あるこいびと の いちにち 2

home page
42-44,49-51 163 281-283 426 628-631 654-656 668-670 740-742  ■  みっかよりながいにっき / 223-224

□ 42-44 □
【あるだいがくせいのいちにち】

こちこち こちこち かべどけいのおとがきになる
ついでに じぶのしんぞうのおとも やけに きにかかる
こーひーなんてとっくにさめてるし もともとそんなに すきじゃない

ちらっと めのまえのひとをうかがうと むひょうじょうで こーひーのんでる
このひととはぐうぜん えきまえのほんやであった
めがあって おたがいおどろいて おれはにげようとして つかまえられた
「ちょっとじかんある?」
そんなふうにいわれたら ことわれるはずもなく こくこくうなずいた

どんなかんけいかといわれてしまえば
うわきされてるほんめいと うわきあいてのおれ
なんつー せつなさかしら なんつー ひせいさんてきな…

かちゃんと かっぷをおかれるおとに びくっとかたがふるえた
それであいてがおれをみて 「ごめんな」と あわてていってくる

「いきなりさそってごめんな よていとかあったんだろ」
いや なんもないっす じゅぎょう さんげんまでだったし
「ああ だいがくせいだったっけな そういえば」
あ はいー

「わかいなあ」とつぶやくこえに はあ とわらう
すーつのきまる おとなのすがた
そういうのは おれには ない
「ええ と」
はいー
「よびとめてここまでつれてきてなんなんだけどさ」
はあ
「……とくにいうこともねえんだ そういや」

らんぼうなくちょうよりも そのないようにびびった
わかれろとか どういうつもりなんだとか いわれるかとおもったのに
そんなふうにおもったのがかおにでたのか くしょうされる

「なれてんだわ」
こまったように あたまをかいて
「おまえさんで えーと… ななにんめかな もう」
おれもしってる けっこうひどいことをいって
「…そうか あいつはやめとけっていうべきだったのか ここは」
ためいきをついて またすこし わらう

なんつう へたっくそな おとななのに どへたくそな
あいつもばかだ おれのこと かわいくないとか すなおじゃないとか
さんざんいうくせに ほんめいもにたようなもんじゃねえか
むしろ おれにわをかけて いじっぱりそうな きっついめ
たぶん おれとおんなじで あいつのまえで ないたことなんて ないんだろう
こーひーをのむかおだちは おれより ずっとおとなびてる
もとよりとしうえずきで しかもこういう すこしかげがあるのが めちゃくちゃあいつごのみ
いつもいつも うっせえくらい なぐりたくなるくらい なきたくなるくらい いいきかされてるよ
おまえじゃかわりにならないって いわれてるようなもんだよ

あいつ きすしたあとに いつも わらうよね

ぽつっとこぼしたあとに しまったとおもう
なんかおれ とても いやみっぽい

「わらうよな」
いがいにもふってきたことばに かおをあげて いきをのむ
なきそうなかおで ほんめいが わらっていた
あいつ ひういういたいたしいの だいすきだ
「むかつくよ いつも」
おしころしたこえは ないているのに かおは ひにくげにわらう
ほんとにすなおじゃない どこまでも あいつごのみな

ごめんね ごめんなさい おれ このまんまで いいんだ

つっかえながらひっしであたまをさげる
そのあたまを 「おまえもばかだなあ」と やわらかいこえで なでられた

ずるくて そのぶん このひとよりつよいおれは たぶん このひとよりじゆう
でも そのぶん かるがるしい それが かなりせつない
にばんめとだんげんされているだいがくせいの むねにいたい ひるさがり

------------------------------------------------------------------

□ 49-51 □
【あるさらりーまんのいちにち】

きっさてんをでて さいならーとてをふるあいてにかるくてをあげて じぶんもあるきだす
しばらくしてから ねこぜになってることにきづいた
ぴん と おおげさなくらいに せすじをのじす
すこしめせんがたかくなったようなきがして うれしい

ふりかえると もこもことやけにあつぎのだいがくせいが おなじくねこぜで あるいていた
ねこじた ねこぜで ねこっけな おれよりむっつした
あいつより ふたつした

ななにんめといったら らっきーせぶんとわらったらしい
めずらしく あそびなれていなくて はじめてのとししたで
おれによく にていて
だから こんどこそは ほんきなのがわかった

「おれ とししたってあつかいかた わかんないしさ」
そんなふうにわらいながら ひとのひざまくらで ごろごろしていた
わがままな ひとりっこ きままで みがってな とししたのこいびと
もういっかげつ かおもみていない

ふたりぐらしのどあをあけて ひとりぶんのゆうはんをつくる
もくもくといものかわをむきながら なんだか
だんだん だんだん むなしくなってきた

ごねんまえに こくられて さんねんかけて くどかれて
にねんまえに かくごきめて あいつにおちた
そのくせ うまくいったのなんて かぞえるくらいにしか ない

それでもその かぎられたじかんが やけにやさしくて いまいましくて
かけがえなく だいじで はなれられない
いまでも もう おたがいにひえきってひさしい いまでさえ
そのおもいでだけが あざやかだ

でも おもいでばっかりおってるようなら もう だめなんだろう
なんとかしようとおもえたのは だいぶまえのことだ
あいつも れんらくをよこさない いえにもしばらく かえっていない
そろそろ しおどきかもしれない と
なんどもなんどもおもったことが きょうも むねをよぎる

しらずてをとめて はんぶんむいたいもをぼんやりみていると
がちゃりと どあのあくおと そして
「ただいまあ」と まのびした きらくなこえに
ごつっ と ほうちょうがおちた

「あぶない」
どあをしめて すたすたとちかよってくる
こしをかがめたしゅんかんに いつもとおなじにおいがした
「はい」
ほうちょうを りょうてでわたされる そして わらった
「なんか びみょうに やせました?」
ほおにのびてくるゆびを からだごとよけると
すこしきずついたようなかおで やっぱりまた わらった

「おれ いわないよ」
なにを と いうまでもない
「おれはいわないよ いわせようとしても だめだよ」
うるせえよ どなりつけたくても のどがいたくて こえがでない
「…あんたたちって こういうときぜったいに なかないねー…」
ここでなお くらべるこいつを ぶっころしてやりたいと おもうのに
のびてくるうでを どうしてふりほどけないのか なさけなくて くるしい

おれの なにがそんなに おしいんだよ
きけば 「ぜんぶ」と だきしめられた

やめたい にげたい おわらせたい でも ほんとうは ふたりでいたい
つらいおもいはもう ろっかいした ななかいめは たえられそうにもない
じぶんのほうがあいてよりほれていることに きづきたくない
きづいても しらないふりをしていたい くちさきだけのほんめいの いちにち

□ 163 □
【あるくちべたなおとこのいちにち】

おれのこいびとの くちぐせ「あいしてる」
まいにち まいにち あたりまえのように やさしく
えみをうかべて そういってくるこいびと

おまえそんなこと はずかしげもなく よくいえるよなと
あきれてつぶやいたら すこしこまったようなかおで
いつもほんとうに そうおもってるんだ おまえがいちばんだいじだよ だと

してやられたってこのことか なんかいっぽんとられたきぶん
てをあげて こうさんのぽーずをとったら こいびとがわらった

るすでんにも はいっていたときは いわれなれてるおれでも さすがにおどろいた
いつも かえりおそくてごめん めしはてきとうにくっててくれ あいしてる

つーか なんでこいつ 「あいしてる」って すなおにいえるんだ?
もうずっと きいてきただけの ことばだけど ほんとうは
ずっと ずっと「おれも」って いいたくて でもいえなくて

つまんねぇいじとか てれとか ぜんぶすてて こんや「あいしてる」
と あいつがかえってきたら いってみようかなとけっしんする くちべたなおとこのよる

□ 281-283 □
【ある おくびょうなおとこの よる】

まだ よいんののこる あついからだ
みだれた こきゅうと しんおんが
ゆっくりと おちつきを とりもどしていく

かたわらの たいおん
いとおしい そのぬくもりを
これいじょうないほど ちかくで かんじながら
ぼんやりと かんがえる

どうした と といかけてくる やさしいこえ

こたえずに だまったまま しせんだけ からめる

どうした と また といかけてくる やさしいこえ

こうかいしてるのか
やさしいこえが すこしふあんげに とう

そうじゃないよ
ああ でも
もしかしたら そうなのかもしれない

むねのなかのことばをのみこんで
だまったまま くびをふり
できるだけ じょうとうの えみをうかべる

ごめん ちょっと たましいぬけてた
あんまり しあわせで
そういうと かれは いっしゅん おどろいたようなかおをした
でも すぐに まんめんのえみ
おれのだいすきな その えがお

しあわせそうに わらう かれの うでのなか
いえなかったことばを むねのなかで はんすうする

ほんとうはね
ほんのすこし こうかいしてるのかも しれない
おまえとの こい を はじめてしまったこと

だって はじまりには おわりがつきものだから
はじまってしまったものには やがて おわりがくるものだから
こいにも いつかは おわりがきてしまうだろうから

こいが いつか おわってしまうものなら
たとえ ふれることは できなくても
おわることはない しんゆうのままで いればよかった かもしれない

だって おれ おまえが だいすきだから
せかいじゅうで いちばん たいせつで だいすきだから
おまえを うしないたくないんだ
おまえとの つながりを なくしたくないんだ

ごめんな ありがとう だいすきだよ ごめんな
なきたいほど いとおしい やさしいぬくもりに つつまれながら
こえにださず くりかえす

だいすきだよ だいすきだよ だいすきだよ

すきだからこそ まだかけらもみえていない そうしつに おびえてしまう
おくびょうなおとこの おくびょうなこいのはじまり
その はじめての よる

□ 426 □

せっとしてあるはずのめざましどけいがなぜかちんもくしている。
ぎょっとしてみなおしたもじばんはいつもよりじゅうごふんほどすすんでいた。
いっぱつでかくせいしてとびおきて、いっきにかーてんをあける。
ついでにとなりにねていたからだをべっとからけりおとす。

いぎたなくふとんにしがみつくからだをふんづけてせんめんじょにむかう。
こうぎめいたうめきごえはきこえないふり。
かおあらってはみがきしてひげそって。あらったばかりのしゃつにうでをとおす。

せっとしてあったすいはんきのふたをあける。
たきたてのごはんのゆげでめがねがくもる。
たとえどんなにおそくかえっても、これだけはかかさないでいる。

ちゃわんはふたつはしもにぜん。
じかんがないからわかめのみそしるとめだまやき。

だいどころのてーぶるならべおわる。それなりにうまそうなあさごはんにまんぞくして
しんしつへむかう。きょうはじゃーまんかあーむぶれーかーか、おーそどっくすに
よんのじがためか。

「「いただきます」」

あさはごはんじゃないとちからがでないときめこんでいるおとこのあさ。

□ 628-631 □

くつをはいたあと とんとんとつまさきをゆかにぶつける
りょうあしともそうするのを みおくりのおれはじっとみる
かえりぎわはいつもこう せきをたち くつをはき どあがしまるそのときまで
はやいものでいちねんちかくも しゅうにいちどかにど むかえては みおくって

じゃ そろそろいくよ

ふつうのわかれぎわのあいさつを よそおったとくべつのさようなら
よそおったことさえばればれの どうしようもなくぶきようなおとな

うん わかった

さっくりとかえしたひとこと すこしきずついたようなひとみのいろ
ちょっとまってよ なんかりふじん こっちがわるいようなきになってくる

せまいあぱーとの しきいのこっちがわでおみおくりのおれ
なんだかめをふせて だまってしまったあなたのかおがよくみえない
こっちがいちだんたかいせいもあるのかな せたけはそんなにかわらないのにね
あなたをうでのなかにすっぽりおさめたりはできなかったけど それもわるくなかった

べつにやわらかくもない それなりにかたいくろいかみ
ごくごくひとなみのしんちょう ひとなみにきんにくのついたからだ
ぶさいくではないけど びけいとはけっしてよべない ふつうのかお
どこをとってもどうということのないひとだ であったころからいままでも
かのじょができてもよくてさんかげつしかもたなかったおれが
よくもまあいちねんもつづいたものだと しみじみおもう

ごめんな

ながいながいちんもくのあと めをふせたままぽつりはいたことばがそれ
は? なにそれ おれわらっちゃうよ? ほんとにどこまでもぶきようなおとな

なにが? きにしなくていいよ

すこしだけあなたがおもてをあげる
ちょっとほっとしたようなかお どこまでもかなしそうなひとみ

ほら はやくかえってやれよ おくさん まってるよ

ああ そんな きずついたかおしないでよ
だてになんかいつきあってももたなかったわけじゃない
かなりのかず わかればなしをけいけんして がくしゅうしたのは
こういうときは さっくり さっぱり あっさりと ってことなんだ
あなた ほんとうにぶきようなおとなだから おれがしむけてあげるから

へやのざぶとんのうえで まなーもーどになったままのおれのけいたいがふるえてる
だれだかしらないけどごめん ちょっといまはそれどころじゃないからむし

さんだるをつっかけて げんかんにおりる
せまいげんかん かえるまえにはかならずきす そのままここでしたこともある
ちかいのがあたりまえだったきょりを このせまさのなかどうとっていいかわからず
あなたのからだに ほんのすこしきんちょうがはしった

かぎをあけて どあをあける

さんれんきゅうのさいごのひ よかぜはとてもつめたい
はいりこむよるのくうきといれちがいに
いちにちじゅうあなたといっしょにいた へやのくうきがながれだしていく
そして さいごに あなたが

なにかいいたげなようすのあなたを さえぎるようにどあをしめた
たちさらないけはい しばらくたってからとおのくあしおと
きこえなくなってからかぎをしめた

おたがいあいてがいなくてさみしくて
ぐうぜんであってからは めーるやでんわでれんらくをとりあって
しゅうにいちどはしごとをはやくかたづけて おれのいえにあそびにきた
かよいづまみたい とわらったこともある めしをつくるのはおれだったけど

のろのろとへやにもどって そういえばけいたいがなっていたのをおもいだした
ちゃくしんがいっけん めーるがいっつう どちらもだいがくのともだちから

いま いそがしい? ごにんくらいでからおけいるんだけど くる?

ごにんくらいということは たぶんいつものおとこだらけのめんつ
どうしようかなといっしゅんかんがえて いったんけいたいをゆかにおく
てーぶるのうえにおきっぱなしだった びーるのあきかんをふたつごみばこへ
ついでにぴざのあきばこをつぶしにかかる
からいのはすこしにがてだというから つかわないままだったたばすこをごみばこへ

そのとき はじめて なみだがでた

なみだはどんどんでて どうしてもとまりそうになかった
ぬるいみずはめからでているはずなのに
まるでむねからあふれだしているかのように のどのおくをしめつけた
しかいをにじませたまま ことわりのめーるをうつため けいたいをてにとって

するとまた ゆうじんから ちゃくしん

なかなかきれないちゃくしん ひとつひとつのけいたいのふるえが
だいじょうぶか と といかけてくるようで でもとてもこんなじょうたいではでられない

がめんのひかるけいたいでんわをにぎりしめ うずくまってなきつづけた
あるだいがくせいの さんれんきゅうと いちねんかんのこいのおわり

□ 654-656 □
【ある みっつのいし のいちにち】

いしは まいばんかたりかけられる うけのことばに へんじをしていた

せめ きみがいなくなってから もうずいぶんたったね

ずいぶんたちましたね
あなたも としをとった

きみがいなくなっても ぼくはじゅんちょうにかいふくした
はいはなおったんだ

ええ… ただ ときおりつづくせきがしんぱいです

たしかにさむいと いまだせきがとまらないが せめがいたひをおもいだすから まぁよいことにしているんだ

そうですか けれどさいきんのせきは あまりいいせきではありませんね

そろそろわたしも きみのもとへいけそうだ

なにをいってるんですか せめはそんなことのぞんでいませんよ

さなとりうむからでたわたしが きみとさいかいしたあのひ ちょうどあのひ おわったんだ

そうでしたね いっしょにラジオをききましたね

きみのいないろくじゅうねんはながかった

あなたはずっとひとりでしたね せめとのやくそくも まもってくれた

いしみっつか…
まさかさきにきみがいくなんて おもってもみなかったよ

あなたのために せめはさくらとちったのですよ

ふしぎだな… せめとはなしているようだ

せめは わたしのなかにいきているからですよ
だから まだ まだいきてください

しかし もうこれもさいごかもしれん

うけさん…

かぜたちぬ いざいきめやも… いきぬいたよ せめ…!

うけさん…しっかりしてください…!!

いまからきみのもとへいくよ…くだんへ くだんへいくよ

うけさん…っ!!

ろくじゅうねんを
かぜたちぬ いざいきめやも
せめとのやくそくひとつでいきた あるろうじんをてんへみおくった
ある みっつのいしの いちにち
いま そらは いつわりなく すんでいます

□ 668-670 □

いいにおいをさせてさんまがやけた

こんがりとやけたさんまがにひき いっぴきずつさらにとって
さらのはしにはだいこんおろしをたっぷりのせる
あきもじょじょにふかまってからくなってきただいこんおろし

ふたりぐらしじゃ すいはんきでたくとおおすぎるから
まいしゅうにちようごはんをたいて いちぜんぶんずつれいとうにする
あたたまったしろいごはん らっぷをはずすとすごいゆげ おいしそう

ちいさなてーぶる さらをならべる ゆのみときゅうすもよういして
あとはかえりをまつばかり それまでぼんやりてれびでもみますか
ああ ふたりくらすことのしあわせ おかえりとただいまのうれしさ

なーんて。な。

べらんだのそとでみゃぁとねこがないた ここのところまいばんくるくろいねこ
まいにちまいにちえさをやるから どうやらなついてしまったらしい
まんしょんのいっかいなので べらんだにのぼるぐらいねこにはおてのもの

ほれ きょうはさんまだぞ

みゃーとねこがなく うれしそうに
あぁ あいつもさかながすきだった よくこんなふうにうれしそうにしていた
ただあいつとちがって ねこはだいこんおろしをたべない

てれびをみていてもなにをいうこともない
そういえばまえよりおもしろくもなくなった ただなんとなくつけているだけ
おもしろくないわけではないのだけれど

たりないものはわかってる

でもそれってごはんにふりかけをかければいいような
だいこんおろしをたっぷりのせればすむような そんなはなしじゃ けっしてない

ねこはうれしそうにさんまをたべる あぶらののった しゅんのさんま
うまいかときいたら みゃーとないた わかってんのかねとにがわらい
あしたはにくにするぞ おまえ うし・ぶた・とり、どれがいい
きいたらやっぱりこたえはみゃー おかしくなってふつうにわらった

さみしいなあ さみしいなあ おもいつづけていっかげつ
もうどうしようもないんだと あきらめがついてからやくいっしゅうかん
ひとりぶんのしょくじをつくるのはめんどうで おかずがいっぴんへってちょっとやせた

よしあしたはからあげだ おまえまたくいにこいよ
くろいねこは うれしそう わけもわからないまま さんまをたべる

どあのまえにたたずむおとこが いんたーほんをならすまであとごふん
あすはからあげをににんまえとすこしつくる さみしかったおとこのゆうしょくどき

□ 740-742 □
【ある ながされがちな おとこの いちにち】

ぱそこんの ふぁんのおとが みみにつくほど しずか

でぃすぷれいにむかい はんしたをつくっている おれ
ざっしのれいあうと ぜんぱんをひきうける でざいなー
ゆうがたから よるにかけて うちあわせがたてこむから
しんやからが しごとほんばん
ごぜん2じ えんじんが かかってきたころ

ぴんぽーん

とつぜんひびく ちゃいむのおと
じむしょけんじたくの まんしょんのかぎは ねるときいがい かけない
いちいちでるのが めんどくさい
らいきゃくも おおいしな
だからおれは いすからたちあがらない
それに だれがきたのかも わかってる

「ただいまはにー きょうもとめてねー」
せいじゃくをやぶる のうてんきなこえ
ろごをつくるてをとめて とびきりつめたい よこめで ちらり
きのうも とまったじゃん きょうは かえれよ
しせんとおなじぐらい つめたいこえで こたえる
「だって こうりょうで とまりこみになるって いってきたし」
こいつ ぜんぜん こりてない

いま ここにいるってことは こうりょう おわったんだろうが いえ かえれ
ためいきまじり もういちど くりかえす
「やだよ せっかく いっしょにいられる じかんなのに」
ふきげんな おれをよそに えみまじり のんきなこえ
そのかおに おもわず あたまに きたから

……おくさん まってんでしょうが

なんのかんじょうも こめないように
さらりと なんでもないことのように
おれはいつから こんなものいいを するようになったんだろう

「……なんで そんなこと いうの?」

なんであんたが そんな きずついたかお すんの
「かえらないよ」
こうかくをあげて わらう あんた
かってしったるようすで ぷらいべーとえりあへ あるいていく
いつからそんな くらいめを するように なったんだっけ
あんたのせなかから めをそらすように でぃすぷれいに むきなおる

どうせあしたには ひきとめたって かえるくせに
じぶんの つごうの いいときだけ
いっしょに いたいだなんて

あんたには おくさんと かわいいこどもがいて
そもそもおれたちは あんたのけっこんを きに わかれたはずだよな?
なのに なんで ずるずると

いいだせない ことばが むねのおくに つもって
こころがどんどん おもたくなっていく

ずるいとか ひきょうとか そんなことばは じぶんにかえってくるだけ
なんでとか どうしてとか こたえのでないこと かんがえてもしょうがない
すくなくとも こんや いっしょにいられるあいだは

ためいきひとつはきだして しごとにもどる
ろごをつくりおわったら べっどにいこう
あんたが ねちまうまえに

ある よわくてひきょうなでざいなーの ねむれないよるの はじまり

■ 223-224… ■ 

どくりつしています。
こちらへどうぞ。

ある とししたせめ の いちにち

top  home page

【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15