□ 37-39 □
【ある はらぺこおおかみの いちにち】
おれさまは はらぺこおおかみ
ぐるるるきゅうう きょうも はらがなる
もう なんにちも くってない
とにかく なにかくわなきゃ しんじまう
↓
ふらふら よろよろ
はなをひくつかせ もりのなかを うろうろ
↓
みあげると おおきな おおきな きのうえに
きれいな ことりが はねをやすめてた
↓
あぁ もう なんでもいいから くいたいぞ
きにとびついて がおがおがお
おまえがくいたい がおがおがお
↓
きれいなことりは すましたかおで
おれさまをみおろし
ち ち ち と すましたこえで ないた
↓
まぬけな まぬけな おおかみさん
はねがないあなたは このきのうえまで
のぼって これないでしょう
だから このわたしをたべることは できませんよ
くやしければ ここまでおいでなさい
↓
きれいなことりは ふわり ととんで
きのみきに はりついて うーうーうなるおれさまの
じまんのはなを つっついた
↓
いててて ひー
おれさまのじまんのはな まっかっか
こりゃたまらんと しっぽをまいて すたこらたいさん
↓
またあした あのなまいきなことり くってやる
ぜったい ぜったい くってやる
↓
つぎのひも きにのぼろうとしたけれど
はらがへりすぎて てあしに ちからがはいらない
↓
ことりは きにしがみついている おれさまをみおろし
まぬけなおおかみさん ここまでおいでと
すましたこえで さえずっている
↓
おれさまは きのしたで
じたんだをふんで くやしがった
↓
あんまり おなかがすきすぎて
ぐるぐる ぐるぐる めがまわる
あぁ こんやも ばんめし ありつけないのか
↓
みじめなきもちで ぐすん と はなをすすっていると
うえから なにかが おちてきた
↓
なんだこれ?
めのまえに あかいきのみが ころりんこ
うえをみあげると さっき おれさまのはなをつっついた
あの きれいなことりが きのえだにとまってた
↓
きのみ おとしたのか?まぬけなことりめ
だけど あんまり おなかが すいてたから
きのみを ぱっくん くちのなかにほうりこむ
↓
すると また あたまにこっつん きのみが おちてきた
みあげると やっぱりあの きれなことりがいて
すましたかおで きのうえにとまってた
↓
きのみ おとしたの きづいてない?
こんなんじゃ ぜんぜん たりないけど
あまずっぱくて けっこう いけるので
らっきー とおもいながら
ことりのおとした きのみを しっけいした
↓
まぬけなおおかみは きづいてないが
そのきのみは おとしたわけじゃない
ことりが えだになっている きのみを つっついて
おおかみのしたに せっせと おとしてやっているのだ
↓
そんなことも ちっともきづかず
あしたこそは あのなまいきなことりを
くってやると めらめら とうしにもえる
ある へたれなはらぺこおおかみの いちにち
□ 221-224 □
【あるからすのいちにち】
あおぞらを けがす くろい てん
ごみばこを あらす きたない もの
みんな おれのことを きらってる
そうさ おれは きらわれもの
ぜんしん まっくろ おれ からす
↓
すきで このいろ しょってるんじゃねえ
いきるために えさをさがすの なにがわるい
いいたいことは たくさん あるが
だれも おれのいうこと きいちゃくれねえ
そうさ おれは きらわれもの
なきごえ みみざわり おれ からす
↓
なかまと つるむのも つまんねえ
なるしすと と ぺしみすと ばかり
てめえら みてると いらいらすんだよ
いちわで いきるの きらくで いちばん
そうさ おれは きらわれもの
ともだち いない おれ からす
↓
きょうも いちわ でんせんにとまって えさをぶっしょく しているところへ
ぽわぽわした やつ とんできた
「ちゅんちゅん こんにちは からすさん
くろくて ぴかぴか きれいな はね
するどく とがった かっこいい くちばし
うらやましいです ちゅんちゅんちゅん」
↓
なんだ この がき ちゅんちゅん うるせえ
おせじなんて きもちわりいんだよ
ぎろり にらみつけても ぽわぽわしたやつ
にこにこ わらって おれを みかえす
「ぼく おおきくなったら からすさんに なりたいんです
おおきな つばさ はっきりした こえ いいなあ いいなあ」
↓
まっすぐな ひとみ おれのこころに ずきんと ささる
「ばかか おまえは おれ きらわれものだぞ
おれみたいになんて なるんじゃねえよ
そもそも おれに はなしかけたら
おまえまで ほかのやつらに きらわれちまうぞ
さっさと どっか いっちまえ」
こえを ひそめて そっぽ むいて
どうにか それだけ こたえてやった
↓
「でも からすさん いつも いちわぼっちで さびしくないんですか?」
おれのいうこと まるできかず くびをかしげて たずねる がき
くだんねえこと きくんじゃねえよ
さびしいわけなど ないだろう
おれ いままでずっと こうして いきてきた
いちわが いちばん こころのそこから そうおもう
なのに おれのくちから ことばは でない
からまわりして ぱくぱく するばかり
↓
「ぼく からすさんのこと すきだから となりにいちゃあ だめですか?」
それには すぐに へんじが できる
つーか へんじしなくちゃ やばいっての
「あほう おれのとなりに いたら
おまえも いちわぼっちに なるんだぞ」
↓
そしたら がきは にっこり ほほえむ
「いちわと いちわで にわぼっち それだったら さびしくないです」
だからさびしくなんかねーっていっただろうがいやいってねえけどいえてねえけど
うわああたまぐるぐるしてきたそういやきょうはひざしがつよくてたいようのひかりあつめるはねがあつい
うおーなにかんがえてんだおれどうしたんだおれひさしぶりにだれかとはなしてつかれちまったのか
そうだつかれたんだがきのあいてしてしかもくちたっしゃだしいやんなるぜまったくもう
↓
ながいながい ちんもくのあと
くびふって ためいきついて おれはいう
「ああそう かってにしやがれ あほすずめ」
どうせ そのうち おれのこと きらいになって とんでくんだろう
あることないこと ほかのやつらと うわさして かげでわらうんだろう
わるくちいわれるの なれてるし いちわぼっちも なれてるから すきにすりゃあいいさ
↓
「わあい ありがとう からすさん」
ちゅんちゅん さわぐ がきに うんざりしながらも
ほんのちょっぴり たのしくなってきてる
いちわぼっちのからすが にわぼっちになった いちにち
□ 257-258 □
【あるうさぎのいちにち】
おつきさまには うさぎが にわ
かわりばんこに おもちをついて
ほかの おほしさまたちに はいどうぞ
↓
「きょうは しろうさぎんくんが ついた おもちか
よもぎもちって なんていいかおり んーうまい」
「あしたは くろうさぎくんが ついた おもちか
どんな あじの おもちかな? たのしみたのしみ」
みんなのえがおが おだいのかわり どうぞ あしたも いらっしゃい
↓
ところが いつもはなかよし にわの うさぎ
ちょっとしたことで おおげんか
↓
「きみは どうして だれにでも そういう えがお みせるわけ?」
「おきゃくさまに いいおかお してみせるのは あたりまえでしょ
きみこそ どうして いつだって そういう ぶっちょうづら してるわけ?」
「ぼくは きみにしか いいおかお みせたくないんだ わかるでしょ」
「わかんないよ そんなこと もういい きみのかおなんて みたくない!」
「ぼくだって もう うんざりだ きみなんか きみなんか だいきらい!」
↓
うりことばに かいことば あたまに ちののぼった くろうさぎ
こころにもないこと いきおいで くちにしてから きがついた
いつもえがおの しろうさぎ あかいおめめに なみだいっぱい
くしゃくしゃに かお ゆがめてることに
↓
「そっか わかった じゃあね さよなら」
あやまろうとした くろうさぎに せをむけ
しろうさぎ ぎこちなく ぴょんこ ぴょんこと はねていって
やがて ちいさなせなか やみにとけ みえなくなった
↓
いちわが おもちを ついてるときは
もういちわ となりで おてつだい
あいのていれて ぺったんぺったん
よこから あせを ちょちょっと ふいて
さあさあ もすこし がんばろう
つかれたんなら おちゃでも のむかい?
いままで ずっと そうやってきたのに
↓
きょうは くろうさぎ いちわで もちつき
あいのてがなくて とっても たいへん
あせが めにはいって あいたたた
でも いちばん つらいのは
↓
「だいきらいなんて うそなんだよ
ほんとは きみのこと だいすきなのに
ねえ もどってきてよ しろうさぎくん
おねがいだから なんどだって あやまるから ねえ」
↓
ほんとうのきもち とどかないこと
↓
かなしくって さびしくって
くろうさぎが ついた きょうのおもちは
ちょっと しょっぱい なみだあじ
□ 548-549 □
【ある のらねこ の いちにち】
あめがふっていた さむいひ
いっぴき またいっぴきと
つぎつぎに おれのきょうだいが つめたくなった
↓
おれは さむくて さむくて
なきごえもだせなくて おなかもへって
かなしくて かなしくて
それからさきは ゆめのなか
↓
うまい めし
あったかい ねどこ
きれいな といれ
そして やさしい ほほえみ
↓
「 」
おれには にんげんのことばは わからないけど
この にんげんのうでのなかは あたたかくて いいにおいで
おれは また ゆめのなか
↓
けれど あったかいじかんは
ながくは つづかなかった
「 」
なくな にんげん なにがあった?
↓
にんげんは おれをだきしめて
なんども なんども あたまをなでた
おれには わからないにんげんのことばを
なんども なんども くりかえしながら
↓
おれは のらだ のらだから ひとり
ひとりぼっちには もう なれた
きょうだいも みんな いなくなった
↓
あったかいにんげん どこにいる?
おまえになら おれは ずっとかわれてやるから
また ここへ さがしにこい
そしたら おまえの なきがおに つめをたててやるから わらえ
↓
なくにんげんの さいごの ことばのいみをしらない
ある のらねこの いちにち
□ 651-654 □
【あるはたらきありのいちにち】
ただひたすら じょおうさまに つくすために はたらいている
ぼくは ちっぽけな はたらきあり
えさをさがす すをしゅうりする それだけの そんざい
かんじょうをもたない きかいのぶひんのいちぶ みたいなものだ
と じぶんでも おもっていた
あなたに あうまでは
↓
いつもにまして ひざしがきつい ひのことだった
ぼくは そのひも えさをさがして
もえるような こんくりーとのうえを ぽつぽつ あるいていた
そのとき ふきぬけた さわやかな かぜ
あんまり やさしく ほおをなぜる ものだから
あしをとめて みあげれば
ふわり ふわり ずじょうをただよう ちょうちょ
それが あなた だった
↓
あざやかな そらをきりとったような あお
きりりと せかいをつらぬく きいろ それから
すべてを つつみこむ やみよの くろ
きせきのように うつくしい はねをひろげる
あなたを ひとめみて
ぼくは
こいに
おちた
↓
もちろん ぼくがいることになんか きづきもしない あなたは
どこか けがをしてるのか びょうきなのか
くるしげに かおを ゆがめ
やがて ふっと めをとじ ちにおちる
ぱさり
ぼくの め と はな の さきに
↓
てがとどかないはずの そんざいが いま
そこに ある と おもうだけで
ぼくのむねは たかなって ちいさなしんぞう はじけそうで
あわてて ろっぽんあしを ひっしに うごかし かけよると
あらいこきゅうのなか うすめをあけた ちょうちょさんは
ほんのすこし ほほえんだ
「わたしなんか くっても うまくないぞ」
ひにくげな ことばと うらはらに
じめんに おちても けだかさを うしなわない
りんとした ひとみで ぼくを にらむ
↓
なんて なんて きれいな そんざい
こころも からだも けがれをしらない
かんぺきというものが このよにあると
はじめて しった
ぼくは よっぱらったような めまいをかんじ
おずおず あなたの はねに しょっかくで ふれる
ぴくり ふるえた あなたの かおに
いっしゅん よぎった おびえさえ うつくしい
↓
「そんなに うえているなら かってにすればいい」
ふるえる こえで なげやりな せりふをはなつ
つよがりな あなたに ぼくは つげた
「だいじょうぶ
あなたの いのちが たえるまで
こうして ずっと そばにいます
ぜったいに たべたりなんか しませんよ」
↓
ぼくは あなたのからだを ゆっくり ひきずり
ちいさな きのあなに はこんであげた
すこし はねが すりきれたけれど
あなたの うつくしさに かわりは ない
それから あなたのために はなのみつを はこんだり
からだの すみからすみまで きれいにしたり
できること すべてささげ あなたに つくした
すに かえることも せず
はたらきありの しごとを ほうきして
あなたのためだけに いきる ものになった
あいかわらず あなたは つめたくて
ぼくに いたわりのせりふ ひとつ くれやしない
しせん むける ことさえ ない
いいんだ ぼくが すきで やってるんだからね
↓
そんな ひが もう どれだけ つづいたんだろう
こよい つきのきれいな よる
あなたは とうとう てんにめされた
さいごに まつげをふるわせ
「ありがとう」と ささやいて
おだやかな げっこうに つつまれて
↓
せっかく やさしいことば くれたのに
ぼくの うそに きづいたならば
あなたは なんて いうんだろう
たべないなんて いったけど
じつは さいしょから きめていたんだ
あなたの いのちのほのおが きえたら
そのからだ ひとかけら のこさず たべてあげよう と
いや ほんとうは あなた しっていたかもしれないね
ぼくが こんなことを かんがえていたって
でも もう どっちでもかまわない
あなたは ぼくだけのもの なんだから
↓
いとしいからだに くちづけて
たいせつに たいせつに むさぼっていく
なぜか こみあげる なみだが
いまも かがやきを うしなわない はねに おちる
「ずっとずっと あいしてます」と いのる ように つぶやく
ある はたらきありが しあわせなぜつぼうに つつまれた いちにち
□ 671 □
【ある すずめの いちにち】
あいつがきたのは はるのおわりのこと
おれも あいつも がきだった
ひるは ひたすら けんかして
おやじさんに さんざ めいわくかけて
よるは たがいに あたためあったっけ
↓
つゆがすぎても あいつはあいかわらずの あまえんぼう
しかたがないから あいてしてやって
むしとか わざわざ はこんでやって
「めんどうだ」とは いいつつも
けっこう おれのなかでは じゅうじつかん
↓
わすれもしない あの しょかのひ
あいつは とうとう いってしまった
きけば あいつのなかには じぷしーのちが ながれているという
あいつは おれのめのまえを つい と とんで
ふりかえりもせず そらのかなたへ きえた
↓
おれと あいつは ちがう とり
↓
それでも おれは そらをみる
たとえ なつが すぎさっても
たとえ じぷしーたちが みなみへ とびさっても
あおのなかに さがすんだ
あいつのいろを さがすんだ
↓
うだるほどの ざんしょのなか
かごのなかから そらをみつめる
ある すずめの なつのおわり
【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15