ある??? の いちにち 1.5

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53-56 66-69 79-80 192-194 415-417 559-561 633-635 649 721 750  ■  みっかよりながいにっき / 387-388…

□ 53-56 □
【じゃがいも(だんしゃく)が ちじょうにでたひ】

ぼくがまだ とてもちいさくて
ようやくかたちができあがったばかりのころのはなし
ぼくは とてもあたたかいものにつつまれていて
まいにち うとうとねむっていたんだ

からだにながれこんでくる たくさんのえいよう
きもちがよくて めをとじたまま
そとのせかいからきこえてくるこえに みみをすます
「はやくおおきくなってね はやくきみにあいたいよ」

そのやさしいこえがだいすきで
いつもしあわせなきもちで そのおとをきいていたんだ
はやくそとにでて あいたいな あいたいよ
きもちよくねむりながら ずっとおもっていたよ そのこえのもちぬしのことを

すこしだけおおきくなって からだもしっかりしてきて
となりに ぼくとおなじくらいのおおきさの だれかがいることにきがついて
ときどきおはなししていたんだ はやくそとにでたいねって
ぼくたちに やさしくはなしかけてくれる あのこえにあいたいねって

そして ぼくたちのからだは どんどんおおきくなっていって
とてもうれしかったんだ おおきくなったら あのこえにあえるから
もうすぐそとにでられるかな? まだかなまだかな?ってずっとはなしていた
もっとたくさん えいようがほしいねって はなしていたんだ

そうしたらね
ぼくたちのそのおもいが とどいてしまったみたい
ぼくたちは はやくおおきくなりたかった
あのやさしいこえに あいたかったから

あるひ いかついこえがきこえてきた
「そろそろ このはな すこしつんでしまわなくちゃなー。
 じゃがいもはなー、はながさいていると、はなにえいようをとられちまうんだよ。
 つちのしたのじゃがいもにえいようをあたえるにはさ、はなをつまなくちゃいけねえんだ」

「こんなにきれいなんですけどねー、じゃがいものはな」
「ああ、どっかのくにのひめさんが、かみかざりにしたっつーくらいだからな」
「それでも、つまなくてはならないんですか?」
「ああ、じゃがいもをおおきくするためだ」

ぷち
そのおとがきこえたとたん
あのやさしいこえが きこえなくなったんだ
みみをすましても よびかけても きこえなくなってしまったんだ

…………?
ねえねえ どこにいっちゃったの?
いつもぼくたちに やさしくかたりかけてくれるのに
ねえ なんで きこえないの?
どうして きょうはなにもはなしてくれないの?

そのひから あのこえはきこえなくなってしまったんだ
ぼくたちは どうして?どうして?とまいにちないた
だけど ぼくたちのからだは どんどんおおきくなっていった
くきから たくさんのえいようがながれてきた あのこえのぶんまで

ぼくたちじゃがいもは あたたかいつちのなかで
ずっときもちよくねむっているだけだったんだ
ときどき つちのうえからきこえる やさしいはなのこえをききながら
だけどもう きこえない
ぼくたちのせいで あのこえはなくなった

どんどんおおきくなって
いよいよつちからそとにでるひ
ぼくたちはまず あのこえのぬしをさがした
けれど どこにもいなかった かなしかった
だけどね あのね まわりには たくさんおともだちがいたよ

おともだちみんなで かごにあつめられて はじめてくるまにのったよ
そのとき うんてんせきに かざられていたしゃしん
うすむらさきいろと うつくしいしろのはな
ちいさくて やさしそうな
とてもやさしそうないろをしたはなが かざられていたんだ

ああ きっと あのこえだ
そうおもったら なんだか めがでてしまいそうになった
でも そのとき となりにいたこが からだをよせてくれた
あのこえだよね そうだよね って

こんなにおおきくなったんだよって
ぼくたちのすがたをみせることはできなかったけれど
やさしいこえは ずっとずっと わすれないからね
あなたがちじょうからとどけてくれたこえは わすれないからね

またいつか ぼくたちが たねいもになって つちにかえったら
そのときは きれいなはなをさかせてね
こどもたちに やさしいこえをきかせてね
やくそくだよ ぜったいだよ
まってるからね

やさしくうつくしい じゃがいものはな

□ 66-69 □
【みずにつかってきょうでいっしゅうかんめの ぼうだらのいちにち】

ひたひたとぜんしんにみずがしみこんでくるのをかんじながら
あいつのことをかんがえていた

あいつにはじめてあったのはさんびゃくねんまえ
もうそんなになるんだな となつかしくなる

わたしのこきょうは つめたくあれくるううみ
りくにひきあげられたわたしは
いえのなかでみそじたてのしるになって
しあわせなかぞくをあたためている なかまたちをよこめに
はいいろのそらのしたで かちかちにかわいていった

あるときおおきなふねにのせられて わたしはみしらぬとちについた
こきょうとはまるでちがう なだらかなやまとしずかにながれるかわ
めをみはるほどにぎやかなおおどおりも はじめてみるものだった

やっとにおろしされて くりやのかたすみにぶらさげられたわたしだったが
みみやわらかなこのとちのことばが なんだかうそくさくおもえて
だれかにはなしかけられても ただだまりこくってしゃちほこばっていた
なんにちもなんにちも

これからどうなるのだろう
こんなとおいところで あぶらもみずけもぬけて
かさかさになったわたしを おいしくたべてくれるひとはいるんだろうか?

そんなことをやっぱりだまりこくったままかんがえていたら
したのほうから あまいこえがきこえてきたのだった

こんどあんたはんといっしょにたかれることになりました。よろしゅう」
みたことのないいもが ひらざるのうえでわらっている

いもとたかれる?
てっきりしるのみになるものだとおもっていたわたしは
おどろいてききかえした こんなにわたしはかわいてしまっているのに?

「そやからもどってもらいますのや。なんにちかかるかうちにも
わかりませんけど、そのあいだゆっくりよもやまばなしでもしましょ」

しかし わたしはそれどころではなかった
しるにはいるならともかく みずにつけられてうまみまでぬけてしまって
そのうえいもといっしょにたかれるなんて
そんなぱさぱさしたにもの だれがおいしいとおもうだろう?
たいへんなところにつれてこられてしまった
けれどなきたくなってもわたしには なみだになるようなすいぶんはのこっていない

「どないしましたん?」
えびいもがふしぎそうにみあげている
わたしはしわくちゃのからだをもっとくしゃくしゃにしてえびいもにうったえた
こんなことならふるさとでなまのままたべられたほうがよっぽどよかったと

「だいじょうぶです。このとちのおひとはかんぶつのあつかいにはなれてはる。
きっとやわらこうおいしゅうにたいてくれますよって あんしんしなはれ。
それにな、ここにはあんたはんのふるさととちごうてうみがおへん。
みんなうみのさかなは めったとたべられまへんのや。
それで あんたみたいなかんぶつのおひとをたのしみにして、
もどしてたいては みたこともないとおいうみに おもいをはせますのや。
ながいあいだかわかされて、とおいとおいきたのうみをわたって、
くりやについてからも もどるのになんにちもかかる。
あんたはんほどたのしみにまたれてるおさかなはいてまへんえ。
みょうりにつきるとおもいまへんか?」

もどるまでのあいだ わたしたちはたくさんのはなしをした
わたしのふるさとのつめたいうみのこと。ごうごうとほえるかぜのこと。
ことばはぶっきらぼうだけどこころのやさしいひとびとのこと。
すっかりこのとちのうまれのようなかおをしているえびいもが、
そせんはわたしとおなじように とおいみなみのくにからやってきたのだということも
そのときにきいた
ここになじむまでに つらいことはなかったのか?
そうきいても あいつはわらってこたえない

なのかななばんみずにつかって とうとうえびいもとたかれるひがやってきた
なべのなかでわたしは
あいつのあくで じぶんがどんどんやわらかくなっていることに おどろきをかんじ
じぶんのにかわしつで あいつのにくずれをふせいでやれることに よろこびをかんじていた
そうしてわたしたちをであわせてくれたこのちのひとびとに
こころからかんしゃしていた

じだいはかわって このとちでもなまざかながかんたんにてにはいるようになり
うみにだって すぐにいけるようになった
けれどこのふるいみやこで てをかけていもぼうをつくってくれるひとがいるかぎり
わたしたちはいつもいっしょだ

たとえ つかのまのおうせしかないとしても

もうすぐえびいもとあえるのがたのしみな あるぼうだらのいちにち

□ 79-80 □
【ある はるにれの いちにち】

わたしはなんびゃくねんもいきている「はるにれ」
たくさんのみどりのはをしげらせて しっかりとそびえるたいぼく
おかのうえにぽつんとひとり たっている

そこへたまにやってくるしょくにんのせいねん
おおがらなたいけいとはうらはらに きがちいさくやさしいせいねん
「きょうもげんきそうだな」
わたしにはなすように かれはひとりごとをつぶやく
そんなあるひ かれはぽつりとこういった

おれは ししょうのことがすきなんだ

でも きのちいさいいせいねんは そのことをこころにひめているだけ
せいねんがあんまりおもいつめためをするので わたしはかぜにそよぐ
みどりのはに かれのきもちをのせた

かれのきもちはししょうにとどいたけれど どうじにむらのひとたちにも
しられてしまった

きのちいさいかれはだまって むらをでた

わたしはじぶんのしたことをはげしくこうかいした
やさしいかれのやくにたつどころか かれをおいだしてしまった

しばらくのつきひがすぎたとき
やさしげな きれいなゆびさきのおとこがわたしのまえにあらわれた

かれのししょうだ かれがはなしていたとおりの おとこ
「なんねんかかるかわからないけど ぼくもかれがすきだから」
そうしてそのおとこはたびにでた

わたしがよけいなことをしなければ はなればなれになることはなかったのに
こうかいしてこうかいして わたしはみどりのはをしげらすことをしなくなった
たちがれてぽつんと おかのうえにたつ

さらにつきひがたって だれもたちよることのないわたしのまえに
かれはあらわれた

「こんなになっちまって みにきてやれなくてごめんな」
かれはとおいむらで いちにんまえのしょくにんになったという
ちかくのむらにようがあったので ここによったという
やさいいかれは わたしのことを ちっともうらんでいなかった
「ししょうのかおみたいけど はずかしくてかおあわせられないや」
こんなにひにちがたったのにな そういって かれは すこしかなしそうにわらった
そして かれは とおいむらへとかえっていった

ししょうのこと つたえたいけど わたしには もうみどりのは がない
どうかどうか ししょうがかれをみつけてくれますように
ふたりがあえますように
ながくいきたわたしの のこりすくないいのちのかぎりいのります

ふゆはこせないであろう ある「はるにれ」のさいごのなつのいちにち

□ 192-194 □
【ある ぎじんかだいがくの いちにち】

あるひ かえってきたら げんかんまえにひとかげ
むだにでかい しるえっと あいつしかいない

おい にちだい ひとんちのまえで なにやってんだ

めいだい おこると にちだい ふりかえる
よれよれのはくい へらっとしたえがお

ちょっと めしくいにきた なんかくわせてよ
じっけんって いがいと たいりょくつかうんだ
おれ はらへって しにそう

なに ばかいってんだ じぶんちで くえよ

にちだいのいえ まんしょんのとなり
たてもののかずは たくさんあるけど
どれも ごくふつうの ふるびた いっけんや
わざわざ めいだいのうちで たべるひつようない

だって おれんちのやつら みんなりょうりがへた
きのう どらいかれーで しぬかとおもった
おとといは はんばーがー あたためようとしたら
だいどころに こばえがとんでて やるきなくした めいだいがすんでるのは こうそうまんしょん
さいじょうかいで ながめさいこう じまんのいえ

おまえ りょうりのうでうんぬんより いえをそうじしろよ
こばえは やばいよ こばえは

あきれはてる めいだい でも にちだい きにしない

べつにいいだろ めしぐらい おまえ りょうりうまいし
おまえ わせだわせだ ばっかりいってるけど
たまには ごきんじょづきあいってやつも いいだろ

めいだい にちだいに ずぼしさされて かるいしょっく
でもなんとか かおにはださなかった

しょうがねぇなあ めにゅーに もんくは いわせないからな

めいだい どあのかぎあけて にちだいをまねきいれる
にちだい せがたかすぎて あたまぶつけた
でも とうきょうたわー みたとたんふっかつ たんじゅんすぎ

ふらいぱんとりだしながら にちだいのことばをはんすう
おれ はためには わせだちゅうにしかみえないのかと
あたまをかかえる めいだいの いちにち

□ 415-417 □
【ある じゅうにぶんのいち の いちにち】

こんげつも もうはんぶんがすぎたなあ
そんなことのんびりかんがえつつ てじゃくでさけをのんでいると
ばたばた ろうかをはしる にぎやかなおとがきこえてきた
ばたーんっと そうぞうしく とびらがひらく
と どうじに いつもほわほわわらっているかおを まっかにそめて しょうねんがとびこんできた
「ななちゃんっ ななちゃんちょっときいてっ ひどいんだよ!」
おお どうした よんさま
「いやっ それぼくじゃないから げかいのはいゆうだからっ もーまじめにきいてよーっ」
はいはい どうした どうしたんですか しがつさま
「じゅうにがさあ ひどいんだよーっ」
なんだ また ちわげんかかよ

いかにもうんざりしたかおをつくったら ちがうよ とむっすりされてしまった
つまり ずぼしってことでしょう まったくわかりやすい
「だからきいてよきいてよ じゅうにがさっ じゅうにが」
はいはい どうしたどうした こんどはなにをいわれたんだー
「おれのこと しがつばかって れんこすんだよっ」
あー そりゃひどいなあ
「ひどいよねっ おれだって すきでしがつになったわけじゃないよっ
だいたいあれは しがつがばかなわけじゃないにのさっ」
まあなあ でもおまえもまた きついこといったんだろ
「い いってないよ」
うそつけ また じゅうにがつのいみょうは しわすとかって ちょーださーいとか
くりすますのあとに おしょうがつって しゅうきょうてきに せっそうなーいとか
そういう あいつがきにしてること びしばしいったんだろ
「う い いったけど」
じゃあ おたがいさまだあな はやいとこあやまってきな

さとすようにいうと こどもっぽいかおが きゅっとゆがむ
ふわふわの うすちゃいろいかみが やわらかくゆれた
おおお しまった なかせてしまったよ おーいしがつ しがつくーん

どうなぐさめるべきか と なきべそかいてるのをめのまえに しあんしていると
ばんっとまた らんぼうにとびらがあいた おや じゅうにがつだ
ふきげんそうなかおで ずかずかとなからはいってきて
おれにいちべつだけむけてから さっさとしがつのうでをつかむ
おどろいたしがつがかたまってるのをいいことに そのままぐいぐいひっぱっていく

これからでーとかい かるくこえをかけると 「そう」 とふきげんなこえで みじかくかえる
いってらっしゃい ひらひらてをふって とまどったかおのしがつに かためをつぶってみせる
こどもっぽいかおが ふわっとはずかしそうにわらって ちょこちょことじゅうにがつのあとを ついていった

いいねえ せいしゅんやねえ おっさんくさいことをかんがえながら また ちびちびとさけをのむ
つまみがほしいな とおもっていると とんとん と とびらをたたくおと
おんや だれだ また しがつか じゅうにがつか
とびらをあけると さかびんと ひものをかたてに どうりょうが へらっとわらっていた
「じゃましていーかい」
じゃまだけど さけもってるなら はいっていいよ
「じゃあ えんりょなく」
おれよりすこしせのたかい でもせんのほそいからだが するっとなかに すべりこむ
かってにしんだいにすわるやつにあきれながら さけのゆうわくにまけて とびらをしめた

「なんか にぎやかだったね あれ なんだったの」
おれのさかずきにさけをそそぎながら どうりょうがくちもとでわらう
しがつとじゅうにがつの いつものあれだよ とこたえると ますますめがほそくなった
「ああ いつものあれか まったくあきないね かわいいもんだ」
かわいいもんかよ まったくまいかいまいかいおれのところにきやがる
まじで そろそろじゅうにがつに さされるよ おれ
「なに たよりにされているんだ いいじゃないか  おれなんて じゅうにがつにほおりだされたよ となりでじゃまだとか」
ひどいやつあたりだな と さけをついでやると まあいいさ と かれは のんびりとわらった

「なんにせよあのふたりは はででいいね さすが はながたのつきだ」
たしかに しがつとじゅうにがつは はじまりで おわりで ぎょうじづくしだ うらやましいもんだ
「あなたもじゅうぶん はながただよ」
なにをいってんだ ちゅうとはんぱな じきだよ
「ことしは はれにしたんだねえ」
なんのはなし
「きっと げかいでおんなのこたちが よろこんでるよ」
ああ たなばた

あめばっか ふらしてたからな あたまをかく
「よろこばれるのは いい おれなんて きせつもあきだかふゆだか わからない」
おまえはすかれてるよ だってしゅくじつ にかいあるし つきは さんじゅうにちでおわりだし
「しゅくじつか たしかに でも ごがつにはまける」
かたをすくめてさけをのみ かれはすこし しせんをあげた
なんだよ と しせんだけかえすと さかずきをおいたてが ほおにのびてくる
「こんげつちゅうは ずっといそがしいね」
そりゃ いそがしいよ おれのつきなんだから しかたないだろが
「つかれたら ひざくらいかしてあげよう」
いらないよ おまえのひざ ほねだけでかたい いたい
「ははは いろっぽいな そのいいかたは」
ばかやろうとてをふりはらうと またかたをすくめて さけをのむ
「ななは いいよ ぜつみょうのつきだ いみょうのふづきも せぷてんばーも ひびきがいいよ すきだな」
うたうようにいわれて すこしてれくさい ぼりぼりあたまをかいた

さてそろそろ と たちあがるやつのうでをとっさにひいて どんっとしんだいにひきもどす
なかばほんきでおどろいているやつに おとをたててくちづけた
それでもめをまるくしている さっしのわるいあいてのくびに ぐっとりょううでをからめる
やっと ほそいうでが ちからづよくこしにまわった くびもとで わらうこえ ああ これによわいんだ

のーべんばーも しもつきも わるいひびきじゃない おちついておだやかなくもりぞらが よくにあう
こいつほねあたっていたいとぼやきつつも しあわせをかみころす なながつのかみさまの いちにち

□ 559-561 □

おれには ひとつのしごとがある
うっかりやさんのために ながいぼうを とどけること
ただ それだけが ゆいいつのしごと

べつに このぼうがなくても いいじゃん と いうやつも いるかもしれない
それでも おれは このながいぼうを とどける
くちべたなおれのかわりに このぼうに ありったけのきもちをこめて
うっかりやさんに はげましのことばと かんどうとかんしゃのことばをたくして

いみなんて ないのかもしれない
おれが やってることは しょせん じこまんぞくなのかもしれない

それでも このぼうを とどけることで
うっかりやさん や そのじゅうにん が おもわずかおをほころばせたりすると
ただ それだけで おれは このしごとを やっててよかった と おもえる

せなかにいっぱい ぼうをせおい
きょうも いろんなばしょへ あしをむける
このぼうに ありったけのきもちをこめて
ときどき かんどうしすぎて ぼうをとどけるたいみんぐを はずしちまうのが たまにきず

いつものばしょの いつものすれっど
きょうも いろとりどりのものがたりで おれのこころをゆさぶりつづける
そのなかで いとおしきうっかりやさん はっけん
おもしろい つづききぼーん のきもちがつまった おれんじのぼうを せなかのかごからさがす ごそごそ

…あれ どこだっけな

ごそごそ

たしか ここらへんに しまったはずなのに

ごそごそ

いろんないろのぼうのなかから やっとのことで おれんじいろのぼうを みつけた
あったあった ほっとひとあんしん
ぼうをひたいにあて めをとじてきもちをこめる
どうか このかんどうが とどきますように

と たちあがったしゅんかん
「やじるしの たりないすれっどに きゅうせいしゅが! 」
「ようかんまんですよ〜」
な なにーーーーーーーーーーーーーーーー!?

はいごからきこえたことばにふりかえると にだいいっぱいにつまれたぼうをはこぶ しかくいおとこのすがたがみえた
しかも にだいのぼうのいろは おれがさがしていた おなじいろ

お…おれのしごとが!

めのまえで しごとをうばわれたしょっくに ただ ぼうぜんと たちつくす
しかくいおとこは さわやかなえがおをうかべながら うっかりやさんに ぼうをとどけている
うっかりやさんも てれたようなうれしいような いいえがおで そのぼうを うけとっている

いままで あんなしかくいやつ みたことないぞ
うっかりやさんの あのえがおは おれがうけとめるはずだったのに
ちくしょう と くやしさにくちびるをかみしめながら しかくいおとこのせなかを おもわずにらんだとき
そのおとこは ちらりと おれにしせんをむけた

おもわず かおをそむけるおれ
くやしいけれど おとこをにらみつづけることは できなかった
だって おれ きぃよわいし くちべただし からだだって ほそっこいし
あんな でっかいからだのおとこあいてに けんかしても ぜったいまけるし

ほんとは 「そのしごとは おれのしごとだ!」って さけびたい
「おれのしごと とるんじゃねぇ!」って さけびたい
けど

てにしていた おれんじのぼうを ふたたびかごにしまい
おもわずにじんでた めじりのなみだを かたてでぬぐう
らんぼうに かごをせおうと うっかりやさんと しかくいおとこにせをむけて
はやあしで そのばからはなれる

ちくしょう くやしい くやしい ちくしょう
ゆいいつ じぶんのきもちを とどけられるちゃんすを うばわれたのが くやしい
なにより ゆいいつだとおもってたしごとをうばわれて なにもできない よわむしなじぶんが いちばんくやしい
なさけない

あしもとをにらんで くちびるかみしめ にげることしかできず
おのれのふがいなさと なさけなさに ただなみだをうかべることしかできない
ある ぼうにんげんの にがいよる

□ 633-635 □
【ある ばいくの いちにち】

うっす おかえり あいぼう きょうもいちにち おつかれさん
あ なんか ふきげん あ あ ちょっと やだ きーはやさしくいれて
しーとのうえ ためいきなんか ついちゃって あーあー にあわねえの
よっしゃ うみでも いきますか いやなこたー わすれましょ

おれ ばいく けーえいちよんひゃく ちょうぱわふる
こいつは あいぼう かもくで かたぶつ ふるいつきあい
おれのぜんしん こいつせんよう かすたまいず されまくり
もう あんたいがい あいせないからだなの なんつって えへ

なのにさいきん とんだ まおとこ らんにゅう
ちゃっかり おれの たんでむしーと していせききどり
あいぼうも だまって こしに てなんかまわさせて さ
あいつ きょうは いっしょじゃないのな ほっとした けど

ながいつきあい だから かおみたら わかる
けんかした でしょ それとも ふられた? あたり?
すぴーど ぜんぜん でてませんぜ だんな

ほい とうちゃーく うみですよ
じかんもばっちり ゆうぐれどき さあ どうする どうする
「ばかやろーーーーーーー!!」
でたー! おとこだぜ それでこそ わがあいぼう!

しーとのうえ しんこきゅう それから はんどるに よりかかってくる
このおもみ すき しんぞうのかわりに ふるえる えんじん
「よう あいぼう おれには やっぱ おまえだけだ」
そうそう そのとおり やっとわかったかよ ばかちんが

だいたい あんな やさおとこ ぜんぜんあんたに にあってなかった
ちから なさそうだし へらへらしてるし
それにおれが ちょっと すぴーどあげただけで びびるし
みため ほそっこいのに あんがい おもたいし って あれ

けーたい なってますよ あいぼう いつものきょくじゃ ない
それはたしか あいつ せんようの きょく

「おう あー うん うん あー その あの さっき ごめん な
うん あの いまから いっていいか おう すぐいく」

つうわしゅうりょう いそいで ほうこうてんかん
しーとのうえ わざとらしい したうち あーあー
ちょっとほっぺた あかいですぜ だんな にあわねえの
あいつのいえ ね はいはいはい りょーかい

ながいつきあい だから かおみなくても わかる
だいすき なんでしょ あの やさおとこが
おれが あんたを すきなのと おんなじくらい

そういうことなら しょーがねえな あいぼう
ふるすろっとる ぜんそくぜんしん みちもかんぺき おぼえてる
ひがくれるまでに ぜったい ついてみせる
ふたりのりも まあ こんどから ゆるしてやるよ
もうちょっと やせとけって つたえてな

おれんじいろの うみ とおざかる はいきおんは
ばかやろー と にているひびき くろうしょうばいくの あるゆうぐれ

□ 649 □

なつだね もうすぐ おわるけど あなたとも もうすぐ おわるのかな
つまさきだつ ぼくの からだを するーするー と すべらかに ふれてゆく あなた

あなたの したが ぼくの つつの くびれに いっしゅん とどまる
きもちよくて めがくらみそう ぴちゃぴちゃ と いやらしい みずおと

だいすきな そうめんの かんしょくを きおくに きざみつけようとする ある
ながしそうめんだい の いちにち

□ 721 □
【あるはんたーせめのいちにち】

とけいがなる めざめる まだまっくらだ ついにいかれたかくそどけい

なぜかおれのうでのなか ねいきをたてるきゅうけつきうけ きのうはおれひとりでねたよな?

とりあえずあかるくなるまえにきゅうけつきうけをおこす

ほらおきろ たいようがでたらしぬぞ けだるそうにねがえりきゅうけつきうけ「だいじょうぶです めばりしましたから」
  ↓
・・・なにを? 「まどですが?」 いまなんじだ? 「はちじころですかね」 ・・・ちこくした 「まものがりにちこくもなにもないでしょう?」 きょうはかいごうがあるんだよ・・・「さぼればいいんですよ」

かるくかえすきゅうけつきうけ だれのせいで・・・いや おまえ じぶんのかんおけあるだろ

「あなたがにんにくをしきつめたかんおけですか?」 おこるなよ おまえにんにくへいきだろ?

「におうんですよ なんならねてみます?」ごめんだ それにおれはおまえがむらむすめにてをだそうとしたから・・・ 「やきもち?」

ああそうだよ!やきもちだ!おまえはおれよりむらむすめのほうが・・・ 「むらむすめというかやさいうりですかね」 は?やさいうり? こんらんするおれ あきれがおのきゅうけつきうけ

「ということは やさいうりのおじょうさんからやさいをかっただけで ねどこににんにくをしかれ・・・あなたはまるでわたしに・・・」あーぐちがはじまった とめねえとながいんだよなこれ

ぐちりつづけるきゅうけつきうけに きょうはさぼるといってみる かいごうはびょうけつってことで

「ならいいんですよ」 きげんをなおしまんぞくそうにするきゅうけつきうけをだきよせながらもかんおけのだっしゅうにかんがえをめぐらすはんたーせめのさぼりのいちにち

□ 750 □
【ある ゆうれい のいちにち】

ゆうれいになって そろそろいちねん
とうめいな このからだにも なれてきた

ゆうれいには なかまがいっぱい いるとおもったのに
ここには だれもいない
だけど どこにでも いけるから
ひとりでも さみしく ないよ

そらから ちじょうをみると おとこのこが
ふたりで て をつないでた

たぶん くらい みちだから じぶんいがいには みえてない

しあわせそうな ふたり をみて
やっぱり さみしいとおもった あるゆうれいの いちにち

■ 387-388… ■ 

どくりつしています。
こちらへどうぞ。

ある きゅうけつき と ひろいご の いちにち

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