あるごしゅじんさま・どれい の いちにち 1.5

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13,15 92-93 664,679 665-667

□ 13,15 □
【ある ぶっちょうづらの しようにんの いちにち】

かれは かならず かえってくる そういって まいにち えきへむかう しゅじん
なにもいわず だまって くるまいすを おす むくちな しようにん
せんそうが おわって もう どのくらい たったのだろう
しゅじんも しようにんも ずいぶん としをとった

もともと びょうじゃくな しゅじんのからだも めっきりよわって
えきで まつ じかんいがいには ずっとねたきり
ぴんと のびたせすじは かわらないのに やせて やつれた

それでも きょうも しゅじんは えきへむかう
せんじょうへ いったきりの しんゆうのかえりを まつために
しようにんは やっぱり むくちで なにもいわない
だまって むひょうじょうに くるまいすを おす

はる なつ あき ふゆ かわらない まいにち
えきで まつ しゅじんのよこに しようにんの ぶっちょうづら

しんゆうは かえってこない たよりも ない
しゅじんは よわっていく
かわらない しようにんの ぶっちょうづら

はるさめの ふるころ しゅじんの せきが ひどくなった
かれは かえってくるだろうか?
しゅじんは はじめて そうつぶやいた ひとりごとだった
(それまで わたしは いきているだろうか?)
おもどりになるでしょう

いま ささやいたのは だれだろう しゅじんは くびをめぐらす
しようにんは ぶっちょうづらで こちらを みもしない
でも たしかに それは めったにきかれない しようにんの こえだった

やくそくは まもられるかただと ぞんじております

きょうは えきには わたくしが そういって しようにんは でていく
ねどこから みおくりながら なぜか しゅじんは なみだした
じぶんが ひどく しあわせなように おもえて なけてしかたなかった
そうおもうことで しんゆうに すまないと おもいながらも
いきて いるなら きみも どうか しあわせであるように そういのった

まもなく さくらのさきみだれるなか しゅじんは やすらかに せいをおえた
そうぎのあと もふくのかくしから ふるぼけた くろいふちどりの てがみを とりだし
じっとながめてから ゆっくりとちぎって さくらふぶきに まぎらす
かくしとおし まもりとおした ぶっちょうづらの しようにんの しずかなおわりのひ

□ 92-93 □
【ある しょうねん せいどれいうけの いちにち】

ぼくが このおやしきにきてから やくひとつき
ほぼ まいばん だんなさまに あいされるひび
それがきょう めがさめたら おきあがれない
あまたがいたい からだがだるい

でかけた だんなさまには うまくかくせたが だんなさまの ひしょには きづかれた
『かろうと ねぶそく じゅうぶん すいみんをとって あんせいにしてること』
おいしゃに みせられて くすりと おかゆ ひえぴたしーとに こおりまくら
だんなさまが つけてくれた かていきょうしの じゅぎょうにも でられない
ゆっくりねてくださいと ひしょの ちいさなこえ

てんじょうをみながら ぼーっとする
だんなさまの やくにたたないぼく いるいみがない
はやくなおさないと なおらないと だんなさまの おかえりまでに

めがさめたら へやのなかは おれんじいろ
ゆうがたなのに ぜんぜんきぶんが よくなってない どうしよう
くるまの とまるおと ひしょと だんなさまの こえ
ちかづいてくる あしおと それでも おきあがれない ぼく

べっどのそばに だんなさま
かおをみたら なみだがでてきた ごめんなさい
どれどれ といって もうふごと だきあげられて めがまわる
『ちょっとぐあいが わるいくらいで なくなんてなぁ』
だんなさまが わらってるので びっくりした

いつもは ぼくを ねかさないほどの だんなさまなのに
おもいきって くびにだきついてみた
そしたら だんなさまに ぎゅうっと だきしめられた
だんなさまの おおきなてが ぼくのせなかを さすっている
ゆっくり べっどに もどされた
いつもとは ぜんぜんちがう そっとした きす
『きにするな ゆっくり おやすみ』

そのきすで ますます ぼくのなみだは とまらない
なぜだか じぶんでも わからない
いつも だんなさまに へとへとに されてるのに
いまはじめて だんなさまに いってほしくないと おもってる

ひしょの むいてくれた りんごをたべながら
だんなさまに こいしてしまったかもしれないことに きづきそうな
ある しょうねん せいどれい うけの いちにち

□ 664 □
【ある だんなの いちにち】

うでのなかでぐったりうごかなくなった どれいうけ
きょうもまた きがついたら こうなってしまってた
もっとやさしく だいてやろうとおもうのに
おもうさまだきしめるには しょうねんのからだはきゃしゃすぎる

よごしたからだを そっとつつんで
のぞきこんだら すこしつらそうなしろいかお
たおるでふいて くるんでやったら むなもとにはいりこんでくる
めをとじたまま たいおんをさがしてくる ほそいうで

らんぼうにだいても つらくてなかせても わかってるのかどうなのか
このこがほんとにほしいのは
ひとのはだのあったかい ぬくもりなのかも と
それをあげられるのが じぶんだったとしたら せけんでいうにはゆがんだあいでも
いっしょうずっとあたえてやりたいと
そうおもいはじめてるじぶんにきづいて それがしあわせなきぶんだということにもきづいて
ちいさなねがおに そっとくちづける
あるだんなの ふかいよるのはじまり

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□ 679 □
【ある どれいうけの いちにち】

あさ だんなさまのうでのなかでめがさめた
だんなさまより はやくおきられるのはめずらしい
このすきに ちかくでよく かおをみとこう

ぼくはおかねでかわれてきた このひとに
このひとのしょゆうぶつ おもちゃ
このひとに どんなひどいことをされても このひとのもの
いまはきもちよさそうにねむってる おおきな このひとがぼくにすることは
つらくていつも あさまでおきていられない
きのうもいつねむったか じぶんでおぼえてない

すこしうごいたら だんなさまのてが かたにきた
だんなさまのうでまくら
あったかい
ねむってるのに くびをなでてくるおおきなて
ゆうべは しにそうとおもったけど
いまのぼくは このてで とけてしまいそう
くびねっこに かおをうめたら はんたいのてが せなかにきた

このひとは ほんとのところ ぼくをどうおもってるのかな
ぼくは このひとを ど… … …

おおきなてのなかで にどねしてしまった あるどれいうけの ねむいあさ

□ 665-667 □
【ある かたおもいのおとこの いちにち】

おはよう
おれは せまくてくらいところで せなかをむけているあなたに
やさしく こえをかける

いってくるよ
あさめし つくったから たべてね
ここにおいておくから

あなたは いつものように へんじをしない
そしておれは あなたをひとりのこして
かいしゃへいく

まいにち あなたのことを かんがえている
なにをいっても どんなことをしても
あなたは おれを すきになってはくれない

おとこと つきあうなんて かんがえられませんか
そうきいたとき あなたはわらって
すきになってしまったら おとこかおんなかなんて
どうでもいいんじゃない といったけど
あなたの れんあいたいしょうに
おれは はいっていなかったんだね

そんなことも わからなかったから
あなたにきにいられようと ひっしになった
いろんなものをあげたよね
あなたのたのみは なんでもきいたよね
そうしたら いつかあなたは おれをみてくれると
おもっていた

すこしはおれを すきになってくれたと
おもったから そっとだきしめて きすしようとしたら
いきなり つきとばされて つめたいこえで
きょひされた

それでも あなたのたのみごとは ことわれない
なさけないおれ

あんなところに いかなければよかった
いざかやで とつぜんきこえてきた あなたのこえ
おれのはなしを している

「あいつ おれのこと つけまわしてさ きもちわるいんだよ」
「へぇー あいつって ほもだったの わかんなかったな」
「まちがっても おまえだけは せまられないだろうな」

げらげらと ひびく わらいごえをききながら
おれは そっと  みせをでた

あなたが おれのことを かんがえてくれないなら
おれも あなたのことを かんがえなくて いいんだね

なにが ひつようなんだろうか
あなたを おれのものに するために
どあの かぎを かえなければ
そとからしか あけられないように
あなたににあう くびわも よういしてあげよう
おそろいの あしかせも
それとも あなたのすきなおかねで
べっどを つくってあげようか

せまいところも くらいところも
きらいだって いってたから
あなたを ちいさなへやに おしこめて
あなたのからだを すきなだけ あいぶする

へやのとを しめようとすると
「おねがい ここからだして」と なきながら あなたがいう
そのこえが ききたい

ごめんなさい
もうすぐ じゆうにしてあげます
だから いまだけ あなたのからだを
だきしめて ねむらせてください

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