□ 25 □
【ある しかくの いちにち】
にわとりのなきごえ あさもや つめたい いどのみず
↓
ながやのすみに ひっそりとくらす せめとうけ
ろうにんに みをやつした せめは おうようで ものごとに こだわらない
ころがりこんできた うけを なにもきかずに すまわせている
おいえそうどうで あらそいが たえない くにもとの
しんせきすじから おくりこまれた しかくだなどと しらないままに
↓
たきたての めしのにおい みその こげるにおい
なれた せめの あせのにおい あまい みずのにおい
そんなものに なれてしまっては ならないのに
いつか せめを うらぎる そのときに ちゅうちょがあっては ならないのに
↓
きょうも たきたての めしのにおいに ねこのように めをほそめて
せめは なにもしらずに たたみにねそべっている
↓
うけは ひものをやきながら いつかくる けつべつを おもう
↓
よめも ちいも いらぬなあ
ふいに せめのつぶやきが きこえて てをとめる うけ
↓
おぬしが いてくれれば なにもいらん
↓
おぜんに ととのえた あさめし
ゆげのたつ みそしる ごはん ひものに こうのもの
↓
つくった このてで いつかせめを ころすのだと
おもえば なみだが とまらない ある しかくの つかのまのしあわせ
□ 45-46 □
【ある のろわれた いきもの のいちにち】
きづいたときには じぶんは すでに ひとではなかった
ばけものとよばれ ひとに いしもて おわれた
そして みをまもるために ひとをころした
↓
ぜつぼうし いのちをたとうとしても
この のろわれたからだは しぬことも ゆるされない
おわれ みをかくしながら いきる
↓
いつしか ひとをころすことにも なれてしまった
おれは みもこころも ばけもの になったのだ
↓
あるひ おわれて ようやくにげだして
ちをながし たおれていたおれを てあてしてくれた かれ
なにもきかず ほうたいをまく かれのやさしさが うれしかった
じぶんには もう ひとのこころは のこっていないはずなのに
↓
すじょうをかくし かれにあう
もはやおれに ひとをあいするしかくはないのに かれをおもうきもちがとめられない
↓
そして しる かれが はんたーであることを
↓
だけど やさしいかれは ひとのこころをなくしたばけものすら
ころすことを くるしんでいる
それでも ひとをまもるため かれは ばけものをころす
↓
おれはねがう
かれが おれの のろわれたいのちを おわらせてれることを
そして かれのこころのかたすみに ちいさなきずとしてのこることを
↓
ねがいをいだいて はんたーのところにむかう ある のろわれたいきもの のさいごのひ
□ 226-227 □
【ある きしの いちにち】
あかい ふきつな つきを みあげる うまにのったきしが おかを のぼる
きしの よろいも まっかっか ちにそまって まっかっか
うまの うしろに のせた せいねんに くらに つかまるように いう
↓
わたしに しがみついては いけない かえりちが うつる
そう いっても せいねんは なにかに おびえるように ちに そまった きしの よろいに しがみつく
↓
もう なにも しんぱいは いらぬ
おまえを うったものも かって もてあそんだものも わたしが きった
まだ おってが くるようなら それも きりすててやる
だから わたしに しがみつくな
↓
そっと おしやり まんとを つかませる きしのめが すこしだけ やさしく かなしく なる
↓
そなたが けがれて しまう
↓
うまを とめて そういうと せいねんが みあげてくる
その てと しろい ふくは しがみついた おかげで ちに よごれていた
おおきな あおいめが きょうかいの まえに たっている しんぷを みつける
きしは かるく しんぷに えしゃくする
↓
あそこは おそろしいもの けがれたものから まもられた せいなる ばしょだ
こころの うつくしい かたがたと いっしょに あそこで かみに いのるが いい
そうして いやなことは わすれてしまえ
↓
しずかに つぶやく きしのうえに あかいつきが こうこうと てる
ふきつな あかい つき ちまみれの きし ちまみれの て
おそろしい はずの そのながめを せいねんは せいなるものを みるように みた
↓
さあ いくがいい
かみが そなたを みちびかれ すくってくださるだろう
↓
いいえ
↓
くびを ふって せいねんは はじめて つぶやいた
わたくしを みちびき すくって くださったのは きしさまです
みずから うまを おりて ちまみれの きしの てをとり くちづける
↓
きしさまが すくわれますように わたくしは いのりましょう
↓
ほんの かすかに きしは ほほえみ たづなを とった
いま のぼってきた おかを うまで かけおりる
↓
ふもとまで たどりつき おかの うえの きょうかいの とうを みあげて
そっと せいねんが ふれた てのこうに くちづける
せいねんが こころ やすらかに くらすようにとねがう きしの いちにち
□ 327-328 □
1>>339-340
【ある ぎんぱつの おとこの いちにち】
あさ めを さまして よこを みて
まだ ねむっている あなたを ながめて
その いきづかいを ききながら
まだ いいだろう と また めを とじる
↓
ひる めを さまして よこを みて
となりに いない あなたに きづいて
きものを はおって ろうかを わたり
ほんどうで いのる すがたを みつける
↓
おはよう
おはよう
……はやいか?
いいや
↓
くっと わらって あたまを かいて
となりに いって せなかに もたれる
↓
つづけろよ ここで きいているから
きょうの いみなど わからぬだろう
ああ わからない
ならば なぜ
↓
あなたの こえが すきなんだ
↓
ふわりと にがわらいをする けはいと
ふたたび はじまる どきょうの こえを
あわせた せなかと うしろでの ゆびで
すいこむように うけとめる
↓
ゆうぐれ すぎて よるが きて
くちづけを して だきあって
いまの しあわせに ほほえんで
さきの みえない ことに おびえて
それでも ふたりで そい ねむる
↓
そんな ゆめばかり くりかえし みる
↓
もう かみの いろも すっかり ぬけた
ある としおいた おとこの いちにち
・1スレめからのけいぞくにっきです。
□ 348 □
【あるたたかうおとこのいちにち】
あすは さいごのたたかいだ と
あなたはいう とてもおだやかな こわいろで
よかんはしていた りんとした あなたのよこがおに
しのいろはみえないけれど
↓
との わたしが あなたより さきに ゆくことを おゆるしください
わたしは あなたのたてとなり
さいごをむかえたくおもっています
↓
あなたはわらって わたしをだきよせる
もとより わたしよりもさきに しぬつもりはない
わたしを ひとりには しない と
↓
ああ ああ あなたを あいしています
わたしの ふるえるこえをつつみこむ あなたのくちびる
なみだがあふれて とまらなかった
↓
よがあけた さいごの ひ
よろい かぶとをみにつける
おたけびと むらに のこったもののしせんのなか わたしにはうまをはしらせる
↓
きょうは あいするものよりも さきにしぬために
せんじょうにむかう あるたたかうおとこのさいごのいちにち
■ 478… ■
どくりつしています。
こちらへどうぞ。
↓
ある あおいひとみのしょうねん の いちにち
【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15