□ 13,15 □
【ある ぶっちょうづらの しようにんの いちにち】
かれは かならず かえってくる そういって まいにち えきへむかう しゅじん
なにもいわず だまって くるまいすを おす むくちな しようにん
せんそうが おわって もう どのくらい たったのだろう
しゅじんも しようにんも ずいぶん としをとった
↓
もともと びょうじゃくな しゅじんのからだも めっきりよわって
えきで まつ じかんいがいには ずっとねたきり
ぴんと のびたせすじは かわらないのに やせて やつれた
↓
それでも きょうも しゅじんは えきへむかう
せんじょうへ いったきりの しんゆうのかえりを まつために
しようにんは やっぱり むくちで なにもいわない
だまって むひょうじょうに くるまいすを おす
↓
はる なつ あき ふゆ かわらない まいにち
えきで まつ しゅじんのよこに しようにんの ぶっちょうづら
↓
しんゆうは かえってこない たよりも ない
しゅじんは よわっていく
かわらない しようにんの ぶっちょうづら
↓
はるさめの ふるころ しゅじんの せきが ひどくなった
かれは かえってくるだろうか?
しゅじんは はじめて そうつぶやいた ひとりごとだった
(それまで わたしは いきているだろうか?)
おもどりになるでしょう
↓
いま ささやいたのは だれだろう しゅじんは くびをめぐらす
しようにんは ぶっちょうづらで こちらを みもしない
でも たしかに それは めったにきかれない しようにんの こえだった
↓
やくそくは まもられるかただと ぞんじております
↓
きょうは えきには わたくしが そういって しようにんは でていく
ねどこから みおくりながら なぜか しゅじんは なみだした
じぶんが ひどく しあわせなように おもえて なけてしかたなかった
そうおもうことで しんゆうに すまないと おもいながらも
いきて いるなら きみも どうか しあわせであるように そういのった
↓
まもなく さくらのさきみだれるなか しゅじんは やすらかに せいをおえた
そうぎのあと もふくのかくしから ふるぼけた くろいふちどりの てがみを とりだし
じっとながめてから ゆっくりとちぎって さくらふぶきに まぎらす
かくしとおし まもりとおした ぶっちょうづらの しようにんの しずかなおわりのひ
□ 92-93 □
【ある しょうねん せいどれいうけの いちにち】
ぼくが このおやしきにきてから やくひとつき
ほぼ まいばん だんなさまに あいされるひび
それがきょう めがさめたら おきあがれない
あまたがいたい からだがだるい
↓
でかけた だんなさまには うまくかくせたが だんなさまの ひしょには きづかれた
『かろうと ねぶそく じゅうぶん すいみんをとって あんせいにしてること』
おいしゃに みせられて くすりと おかゆ ひえぴたしーとに こおりまくら
だんなさまが つけてくれた かていきょうしの じゅぎょうにも でられない
ゆっくりねてくださいと ひしょの ちいさなこえ
↓
てんじょうをみながら ぼーっとする
だんなさまの やくにたたないぼく いるいみがない
はやくなおさないと なおらないと だんなさまの おかえりまでに
↓
めがさめたら へやのなかは おれんじいろ
ゆうがたなのに ぜんぜんきぶんが よくなってない どうしよう
くるまの とまるおと ひしょと だんなさまの こえ
ちかづいてくる あしおと それでも おきあがれない ぼく
↓
べっどのそばに だんなさま
かおをみたら なみだがでてきた ごめんなさい
どれどれ といって もうふごと だきあげられて めがまわる
『ちょっとぐあいが わるいくらいで なくなんてなぁ』
だんなさまが わらってるので びっくりした
↓
いつもは ぼくを ねかさないほどの だんなさまなのに
おもいきって くびにだきついてみた
そしたら だんなさまに ぎゅうっと だきしめられた
だんなさまの おおきなてが ぼくのせなかを さすっている
ゆっくり べっどに もどされた
いつもとは ぜんぜんちがう そっとした きす
『きにするな ゆっくり おやすみ』
↓
そのきすで ますます ぼくのなみだは とまらない
なぜだか じぶんでも わからない
いつも だんなさまに へとへとに されてるのに
いまはじめて だんなさまに いってほしくないと おもってる
↓
ひしょの むいてくれた りんごをたべながら
だんなさまに こいしてしまったかもしれないことに きづきそうな
ある しょうねん せいどれい うけの いちにち
□ 664 □
【ある だんなの いちにち】
うでのなかでぐったりうごかなくなった どれいうけ
きょうもまた きがついたら こうなってしまってた
もっとやさしく だいてやろうとおもうのに
おもうさまだきしめるには しょうねんのからだはきゃしゃすぎる
↓
よごしたからだを そっとつつんで
のぞきこんだら すこしつらそうなしろいかお
たおるでふいて くるんでやったら むなもとにはいりこんでくる
めをとじたまま たいおんをさがしてくる ほそいうで
↓
らんぼうにだいても つらくてなかせても わかってるのかどうなのか
このこがほんとにほしいのは
ひとのはだのあったかい ぬくもりなのかも と
それをあげられるのが じぶんだったとしたら せけんでいうにはゆがんだあいでも
いっしょうずっとあたえてやりたいと
そうおもいはじめてるじぶんにきづいて それがしあわせなきぶんだということにもきづいて
ちいさなねがおに そっとくちづける
あるだんなの ふかいよるのはじまり
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□ 679 □
【ある どれいうけの いちにち】
あさ だんなさまのうでのなかでめがさめた
だんなさまより はやくおきられるのはめずらしい
このすきに ちかくでよく かおをみとこう
↓
ぼくはおかねでかわれてきた このひとに
このひとのしょゆうぶつ おもちゃ
このひとに どんなひどいことをされても このひとのもの
いまはきもちよさそうにねむってる おおきな このひとがぼくにすることは
つらくていつも あさまでおきていられない
きのうもいつねむったか じぶんでおぼえてない
↓
すこしうごいたら だんなさまのてが かたにきた
だんなさまのうでまくら
あったかい
ねむってるのに くびをなでてくるおおきなて
ゆうべは しにそうとおもったけど
いまのぼくは このてで とけてしまいそう
くびねっこに かおをうめたら はんたいのてが せなかにきた
↓
このひとは ほんとのところ ぼくをどうおもってるのかな
ぼくは このひとを ど… … …
↓
おおきなてのなかで にどねしてしまった あるどれいうけの ねむいあさ
□ 665-667 □
【ある かたおもいのおとこの いちにち】
おはよう
おれは せまくてくらいところで せなかをむけているあなたに
やさしく こえをかける
↓
いってくるよ
あさめし つくったから たべてね
ここにおいておくから
↓
あなたは いつものように へんじをしない
そしておれは あなたをひとりのこして
かいしゃへいく
↓
まいにち あなたのことを かんがえている
なにをいっても どんなことをしても
あなたは おれを すきになってはくれない
↓
おとこと つきあうなんて かんがえられませんか
そうきいたとき あなたはわらって
すきになってしまったら おとこかおんなかなんて
どうでもいいんじゃない といったけど
あなたの れんあいたいしょうに
おれは はいっていなかったんだね
↓
そんなことも わからなかったから
あなたにきにいられようと ひっしになった
いろんなものをあげたよね
あなたのたのみは なんでもきいたよね
そうしたら いつかあなたは おれをみてくれると
おもっていた
↓
すこしはおれを すきになってくれたと
おもったから そっとだきしめて きすしようとしたら
いきなり つきとばされて つめたいこえで
きょひされた
↓
それでも あなたのたのみごとは ことわれない
なさけないおれ
↓
あんなところに いかなければよかった
いざかやで とつぜんきこえてきた あなたのこえ
おれのはなしを している
↓
「あいつ おれのこと つけまわしてさ きもちわるいんだよ」
「へぇー あいつって ほもだったの わかんなかったな」
「まちがっても おまえだけは せまられないだろうな」
↓
げらげらと ひびく わらいごえをききながら
おれは そっと みせをでた
↓
あなたが おれのことを かんがえてくれないなら
おれも あなたのことを かんがえなくて いいんだね
↓
なにが ひつようなんだろうか
あなたを おれのものに するために
どあの かぎを かえなければ
そとからしか あけられないように
あなたににあう くびわも よういしてあげよう
おそろいの あしかせも
それとも あなたのすきなおかねで
べっどを つくってあげようか
↓
せまいところも くらいところも
きらいだって いってたから
あなたを ちいさなへやに おしこめて
あなたのからだを すきなだけ あいぶする
↓
へやのとを しめようとすると
「おねがい ここからだして」と なきながら あなたがいう
そのこえが ききたい
↓
ごめんなさい
もうすぐ じゆうにしてあげます
だから いまだけ あなたのからだを
だきしめて ねむらせてください
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