あるそのほかのひと の いちにち 1.5

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□ 335 □

しゃこうかーてんからはりのようにほそいあさひがもれる。
ただそれだけでめがさめる。
めをひらこうとしたらうえのまぶたとしたのまぶたがくっついていた。

ほそいしかい、よたよたとせんめんじょにむかっておやのかたきのように
ばしゃばしゃとみずをかける。
なんどもかおをこすって、よれよれのたおるでかおをふく。
いいかげんにかみをなでつけて、やっぱりよれよれのしゃつをはおる。

せっとしてあったすいはんきのふたをあける。
たきたてのごはんのゆげでめがねがくもる。
たとえどんなにおそくかえっても、これだけはかかさないでいる。

ちゃわんはふたつはしもにぜん。
もくもくとよそうしろいごはん。

へやのすみ、しろいだいのまえにどかりとすわり、ちゃわんとはしをそのまえにおく。

「いただきます」
じぶんのちゃわんをもちなおして、おかずもなにもない、ただのしろいめしをがつがつと
くちにほうりこむ。

あじのしないはずのしろいごはんがなぜかしょっぱいおとこのあさ。

□ 473-474 □
【こーひーせんもんのきっさてんにて ばいとちゅうのがくせいの いちにち】

ふわりともりあがる こーひーのこな
したたりおちるこーひーのあじは まだそんなながくいきちゃいないが
おれのじんせいのなかでいちばん だんとつのおいしいこーひー

おれはじゅうはっさい ほんとうならじゅけんまっただなかのなつやすみ
ちゅうがくじゃ そこそこせいせきもよくて
しんがくこうにはいったけど ふとしたはずみに
きょうしつからあしがとおのいた おきまりのふとうこういっちょくせん

ほけんしつでじかんをすごしているうちに
ようごのせんせいのこーひーをいれるようになった
「きみのいれる こーひーは おいしいわ」
わたしのじんせいで にばんめにね と せんせいはいう

ちゅうぼうのころからこーひーにこっていた
いれかたもおれなりにしこうさくごして けっこうじしんある
そのおれがいれるこーひーがにばんめかよ
そんなやりとりからはじまって きがついたらなつやすみ
おれはこのきっさてんで ばいとしている

せんせいのどうきゅうせいだという
(うそだろーといったら せんせいにどつかれた)
ますたーは なんというか かっこいいというよりも
きれいなかおだち っておとこのひとにそんなこというとしつれいだよな

いっけんやさしげだけど はじめてふつかめには
けっこうがんこものだと わかった
とくに こーひーにかんしては
ゆをそそぐときの あのよこがお しんけんすぎて
ちょっとこえがかけられないかんじ

そのくせ へんなところでぶきっちょで なまきずがたえない
けいしょくにかんしては おれのほうがうでがうえじゃないかと
ますたーじしんがあたまをかきながらいった

だがやはり ここはこーひーをのんでもらうところだから
おいしいこーひーがいれられないと だめだろう
まんしんしてはいけない と おれにしてはしゅしょうなことをおもう

ちりん どあべるにかおをあげると おきゃくさまがふたり
こんにちはとあいさつしながら ますたーはまめをだして
ふらいぱんをひにかける ちゅういぶかくばいせんしたら
うすかわをとりのぞいて みるでひき いっぱいぶんずつどりっぷする

おれは すこしでもわざをぬすんでやるぜと けっしんしたから
いそぎのようがなければ ますたーのさぎょうをじっとかんさつする
あ、まただ このしんけんなめ ほんとにこーひーをだいじにしてるんだ

ますたーのしんけんなよこがおに めをうばわれて
なかなかわざは ぬすめないことにきづく ほんのすこしまえ
こうこうせいあるばいとの がんばってるなつのあるいちにち

□ 475 □
【あるねこずきのいちにち】

あいびょう みーちゃんは きょうもつれない
えさの ときしか ないたりしないし すりよったりもしない
でも おれ ねこの そういうところが すきなんだよね
どうしても てなずけたくなっちゃう

せんげつ ほんやでであった あのひとも そんなかんじ
みじかいくろかみ つりめにめがね ほそいかた
そのひとは やまづみのほん かかえて おもいきり こけて
おれが たすけてあげたら ぶあいそうに おれいだけ いった
おんなのこかとおもった ほそいからだ
ながいまつげに つめたい め
それいらい きになって かよいづめ

おちゃにさそったけど むしされた
けーき もっていったら すこしうれしそうにみえた
うしろむいて すごいはやさで たべてる
かわいくって ついだきしめちゃった
「はなせ なにすんだよ」
しんそこ いやそうに つきとばされた
「だって にゃんこ みたいで ぼせいほんのうがさぁ」
へらっ とわらったら あのひと びっくりして また けーきたべだした
「かわいい」
「だまれ きしょくわるい」
うちの みーちゃんより てごわいな このひとは
にゃんこがだいすきなだいがくせいの にゃんこ てなずけふんとうき

□ 532-534 □
【ある なかよしな きんぱつと くろかみの いちにち】

あめのひ
どようのひるさがり

にさい としうえの あこがれのひとと えいがをみて
かんこーひー のみながら そふぁ で まったりして
ほんわか いいきぶん

「これ のんでみて いい?」
おれの かんこーひー みていう かれ
さいきん ちゃぱつから そめなおして すこし おさなくみえる いつものえがお

おれが へんじするまえに かんを くちにつける

ひとくち のんで あまい って わらっていった
もうひとくち のんで おいしいかも って うなずいてる
あのさ どんだけ のむつもり?

「…かんせつ きす」

おれが ぼそっ と つぶやいたら
かれ いっしゅん とまって
すばやく かんを もとのいちに もどした

「あれ おこった? そんなの いつも きにしないじゃない」

そっぽむいた かおを おいかけて
あまえた こえで なまえをよぶ

こっちをみたひょうじょうは なんだか はずかしそうで
う〜 とか うなってる

このひとって たまに かわいいはんのう するんだよな

うれしくなって くっしょん だきしめた

…おれって やっぱり このひとのこと すき なのかな
おとこのひと すき なんて そんなこと ありえない
ことも ないかも…

だっしょくしすぎて すかすかな かみ いじって
そふぁ に たいいくすわりして ぼんやり

「なぁ」

ここちよく やさしい あのひとの こえ

はっ として まえみたら かれは おれのまえに しゃがんでた

ちゅうごしに なって おれと めせん ならべる かれ

かおに かかってた まえがみ さらって よけられて
しんけんな あのひとの かお ちかづいてきて
めのまえ いっぱい あのひとで

なにが おこったのか わかんない
「ふえ?なに いま なにを」
うろたえる おれ

だんだん なにされたか わかってきて かお あつくなる

「なにって」
たちあがった かれが くちのはし あげて
め ほそめて にんまり わらった

そして あわてる おれを みおろして
ふんぞりかえって ひとこと

「ちょくせつ きす」

きゃらめるまきあーと よりも あまい
こいびとみまん な なかよしふたり の いちにち

□ 578 □
【ある わすれっぽいせいねんの あさ】

あさ おきて ごはんをたきわすれたことにきづく

さんぽのついでに あさごはんを かいにいく

こんびにについて しなさだめ
しんしょうひんに てをのばすと となりからも てがのびた

『あ ごめん』

どうじに しゃべり どうじに わらう

れじに しんしょうひんを もっていく …あれ さいふが ない

すると ききおぼえのあるこえが うしろから
「これも いっしょに おねがいします」

ふりかえると さっきのおとこが にこにこしていた
「いいんですか?」
「いいですよ」

ふくろをうけとり こんびに でる

「おかねは こんど あったときに」
そういって そのひとは はんたいほうこうに いってしまう

なんとなく こころが あったかくなった わすれっぽいせいねんの あさ

□ 585-586 □
【ある ぷーたろーの いちにち】

あー だめ
きょうも しごとなし
まんねんどこから うでだけのばして まくらもとのけいたいをひっつかむ

あいつ きょうも すろっとかな?
それとも えきまえのじゃんそうとか?
まあいいやって ふとんのなかにもぐりこんで りだいやるおして
もうほとんどこれって あいつせんようでんわじゃんなんて そうかんがえるとちょっとためいき

るるるー るるるー るるるー
さんこーるめで どすのきいたこえ

「じゃますんな このばか! きるぞ! おぼえてろ!」

あーあ またやっちゃった?
たぶんあれ まーじゃんまけてる
どうせしばらくしたら なーんにもかんがえてないみたく
「あそぼー」
ってでんわしてくるし
そうおもって ふとんのなかもぐりこむ けいたいはかかえたままで

うとうと うとうと がんがん うとうと
がんがんがんがん うとうと がんがんがんがんがんがんがんがん!
どあこわれるでしょ まったくあのばか

うすっぺらいげんかんあけたら いきなり はらにげきつう
なにそれ? ちょっとひどくない?
なきそうなのこらえて にらみつけてやったら そのままえりくびつかまれて ふとんのうえほうりだされた

なーんで おれ こんなことしてんだろって
こいつのかたごしに てんじょうみあげながらおもう
まいどまいどだし ほんとがくしゅうのうりょくとかない

まーじゃんまけたり すろっとですったり
そのたびにこれって いったいなんなの?
おれ あんたのすとれすのはけぐち?

なんてききたくなるけど でも ひとのこといえないし

しごとなかったり くびになったり
そのたびによびだして こんなことしてる
おれだって きかれたらこたえられない

でも みみもとできこえる あらいいきとか せなかにすべる あせとか
あと なにより いつもはおまえとしかいわないのに
やさしくよばれる じぶんのなまえとか

しんぞうがばくばくして がらにもなく なまえよびかえしたりして
そのりゆう かんがえると すごくこわくなるんだ

もうすぐ あたまがまっしろになる
いまはまだよゆうとかあるけど きっともうすぐ もうすぐ
そしたらくだらないこと わすれるよねって
じぶんをごまかしてばっかりの
ある ぷーたろーの いちにち

□ 621-622 □
【ある こわがりなおとこの いちにち】

まよなかに めがさめる こわいゆめをみた またか
たくさん あせをかいてる なさけない

こんなしせいで ねむっていたら
わるいゆめを みるのも とうぜんじゃないか
いつか そういった おまえのことを おもいだす まただな

ゆびを むねのまえでくむのは しにんがひつぎでねむるしせい だから
めいどに まちがって つれていかれてしまうんだ と
みみもとでつぶやきながら おれのゆびを ほどいたおまえ
たぶん こうしていれば だいじょうぶ そういって わらって
かさねたゆびを しーつのうえ ひとばんじゅう にぎっていたおまえ

いつか とおいむかしの あるよるのはなし
まもなく あいつは こうつうじこで しんだ ばかだな
もうすぐ それからいちねん おれはこわいゆめばかり みている

そうしきのひ ひつぎのなか ゆびを むねのまえでくんで ねむってたおまえ
ばれないように ひつぎをあけて そっと ゆびをほどいた
にぎりしめたゆびは おどろくくらい つめたかった
いいな これで こわいゆめは みないだろう?
まるで いきてるみたい きれいなねがおの おまえが
すこし うなずいたようにみえたのは きのせいだろうけど

なあ おまえ
かえってこいよ ばか
なあ おれこわがりだけど おまえのゆうれいなら こわくない
くらいのとか ひとりのほうが よっぽどいやなんだよ
てぐらい にぎってろよ かいしょうなし ばか

いつもより あつくて ねぐるしいよる きっとまた あくむをみる
いないとわかっている なにかをさがして しーつのうえ てをさまよわす
よわくて おくびょうなおとこの あるねったいや

□ 811-812 □
【あるががくせいのいちにち】

きょうもいつものがざいやでえのぐをかう
「いらっしゃいませ」
てんいんのせいねんのこえがきこえる

かれのえがおはいつもさわやかで
いつもきたないつなぎをきてるおれにはまぶしい
きれいなみどりのえぷろんがよくにあっている

えのぐをれじにもっていってせいさんする
「ありがとうございました またおこしください」
あいかわらず かれのえがおはまぶしくてどきどきする

さいきんおれはおおきなえをかいている
まみどりのそらにきいろいまるいつきがうかんでいて
そらのしたは さばくで
ひとりのおとこがぽつんとたっている え

そらのみどりがうまくだせなくて ぬってはけずり ぬってはけずり
みどりのえのぐがぜんぜんたらなくて
ふたたびいつものがざいやにかいにはしる
いっかげつぐらいおなじことをくりかえして
きょうやっとえがかんせいした

そらのみどりはあのがざいやのえぷろんのいろ
ぽつんとたつおとこは かれ
そう おれはかれのえをかきたかった

こんなかたちでしか すきとかひょうげんできない
じぶんをちょうしょうしつつ
かうものもないのに いつものがざいやにきた
きょうさんどめ おれきもいなーとおもいつつ てきとうにえのぐをえらぶ

えのぐをれじにだすと いつものかれがすこしふしぎそうなかおをしている
「あれ みどり は もういいんですか?」
「え  はぁ ええ?」
はじめてのまともなかいわに はげしくどもるおれ

「さいきんみどりのいろを たくさんかってらしたから
 もう えはかんせいされたんですか?」
「ええ まあ そ そ そんなところです」
「ぼく みどりいろすきなんです
 えぷろんもとくべつみどりのにしてもらって」

「おれも すきです」
かれがびっくりしたかおになる おれはあわててつけたす
「……みどり が」
うっかり ふたりでくすくすわらいあってしまう

「あの おれ あなたにみせたいえが あるんですけど」
じぶんにえをあたえてくれたことを はじめてかみにかんしゃ
どきどきしながらかれのすんだめをみつめている あるががくせいのいちにち

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