あるかぞく の いちにち 1.5

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97-99 157 510-511 717 751-756  ■  みっかよりながいにっき / 76-77…

□ 97-99 □
【ある「ぼく」のいちにち】

まよなか ぼくは いえをでた
おとうさんと けんかしたから

おとうさんは ぼくのほんとのおとうさんじゃない
3ねんまえ おかあさんがにっこりして
「これからかれといっしょにくらすのよ なかよくしてね」
といった そのひから そのわかいおとこのひとは おとうさんになった

そのひとは めに くしゃっとしわをよせて いつもにこにことしている
うまれたとき ぼくのほんとのおとうさんは もういなかったから
おとなのおとこのひとが いっしょにすむということ そうぞうできなかった
おおきなおおきな かたいてのひらが
ぼくのあたまを なでたときは おもわず せすじがびっくりしたみたい

おとうさんは のっぽだから かたぐるまがたのしい
にちようびは こうえんで3にんで あそんだ
ずっとそうやって すごしていくんだと おもっていた

ぼくはいま まっくらなみちを とぼとぼとあるいてる
からだじゅう おせんこうの つーんとしたにおい
めったにきない まっくろな ようふく

おかあさんが いなくなった どこにもいなくなった
みんな ないていた
「おじいちゃんと おなじびょうきを わずらって・・・」
おばあちゃん なきながら ぼくをだきしめていた

おとうさん ぐっとにぎりしめた こぶし
ぼくにおおきなせなかをむけて ふるえてた
ここはぼくのいえなのに なんだか べつのせかいにきてしまったみたい
ここは ぼくたちのいえだよね?ぼくと、おかあさんと、おとうさんのいえだよね?

ぼくたち3にん いつもごはんをたべていた わしつ
しらないひとが ぞろぞろあつまってきて なにかはなしてる
おとうさん みんなのしせんをあびて めをふせている
「このいえは うってしまったほうがいい」
「きみは もともと たにんだし まだわかいんだから」
「あのこのことは おばあちゃんが めんどうをみるから」
おとうさん なにもいわなかった なにも

わかったのは おとうさんとはなればなれに なるかもしれないということ
そして おとうさんが なんにも いおうとしないこと
ぼくのこころが かーっとまっかにそまった
てあしが ぶるぶる ふるえた
へやのなかから おとうさんが ぼくに きづいた

でてきたおとうさんに ぼくはさけんだ
なんで?なんでおとうさんはなにもいわないの?
おとうさんの こまったような なきそうなかお
ぼくは ありったけのちからをこめて おとうさんのおなかを ぐーでたたいた
びくともしない おとうさん くやしくてかなしくて いえをとびだした

とぼとぼと よみちをあるきつづけて つかれてきたころ
いつものこうえんが めにはいった
おかあさんと、おとうさんと、ぼくと いつも3にん いっしょだった
ぼく おとうさんのこと すきだよ なんで これからも いっしょにすんじゃいけないの?
じゃんぐるじむに のぼってみる ひゅううと よるのさむいかぜ

とつぜん たったったっとあしおと みおろせば おおきなひとかげ
おとうさんが いきをきらして はしってきた
そしていきなり ぼくにむかって じゃんぐるじむを のぼりはじめた

うれしいのと くやしいのと ぐちゃぐちゃなきもちで ぼくはおもわずにげた
にげるぼく おうおとうさん どっちもひっし
がっしと おとうさんのおおきなてが ぼくをつかんだ
ふたりとも ばらんすを うしない ては あせですべって ぐらり
したの すなばに たおれこんだ

あおむけになったおとうさん うでにちからをこめて ぼくをはなそうとしない
「ひとつだけ おしえてほしいんだ」
もがくぼくに ぽつりといった かすれたこえ
「おとうさんな、これからも おまえの おとうさんで いてもいいか」

ぽろぽろと なみだをながして だきついた うなずいた
「おとうさんは これからもぼくのおとうさんだ」
おとうさんも めにしわをよせてわらいながら すなだらけでないていた
3ねんたって ほんとうのおとうさんをみつけた ほしぞらのうつくしい「ぼく」のまよなか
あさはすぐそこ

□ 157 □
【ある ぎりの むすこの いちにち】

ははが なくなったのは ぼくがうまれて まだ まもないころ
うつくしいひとだったよ と とうさんは いつでもゆめみるように ははをかたる
ほんとうのちちは いまどこにいるのか わからない
とうさんは ははを さいごまで みとってくれた あかのたにん

ははを すきだったからといって ぼくを そだてるぎりが あるわけじゃないのに
とうさんは そういうと いつでも かなしそうな かおをする
とうさんが きらいかい と そんなふうに きかないでほしい
やさしいとうさん ぼくをだいじにそだててくれた だいじなひと
とうさんを きらいだなんて おもったことは いちどもないよ

…いちども?ほんとうに そうだろうか

とうさんは ゆめみるような ひとみで ぼくをみる
ははを かさねて いとおしそうに ぼくをみる

どんどん かあさんに にていくね と しあわせそうに つぶやく

ねえとうさん ほんとうをいうと ときどき ぼくは
じぶんで かおを つぶしてしまいたくなる
そのとき あなたは どんなかおをするんだろう

そう かんがえて うつむいて くすりとわらう ぼくに
とうさんがわらいかける どうした なにか おもしろいことでもあったかい

いいえ とうさん なんでもないよ(だいじょうぶ あなたを かなせませたり しないよ)
くるうような しょうどうを おさえ ははに にせたえがおをつくって
ぎりぎりの ばらんすを ひっしにたもつ ある ぎりのむすこの いちにち

□ 510-511 □
【あるふたごのかたわれのいちにち】

「だいてくれ」
いつもとちがってあなたはかおをあげなかった
たぶんおれはいつかそういわれることをしっていたのに
らんぼうで、なげやりで、でもせつじつだったことば
「おれはもう、げんかいなんだ。…たのむ」
「わかっているんですか、そのことばのいみを」
「りくつじゃない。ほしい。おまえのからだがほしい」



あにににたじぶんがにくい
あにとあにになかったすべてがにくい
しっとではたりないこのかんじょう
てあらにあつかうのをゆるしてほしい
いてもたってもいられぬげきじょうにまかせて
たいえきのすべてをうばいつくすように
ののしりながらあなたをくみしいた
にかげつまえのよる
それからもおもいだしたようにあなたはおれをもとめる
れいがいなくおれはらんぼうにだいて
でもそれがあににたあいぶ
もうゆるして、といいながらあにのなをよび
おいうちをかけるようによがってすすりなくそのあえぎごえ
れいがいなくおれはいかりにかられ
はげしいせっくすをきぜつするまでつづける



あいしているといいたい
なくあなたをやさしくだきしめたい
ためらうことなんてもうなにもないはずなのに
がまんしなければならないこともないのに
ほんとうは
しぬほどあなたが
いとしいのに

□ 717 □
【かなわないこいをした 義弟の いちにち】

はじめてあったのは ちちおやが なくなったひ
めったに かえってこないあねが かれしを つれてきた

せきはいれてある っていっていた
もうじき けっこんするともきいた
ははおやは おこりながらも ないていた
おれは ふくざつな きもちだった

あねの かれしは かっこよかった

すらっとしていて かおがととのっていて
あねには もったいないほど やさしそうな ひとだった

「はじめまして」
みためどおりの やさしいこえ
「はじめまして」
かっこわるいくらいの ふるえたこえ

きょうは かなしいことが かさなった
あねの かれしに こいを してしまった

□ 751-756 □
【すらむに いきる ある きょうだいたちのはなし】

あるひ すえっこのあかんぼが びょうきになった かぜこじらせたのか
あにきがいちにちはしりまわって くすりとみるくをてにいれてきた
つぎのひすえっこのねつはひいていた

あにきはすごい ふつう すらむでびょうきになったあかんぼは しぬ
あにきはおとうとたすけた
かせぎがしらのあにきは いちにちの ぜんいんのめしだいのうち はちわりがた かせいでくる
「おれはじゅういっさいで ちょうなんだから いちばんできるのあたりまえ
 おまえには じゅうねんはええ」 っていつもいう
ずるがしこいあにきとちがって おれはうでっぷししか じまんできない たったふたつちがいなのに
けんかにつよくても かせげなかったらいみがない
おれ このままだったらどうしよう とおもうと こわい こわい こわい

どうしても たくさん かせげるようになりたくて しちやにぬすみにはいった
ここのおやじは いじわるでこわい
おれたち すらむのひとから だいじなものを やすくかいたたいて
もんくいったら ころされるまで なぐられたやつが なんにんもいた
でも しょうにんたちにとりいってるから すらむではいちばんおかねもち

たくさんある さつたばから それぞれ いちまいずつだけ ぬすんでく
こうすると ぬすまれたことじたい きづかないばかがいる あにきからならったほうほう

あ とってるとちゅうでみつかった おれってほんとばか
にげたけどおいつかれて しこたまなぐられた
でもおれがきょうだいで いちばんがんじょうだから おれでよかった

めがさめたらいえだった からだじゅう ものすごくいたかった
よかった いきてた
でもあにきにだまって あぶないことしたから おこられるかもしれない
そうおもってたら あにきがあわただしくへやにとびこんできて たんすから いもうとのぱんつもってった
いったいなんなんだろう
あにき ぬすみはゆるしても いもうとに うり とかは ぜったいするなって いつもうるさいのに
とちゅうで おれがおきてることにきづいて いつもわるくちしかいわないくちが ほっとゆるんでいた
ごめんな あにき

ゆうがた あにきが ほうたいと くすりと しちゅーのざいりょうひとそろえ てにいれてきた
ものすごいかせぎだ しんじられない おれのためなんだろうな
でもあにき せまいへやのなか ちっともおれのちかくにきてくれない
はなしもしない いえのそとばかりにいる

げんきになって まちへでて いちばんびっくりしたのは しちやのおやじが しんでいたことだった
よなか よっぱらってるときに とつぜんいえのそとへとびだしてって それっきり
よくあさ おんなのこのぱんつもって あたまを かくざいでなぐられて しんでるのがみつかった

いえのひとが さわがなかったら けいさつは すらむなんて すぐにむしする
おやじのかぞくは せけんていをきにして それいじょう けいさつにそうさはさせなかった
あのおやじのことだから きっとおんなのこおそって かえりうちにあったんだと みんないっていたからだ

あにきだ とおもった
おれとちがって おやじがよっぱらってるときを みはからってはいったんだ
たぶんみつかって でもよっぱらいだから かくざいでなぐって ころせてしまったんだろう
ぱんつはかもふらーじゅ そういえば いもうとにあやまって あたらしいぱんつ かってきてたな
どうしよう どうしよう ごめんなさい ごめんなさい
おれ あにきを ひとごろしにしてしまった

よる いえのそとであにきをみつけた
ごめん といいかけたら どうじにあにきも わりぃといった
いもうとたちは つきっきりだったのに おれはそばにいなくて わるかったって そっぽむきながらいった
でも すえっこがかぜひいたとき ほんとはあにきのがうつったんだそうだ
あにきはおっきいから かぜくらいへいきだったけど すえっこはそうじゃなかった
それにきづかなかった おればかだったっていった
いまもちょっとかぜつづいてるから よわってるおれに ちかづきたくなかったんだって

ばかだな あにきは おれよりかしこいけど ばかかもしれない
だから あにきがひところしたのを おれはしらないふりすることにした
あにきがばかなら だまされてくれる
あにきはひとなんか ころしてないよ

みっかご あにきが いえのそとで かべにもたれて ぐったりしてるのをみつけた
ふくをはいだら からだじゅう けがのあとだらけで みぎうでと ひだりあしのふくらはぎが はしょうふうおこしてた
しちやのおやじから ぬすんだときのだろう
おまけに いきもくるしそうだった すごいねつだった
それでおれは ようやくはじめてきがついた
すえっこがかぜひいたのは ずっとまえで それから おれがけがするまで かぜがつづいてた
そんなかぜ ただのかぜで すむわけがない
さいきん いつもよりも すこしたくさん たべものがあったきがしたけど
かぜ がまんししてたあにきが すこししか たべられなかったからだったんだ
わるくちだけは ずっと いっちょまえで だまされた
けさも おとうとのだいじな えのぐせっと うっちまうぞって おどして からかって わらってたのに
ばかだ やっぱりおれのほうが ばかだった

みめのいい いもうとたちが ものごいして おれもぬすみまわって がんばった
でも くすりだいどころか ぜんいんの めしだいにもなりはしなかった
いつも あにきにたよってたから あにきがたおれたら みんなうえてしぬしかない
でもそれよりも おれはくやしかった かなしかった
おやじと おふくろに すてられてから
こんなになるまで おれたちのために がんばってくれたあにき
なのに おれは そんなあにきが たおれたのに まんぞくにめしも くわせてやれない
そうだ おれはずっと いつかこうなるんじゃないかと こわかったんだ
ずっと ずっと こわかったんだ

おとうとは えのぐせっと うっていいっていう でもそれじゃぜんぜんたりない
いちばんおっきい おとこまさりのいもうとが もういいよ うり にいくっていう
いっつもきがつよくて どうしてうりやっちゃいけないのかって いつもあにきとけんかしてた
いまならわかる おまえも いつかこうなったらって ずっと こわかったんだな
あにきはかしこい いもうとがうりをやったら かくしていても きづくだろう かなしむだろう
だが あにきがしぬよりましだ
でも あといちにちだけ いもうとにまってもらうことにした
おれがなんとか ぬすみでかせげないかと ちゃんすを いちにちだけもらった
いちにちで あっというまによわってったあにきは
ねたまま めをさまさなくなってる たぶん しにかけてる それいじょうは まてない

はしりまわって でもどこも ぬすむどころか しんにゅうさえできないのは いつものことで
はなまちのほうがきになって ついつい そのちかくをうろうろしてしまった
あした いもうとはここにたつことになるのだろうか

そのとき へんなおとこのひとにはなしかけられて びっくりした
おれを かうっていってる おとこのこなのに そっちのがいいっていってる
へんなひとだった でも らっきーかもしれないとおもった
おれおとこだから うりやっても あにき きづかないかもしれない だって もうてんだ
こわかったけど あにきがしぬのにくらべたら あにきがいままでしてくれたことにくらべたら
ぜんぜん かんたんなことだとおもった
はずかしかった こわかった でも どうにかこうにか ひめいはあげずにすんだ
おれは おとこのひとに かわれてひとばんすごした

よくあさ もらったかねで あにきをびょういんにたたきこんだ
すらむのいしゃは あにきとおなじくらいくちがわるくて こんな しにかけ もってくんなと おこったけど
ねないでしゅじゅつしてくれた はいえんと はしょうふうと えいようしっちょうの とりぷるこんぼ
おれでなきゃ たすけられなかったぜって よくあさいばってた うれしかった
めをさましたあにきと いしゃはにたものどうしで よくけんかしたけど あにきはかんじゃなので そのじてんでまけ
おれは こういしょうで めがわるくなったあにきに のこったかねで めがねぷれぜんとした
がらのわるいあにきには ぜんぜんにあわないきがしたけど いがいとにあってた
たいいんしてしばらく あにきのめがねをかくすあそびが きょうだいのあいだではやった

ほんとうは めがさめて すぐにきづいたんだとおもう おれのしたこと
ほんとうに あにきってあたまいいから
でもあにきはだまってる おれもあにきのつみを だまってる
そのせいか あにきは きたないしごとをするとき
いつもおれをいっしょにつれてってくれるようになった
かなしそうだったけど うれしかった

あれから ななねんたって あにきはしょっちゅう
「おまえ そろそろおんなくらいつくれよ とびきりのいいおんな」っていう
たぶん おれのからだを うりものにしちゃったのを きにして
こいだけは ぜったいしあわせなものにしてやるって おもってるんだろうな
ありがとう でもとうぶん よていないよ

とりあえず おれらを「ぜんいんがっこうにかよわせて あとあとらくさせてもらうんだ」
っていうあにきを とめるのでていっぱい
まったく いちばんあたまいいし としうえなんだから
いちばんがっこうに いかなきゃいけないのは あにきだろ もうおそいけど
でも おれは あにきのとなりで あにきのたりないうでっぷしを
おぎなうのが いちばんしょうにあってるんだ
そういったら あにきはおれを「ばーか」っていった
いいだろ ばかで かんがえるのはあにきのしごと
な そうだろ?

おもいでをふりかえる
ある すらむにいきる きょうだいの じなんのいちにち

■ 76-77… ■ 

どくりつしています。
こちらへどうぞ。

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