あるふぁんたじー・じだいげきなひとたち の いちにち 1

home page
91-92 339-340 423-426 530-532 537-538

□ 91-92 □
【あるしゅぎょうちゅうけんしのいちにち】

ここは けんとまほうのせかい
おのれのけんをみがくため すんでたいえをとびだして
まいにちじっせんしゅぎょうもかねて しょうきんかせぎにせいだしてる

だけどさいきん ちょっとこまりごと
おれとくんでる やせっぽちのとうぞく
くちがわるくて てがはやい おまけにかねにちょうきたない
さいきんじゃあいつ しごとなかまにも きらわれるしまつ

おまえ よのなか かねばかりじゃないだろってちゅういしたら
「うるせー おまえみたいなせけんしらずに なにがわかる」
おもいっきりにらまれて はしってどっかにいっちまった
てにいれたばっかりの しょうきんぜんぶといっしょに

すばしっこいのがうりのあいつを ひっしにさがしまわる
ちくしょう おれのやどだい めしだいまで もっていきやがって
とっつかまえたら いっぱつなぐって あやまらせてやる
おまえ なにかんがえてんだ ちっとはおれのいうこときけよ
いつもにくまれぐちたたくの なんでだよ

「おまえみたいなせけんしらずに なにがわかる」
あいつのくちぐせ そうだ いまになってきがついた
おれはあいつのこと なにもしらないってことに

そういえば あいつ てにいれたかね なんにつかってるんだ?

やっとさがしあてたちいさなむら ちずにものってないまずしいむら
ふるいきょうかいに あいつ こばしりにはいってく
ちいさなこどもと ばあさんしすたーにかこまれて あいつ にっこりわらってた
どうやら ここはこじいんみたいだ

しばらくこかげからみてると
あいつ きんかのふくろを ばあさんしすたーにぜんぶわたした
あーこら おれのやどだいとめしだいはどーなる
だけどそれをいうのは さすがにきがひけた

こどもたちとあそんでやってるあいつ それこそこどもみたいなえがお
たぶん ここでそだったんだろうな
かなりひねくれてるし かわいくないし すなおじゃないけど
やっぱりゆるしてやろうとおもう あるしゅぎょうちゅうけんしのごご

□ 339-340 □
【ある ひりきな おとこの いちにち】

あさ すっきり めが さめた
しょうじごしの ひは とても あかるい
ずっと すれちがっていた ひとから
とくべつな ふくを きせてもらった

ゆっくりと そとに あるきでた
もう みんなが あつまっている
その ちゅうしんに いるのは あなた
たたかいに むかう つわものの かお

おれたちは きょう しにいくさを する
かてるわけのない むぼうな たたかい
あなたは うつくしい かたなを くれる
おれは かたなを うけとる うやうやしく

あなたは しずかに ほほえんでいる
おれは あなたを じっと みる
なあ くちに だしは しないけれども
ほんとうは こんな いくさ したくない

じぶんが しぬのは こわくない
ただ あなたを うしなうのが こわい
あなたは ぷらいどの たかい おとこで
それゆえ こんな あさを むかえた
ほんの すこし その きょうじを まげれば
いきのびることは できたのに

あなたのいきざま あなたのいのち
ほんとうは どちらも まもりたかった
でも りょうほうは むりだと しって
くるしむ おれに あなたは わらった

なやむ りゆうなど どこにもない
いのちと ぷらいど
ひとつを とるなら
わたしは ぷらいどを とって しぬ

おれは そうか と いうしか なくなり
このひを むかえて いま ここに いる
あなたが しぬのを となりで みとるか
あなたの となりで しぬか するために

なんて むりょくなんだろう
なんて やくたたずなんだろう
あなたが とらだと いった おとこは
つめを まるめた ねこより よわい

それでも むじょうに じかんは ながれ
たたかいの ときは まぢかに せまる
あなたは みんなを ひきいて はしる
その となりを おれは いく

しぬな
ひとことさえ いえず
ただ となりに いるしか できない
ある ひりきな おとこの いちにち

□ 423-426 □
【あるしごとにんのいちにち】

じゅうにねんまえ しごとがえり はしのしたで こどもをひろった
ふゆのさむいさなか ひとり かわらであそんでいた

まわりのにんげんにきくと ちかくははおやにしなれて ちちおやはもともといないとか
せわするにんげんもおらず ひとり いつもあそんでいるのだとか

こえをかけると ぱっとかおをあげて こばしりにちかよってきた
おさないながらに きれいなかおをしていた
とてもすなおな めをしていた

きまぐれだった

ちいさなてをつないで ふたりならんで ちいさないえにかえった
いえのなかにひとのけはい
とをあけると しごとのちゅうかいにんが せんせい とおれをよんだ

こどもをそとにまたせて しばらくしごとのはなし
はんときほどして ちゅうかいにんはかえる
あらためてこどもをへやにいれると そでをひいて こどもがわらった

せんせい せんせい

いみもしらないで むじゃきにおれをよんだ
そのめが とてもすなおだったので
しごとがえりのきたないてで ちいさなからだを だきしめた
こどもはとてもすなおで なんでもいうことをきいた
せんせい せんせいと たもとをひいてなついてくる

それがいじらしくて かわいらしくて たまらない

きたないいえにかえるのが たのしみになった
いえにもどるまえ てをあらうのが くせになった

こどもがじゅうさんになるまで ひざのうえにのせて だいじにそだてた

こどもがじゅうよんのとき はじめてだいた

こういのあいだじゅう つらそうなかおとこえ
それでも いやだ とも やめてくれ とも いわなかった

こういがおわったあと なみだでぐしゃぐしゃのかお
せんせい おれ もっとがんばんね
とちゅう きうしなって ごめんなさい

つらいくせに いきもととのっていないくせに すなおなめでわらう
せんせい と おれのそでをひいてわらう

このこはなんで おれにひろわれた
どうしてこんな さいていなにんげんに ひろわれてしまった

ぜつぼうかんがおれをおそう
それでも どうしてもてばなしがたくて かわいくて いとしくて
また ぬれたよごれたてで だきしめた
さいきんでは しごとをみつけて やっといちにんまえだと はしゃいでいた
あいかわらず おれのことは せんせいとよぶ

ちかごろ よのなかがおかしい
めっきり きなくさくなってきた
おれのしごとが どんどんたまる
つかれてかえると おかえんなさいと むかえてくれるこえが すくいだった

なかまがひとり ころされた
なじみのゆうじょが てびきしたらしい
もとじめがおれをよんだ
「おまえも いろこをかっているだろう
すてるか ころすか ふたつにひとつだ」

ひろったこのてで すてろというのか

だいたこのてで ころせというのか

だまりこんでいると もとじめはさらにいった
「おまえができないならば おれがころしてやろう
なかまをうしなうのは もうまっぴらだ」

わかりました じぶんで けりをつけます

おもいあしで いえじをたどる
ひとごろしのては けっきょくなにもつかまないのだ
いいきかせながら いえのとをひらいた
こどものころとかわらない くったくない すなおなめ

これいじょうはいわない あすのあさ でていけ

ひじょうなことばをたたきつける
かれは せんせい と しんじられないものをみるめで おれをみた

うるさい せんせいなんてよぶな おまえをひろったのは きまぐれだ
もうあきた でていけ すぐにでていけ

かれはだまってうつむいて へやのおくにはいった
ちいさなものおと みのまわりのものを かたづけているおと

なにもみたくない ききたくない うすいふとんに よこになる
いつしかおとはやんで かれがそっとちかくによった
せんせい とよんで ねころぶおれの そでをひく

どうか からだだけはきをつけて あなたはおれの せかいです
あなたがおれを たすけてくれた すくってくれた
おれは あなたを あいしてる せんせい あなたを あいしています

そして かれはでていった
これでいい これでよかったのだ
じぶんでいいきかせながら なみだがとまらない
ひとごろしがそだてた じゅうごもとししたの すなおなこども
いちどとしてくちにしたことはないけれど だれよりなにより あいしている

あるしごとにんの じゅうにねんのいとしいさいげつにまくをとじた さいごのいちにち

□ 530-532 □
【ある さかなうりの じゅうごやのよる】

ながやぐらしもなれてきた
もうにじゅうさんになるけどよめさんはほしくない ひとりがきらく
そうおもってたのにおかしなどうきょにんができた

うけはろうにん まだじゅうはち
けっこういいもんきていきだおれてた
さっそくきものはしちにいれてくいもんかってきて なんとなくめんどうみた

それからふたつき
いっしょにすんでてちっともいきぐるしくない
かるくなったてんびんぼうをかついで いえにかえるのがたのしみ

さいきんは きんじょのがきにてならいをおしえて
おやがげっしゃがわりにもってくるにつけやこめで めしもゆたかだ
さしむかいでばんめしくいながら ぽろっとくちからでた
「ずっとこうやってくらしていくのもわるかねぇな」

「わたしもそうおもいます」

なんだおい おれ しあわせなんじゃねぇの
にやけそうになるのをがまんしてわざといってみる
「でもいつかはしかんするんだろ
そしたらこんなこきたねぇながやなんかでてくだろ」

「しかんはのぞみません
やっとうはだめなのです」

もうだめだかおがゆるんでめしがくちからこぼれそうになる
「だらしねえな」
そんなこといわれてわらってるさむらいがあるか
こんやはじゅうごや すすきをひっこぬいてだんごをかって
おれのがらじゃねぇけどつきみでもしよう
いまけぇったぜ

せまいどまににほんざしがさんにん なんだおいどうなってんだ
「なにかおまちげぇじゃねえですかい」
そういってやったのにさむらいどもふりかえりもしねえ

「おいでください わかさま
ごじぶんのおたちばがおわかりなのですか」

「なにがたちばだ」
おくからはげしいうけのこえがする こんなこえはきいたことない
わけぇのにいつもしずかなはなしかたで おれなんかとはてんでちがってたはず

「ははうえをどくさつし わたしをやしきからおいだしたのが
だれであるかしらぬとはいわせぬ いまさらよまいごとをもうすな」

なななんだなんだ
よくわかんねぇけどこいつらはおまえのかたきなのか
「おいてめぇら おれはさんぴんとやりあうのなんざこわくねぇんだ
とっととでていきやがれ」

「ちょうにんのでるまくではない」
「このおかたはまつだいらさまけんじゅつしなんやく○○けの およつぎであられるぞ」
「ぶれいなくちはゆるしてやる そこをどけい」

けんじゅつしなんやくなんざ こうだんのなかでしかきいたことねぇよ
「おいやっとうはだめなんだろ いっちまったりしねぇだろ」
おれにむけられるあわれみのめ
「わかさまは ○○りゅう めんきょかいでんじゃ」
はなしがまるでちがう
「だましてたのかよ」
「ちがう!ちがう!」
さむらいをつきのけて うけがどまにおりてきた はだしだ
こんなときにおれ へんなこときがついてる まぬけだな
「ほんとうにけんはすてるつもりだった!」
ひっしなかおで おれのむなぐらをつかんで いまにもなきそうなうけ

「おもどりになられぬときは おとりつぶしとあいなりましょう」
「われらをはじめ いちぞくろうとう せんすうひゃくにん
わかさまの ごけつだんをおまちもうしあげております」
しんのぞうがはれつしそうだ こいつがどうするか わかるから
やっぱり ては はなれていった
うなだれて おれのかおをみないまま「おせわになりました」とひとこと

きがつくと もうだれもいなくて つきがでてた
なんだかひざのちからがぬける なんでだ
あがりかまちに ぽつんと うけのぞうり
はだしのまま いっちまった あいつもとんまだなぁ

わらったつもりが こえにならなくて せまいへやががらんどうで
はをくいしばってないている あるおとこの じゅうごやのよる

□ 537-538 □
【かたはねをもがれた てんしのいちにち】

あくまとのせんそうが ひゃくねんつづいた
くものうえ ひろいひろいくに
てんごくは もう へいわなばしょでは なくなった

てんごくにも めいかいにも いけず
しんだひとびとの たましいは たださまようばかり
むすうのたましいが ちからつきて きえた

うつくしいはね うまれたばかりのてんし
そのしなやかな かたはねを しっこくのてきに もがれてしまった
とぶことすら できないうちに

「とべないてんしなど てんしではない」
なかまにののしられ てんしはついほうされた

てんしは のこったかたはねをつかい
さまようひとびとの たましいを いやした
てんごくでも めいかいでもない ただのせかいのはて

もがれたはねの きずあとが みえなくなったころ
もうひとりのかたはねが やってきた

するどくにらむ ひとみには おおきなきずあと
そのからだじゅうのきずから ちがながれる

くろいかたはねは なにもいわず
しろいかたはねは なにもいえず
ただ むかいあっていた
なぜじぶんが ここにいるのか たがいにわかっていた
なにもない ただのせかいのはて

とつぜん くろいかたはねが たおれた
どくどくと ちがながれていく ながれていく
しっこくのはねが きずだらけのからだに かぶさりおちた

ちゆできないほど あくまはよわっていた
しは ちかい
てんしは やはりなにもいわず
のこるすべての ちからで かれをいやした
しろいはねが さいごのかがやきを はなった

あくまが めをあけたとき
てんしだった ぬけがらが そこにあった
ふと ふりかえると
しっこくのはねのとなりに うつくしいましろなはね

うまれたひに しんでいった かたはねのてんしの しあわせなけつまつ
しろとくろのはねで そらたかくとんでいった ふしぎないきものの いのちのはじまり

top  home page

【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15