもつかまないのだ
いいきかせながら いえのとをひらいた
こどものころとかわらない くったくない すなおなめ
↓
これいじょうはいわない あすのあさ でていけ
↓
ひじょうなことばをたたきつける
かれは せんせい と しんじられないものをみるめで おれをみた
↓
うるさい せんせいなんてよぶな おまえをひろったのは きまぐれだ
もうあきた でていけ すぐにでていけ
↓
かれはだまってうつむいて へやのおくにはいった
ちいさなものおと みのまわりのものを かたづけているおと
↓
なにもみたくない ききたくない うすいふとんに よこになる
いつしかおとはやんで かれがそっとちかくによった
せんせい とよんで ねころぶおれの そでをひく
↓
どうか からだだけはきをつけて あなたはおれの せかいです
あなたがおれを たすけてくれた すくってくれた
おれは あなたを あいしてる せんせい あなたを あいしています
↓
そして かれはでていった
これでいい これでよかったのだ
じぶんでいいきかせながら なみだがとまらない
ひとごろしがそだてた じゅうごもとししたの すなおなこども
いちどとしてくちにしたことはないけれど だれよりなにより あいしている
↓
あるしごとにんの じゅうにねんのいとしいさいげつにまくをとじた さいごのいちにち
□ 530-532 □
【ある さかなうりの じゅうごやのよる】
ながやぐらしもなれてきた
もうにじゅうさんになるけどよめさんはほしくない ひとりがきらく
そうおもってたのにおかしなどうきょにんができた
↓
うけはろうにん まだじゅうはち
けっこういいもんきていきだおれてた
さっそくきものはしちにいれてくいもんかってきて なんとなくめんどうみた
↓
それからふたつき
いっしょにすんでてちっともいきぐるしくない
かるくなったてんびんぼうをかついで いえにかえるのがたのしみ
↓
さいきんは きんじょのがきにてならいをおしえて
おやがげっしゃがわりにもってくるにつけやこめで めしもゆたかだ
さしむかいでばんめしくいながら ぽろっとくちからでた
「ずっとこうやってくらしていくのもわるかねぇな」
↓
「わたしもそうおもいます」
↓
なんだおい おれ しあわせなんじゃねぇの
にやけそうになるのをがまんしてわざといってみる
「でもいつかはしかんするんだろ
そしたらこんなこきたねぇながやなんかでてくだろ」
↓
「しかんはのぞみません
やっとうはだめなのです」
↓
もうだめだかおがゆるんでめしがくちからこぼれそうになる
「だらしねえな」
そんなこといわれてわらってるさむらいがあるか
こんやはじゅうごや すすきをひっこぬいてだんごをかって
おれのがらじゃねぇけどつきみでもしよう
いまけぇったぜ
↓
せまいどまににほんざしがさんにん なんだおいどうなってんだ
「なにかおまちげぇじゃねえですかい」
そういってやったのにさむらいどもふりかえりもしねえ
↓
「おいでください わかさま
ごじぶんのおたちばがおわかりなのですか」
↓
「なにがたちばだ」
おくからはげしいうけのこえがする こんなこえはきいたことない
わけぇのにいつもしずかなはなしかたで おれなんかとはてんでちがってたはず
↓
「ははうえをどくさつし わたしをやしきからおいだしたのが
だれであるかしらぬとはいわせぬ いまさらよまいごとをもうすな」
↓
なななんだなんだ
よくわかんねぇけどこいつらはおまえのかたきなのか
「おいてめぇら おれはさんぴんとやりあうのなんざこわくねぇんだ
とっととでていきやがれ」
↓
「ちょうにんのでるまくではない」
「このおかたはまつだいらさまけんじゅつしなんやく○○けの およつぎであられるぞ」
「ぶれいなくちはゆるしてやる そこをどけい」
けんじゅつしなんやくなんざ こうだんのなかでしかきいたことねぇよ
「おいやっとうはだめなんだろ いっちまったりしねぇだろ」
おれにむけられるあわれみのめ
「わかさまは ○○りゅう めんきょかいでんじゃ」
はなしがまるでちがう
「だましてたのかよ」
「ちがう!ちがう!」
さむらいをつきのけて うけがどまにおりてきた はだしだ
こんなときにおれ へんなこときがついてる まぬけだな
「ほんとうにけんはすてるつもりだった!」
ひっしなかおで おれのむなぐらをつかんで いまにもなきそうなうけ
↓
「おもどりになられぬときは おとりつぶしとあいなりましょう」
「われらをはじめ いちぞくろうとう せんすうひゃくにん
わかさまの ごけつだんをおまちもうしあげております」
しんのぞうがはれつしそうだ こいつがどうするか わかるから
やっぱり ては はなれていった
うなだれて おれのかおをみないまま「おせわになりました」とひとこと
↓
きがつくと もうだれもいなくて つきがでてた
なんだかひざのちからがぬける なんでだ
あがりかまちに ぽつんと うけのぞうり
はだしのまま いっちまった あいつもとんまだなぁ
↓
わらったつもりが こえにならなくて せまいへやががらんどうで
はをくいしばってないている あるおとこの じゅうごやのよる
□ 537-538 □
【かたはねをもがれた てんしのいちにち】
あくまとのせんそうが ひゃくねんつづいた
くものうえ ひろいひろいくに
てんごくは もう へいわなばしょでは なくなった
↓
てんごくにも めいかいにも いけず
しんだひとびとの たましいは たださまようばかり
むすうのたましいが ちからつきて きえた
↓
うつくしいはね うまれたばかりのてんし
そのしなやかな かたはねを しっこくのてきに もがれてしまった
とぶことすら できないうちに
↓
「とべないてんしなど てんしではない」
なかまにののしられ てんしはついほうされた
↓
てんしは のこったかたはねをつかい
さまようひとびとの たましいを いやした
てんごくでも めいかいでもない ただのせかいのはて
↓
もがれたはねの きずあとが みえなくなったころ
もうひとりのかたはねが やってきた
するどくにらむ ひとみには おおきなきずあと
そのからだじゅうのきずから ちがながれる
↓
くろいかたはねは なにもいわず
しろいかたはねは なにもいえず
ただ むかいあっていた
なぜじぶんが ここにいるのか たがいにわかっていた
なにもない ただのせかいのはて
↓
とつぜん くろいかたはねが たおれた
どくどくと ちがながれていく ながれていく
しっこくのはねが きずだらけのからだに かぶさりおちた
↓
ちゆできないほど あくまはよわっていた
しは ちかい
てんしは やはりなにもいわず
のこるすべての ちからで かれをいやした
しろいはねが さいごのかがやきを はなった
↓
あくまが めをあけたとき
てんしだった ぬけがらが そこにあった
ふと ふりかえると
しっこくのはねのとなりに うつくしいましろなはね
↓
うまれたひに しんでいった かたはねのてんしの しあわせなけつまつ
しろとくろのはねで そらたかくとんでいった ふしぎないきものの いのちのはじまり
【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15