あるふぁんたじー・じだいげきなひとびと の いちにち 2

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□ 107-108 □
【さんたくろーすのいちにち】

こんにちは さんたくろーすです ほんものです
さむいところに となかいくんと すんでます

「ごしゅじん ことしはてがみがすくないですね」
となかいくんが てがみのかずをかぞえる
ごねんまえとくらべると さんぶんのいちぐらいかなあ
はあ せつない

「ぶっちゃけ もうみんなさんたとか しんじてないんでしょうねー」
うっ となかいくん なかなかきずついたぞいまのは
たしかに さいきんのこどもたちは さんたくろーすなんてしんじてない
ほんとにいるのにね

ぼちぼちへんじをかきだす
「さんたさん ぼくはてつどうもけいがほしいです」
ふむふむ うえにとおるかわからないけど なんとかとどけてあげますよ
「かるてぃえのとけいがほしいです」
よさんがとおらないねー さんたじるしのめざましどけいでがまんしてねー

このしごとも いつまでつづけられるかねー
となかいくん きみもずいぶんとしだよね
「そりをひくのが だんだんつらくなってきましたよ」
だよね でもねんねん おくりものもへってしまったし
いんたいのまえに さんたがいらなくなっちゃうかもね

「なにいじけてんすかー いらないことないですよ
 すくなくともおれは ごしゅじんのしごとをほこりにおもってますよ」
そうかい ありがとね となかいくん
「ごしゅじん さいきんなみだもろいっすねー」
としだからねえ

ことしのくりすますもあとすこし
ぽすとにてがみがはいるのを そわそわしながらまっている
さんたくろーすのいちにち

□ 124-126 □
【ある まじゅつしの いちにち】

わたしには なかまが ふたりいる
ひとりは わたしより いつつ としうえの けんし
むかし かぞくをすべて なくした わたしに いっしょにこいと いってくれたひと

もうひとりは いつつ とししたの しょうねん
まものにおそわれた しゅうらくの たったひとりの いきのこり
わたしにそうしたのと おなじように いっしょにこいと けんしが てをさしのべた
とうじは ちいさなこどもだった しょうねん

わたしは しょうねんに まじゅつをおしえ
けんしは しょうねんに けんじゅつをおしえながら
ひろい たいりくを たびして すうねん まもられるだけだった こどもは
いまでは せなかをあずけられるほど たのもしくなった

あるひ たちよったむらの そんちょうに たのみこまれて
まものたいじを することになった
とてもいやな よかんがしたけれど おひとよしの けんしが ひきうけてしまったのだ

わりぃ ことわれなかった と にがわらいする みなれたかおに
その おひとよしのせいで しんだって しりませんからね と つい どくづいてしまう
しょうねんは けんしのよこで ためいきをついている ひきうけてしまったものは しかたない

そして いやなよかんは あたってしまった
どうくつの おく いままでみたことのなかった まもの まるで はがたたなかった
しょうねんと わたしを せにかばったけんしが あかい いろとともに

けんしのからだが たおれるおとを どこかとおくに きいた

どうしたらいい わたしがうごくまえに しょうねんが さけぶ
「けんしを つれて そとへにげろ!」
いっしゅんおくれて あたりが きりにつつまれる
わたしが しょうねんにおしえた めくらましの じゅつ

じぶんのからだから ながれつづける あかのなかに
ちからなく みをひたす けんしを だきおこす
その あおいかおをみて せすじがつめたくなった まよっている ひまはない

しなせて なるものか

くらい どうくつをぬけて ちじょうにでる
じぶんたちの しゅういに まものよけの けっかいをはってから
きをうしなっている けんしに いやしのじゅつを かける
かなりの ふかでだった
じゅつがきいている てごたえはあるのに ながれる ちのあかは なかなかとまらない
どれくらいの ときが すぎただろう けんしがようやく いしきをとりもどした ころ
どうくつの おくから ものすごくおおきな ばくはつおんが きこえてきた
みをおこした けんしとともに どうくつのおくへ めをこらす でてきたのは しょうねんだった

どうくつの てんじょうを くずしたんだ じかんかせぎくらいには なるだろう?
ふくもかおも すすだらけの しょうねんが わらった そのえがおに ほっとする

いくらなんでも やりすぎだぞ がき!
おまえがやられるからだ へたれけんし!
さっそく くちげんかをはじめる けんしとしょうねん
ああ よかった こころのそこから あんどした

そのおもいを くちにはせずに
いったん むらへもどりましょう わたしは れいせいなつもりの こえでいう
それでもすこし ふるえていたかもしれない

ふだんは どんなに どくづいていても
ほんとうは なかまふたりが たいせつでしかたない
まじゅつしのゆうぐれ もりのなか

□ 286-291 □
【あるきかいにんげんのいちにち】

ただいなきたいを かけられて めざめた
ある いったいの きかいにんげん
かれは このよで いちばんこうせいのうな
すばらしい さつりくへいき だった

しかし とんでもない ばぐはっけん
かんじょうなど もっていない はずが
かれは むしひとつ ころせない
やさしいこころを もっていた

まったくのよていがい
こころやさしい さつりくへいき
おさなごのように むくで むじゃきで
はながすきで うたがすきで
いきものがだいすきな さつりくへいき

さつりくへいきとして まるでやくにたたない
とんでもないしっぱいさくだ と
えらいひとたちは ごりっぷく
かがくしゃたちには かれの はいきめいれいが くだされた

あるよるのこと かがくしゃのひとりが
よぞらをみあげていた かれに こえをかけられた

ぼくの はいきは いつですか
いつにきまりましたか

こころをもっていた かれは
じぶんが みんなのきたいをうらぎった やくたたずで
いらないものだと きづいていた
ころされることに きづいていた

ぼくの はいきは いつですか
おだやかにたずねる かれのこえに かがくしゃは すこしだまり
あしたのよるだよ と しずかにつげた

そうですか あしたですか

じゃあ もういちど
あのきれいな あさひが みれますね
とりたちのうたが きけますね
きれいな ゆうやけが みれますね

ほしぞら や つきは どうなのかな
でも こんやのそらも きれいですよね
あんなに ほしが またたいて つきが ひかってる

ああ ほんとうに
せかいはとてもうつくしくて いとしいもの ですね

かれは うれしそうに そういった
かがくしゃは なんだか なきそうなかおになって
だまったまま さっていった

よくじつ かれは あさから すがたがみえなかった
もしかして はいきされるのを おそれて にげだしたのかと
かがくしゃたちは うおうさおう

けれど ゆうがたになって かれはもどってきた
しかしあちこち どろだらけ

どこにいっていたんだい
きのう かれに こえをかけられた かがくしゃが たずねると
かれは にっこりわらって
たねをうえてきました と いった

このせかいは ずっとむかしからつづいた せんそうで
どこもかしこも あれはてている
じめんをおおうのは こころなごむ はなではなく
めを おおいたくなるような ち と したい

はなのたねを うえてきました
はなをみると しあわせなきもちに なるでしょう
だから みんなが しあわせなきもちに なれるように
はなのたねを うえてきました

かずが あまりないから まばらにしか うえられなかったけれど
めがでて はながさいて たねができて
そこからまた めがでて はながさいて
そうやって ふえていって
いつかは いっぱいのはなが さくでしょう

ぼくは それをみることが できないけれど
きっと きれいでしょうね
みんなは よろこんでくれるかな
はなで いっぱいのせかいを よろこんでくれるかな

かれが うたうように つぶやいたことばに
かがくしゃは きのうとおなじように なきそうなかおをした

ひとよりも ひとのこころをもった さつりくへいきは
さいごのひに
あれはてた だいちに はなのたねを
ひとびとの こころに へいわのたねを
いくつも いくつも うえていった

よるになり かれは へいきこうじょうへと つれていかれた
かれがつくられ めざめたばしょが
にどとめざめない ねむりにつくばしょ

ぼくはきかいにんげん さつりくへいき
こころを もっていちゃいけなかったんだ
うまれてきちゃいけなかったんだ

でも かみさま
ぼくはしあわせでした
すこしでも いきられて うつくしいものが みれて
とても とても しあわせでした

いとしいせかいに わかれをつげて
きかいにんげんは えいえんのねむりに ついた

すうねん すうじゅうねん すうひゃくねん
たくさんのねんげつが すぎ
かれのことを おぼえているひとなど いなくなったころ
せんそうも このせかいから きえてなくなる

そのとき ちじょうをおおうのは
ち や したい ではなく はな
かれのうえた うつくしい はなばな
かれのうえた はなは すべてを いつくしむように さく

ゆっくりと あかいゆうひが しずみ
まもなく そらには ふかいあいいろが ひろがり
きらきらと かがやくほしが またたくだろう

そしてふたたび のぼったあさひは
たくさんのはなが さきみだれ
ひとびとの えがおと わらいごえで みたされた
うつくしいせかいを てらすだろう

やさしい うたのように ずっと つづいていく
うつくしいせかい と へいわなひび

そんなみらいを みれないまま おわってしまった
きかいにんげんの いのち と さいごのいちにち

□ 323-324 □
【あるしろいとうにすむせいねんのいちにち】

せいねんはひとりしろいとうにすんでいる
もりにぽつんとたつしんじゅのようにしろくかがやくとう

このもりは しのもり
せいねんはものこごろついてからじぶんいがいの「いきもの」をみたことがない

やまのようにあるほんでしかしらない
とり うし うさぎ いぬ ねこ
そしてほかのにんげん

けれどもせいねんはここをでることができない そのすべをしらないから

ぼくははたしていきているのだろうか そうくりかえしながらただすぎてゆくひび

あるあさ

なれしたしんだおそろしいほどのせいじゃくに ふいにふおんなおとがまざる

あめのおと?かぜのおと?
…いやちがう きいたことのないおと

あわててまどからかおをのぞかせたせいねんのめにうつったのは
ひとりのおとこ

ぼろきれのようなふくをまとい たんけんをこしにさした
くろかみのおとこ
おとこ…たびびとは せいねんをみるとこういった
よごれたかおをくちゃっとゆがめて

「やあ、ここはきみのいえか おじゃましてもいいかい」

たびびとのこえはとくべつうつくしいときの
かぜのねのようだった

おどろきとよろこびときょうふとそしてよくわからないおもいとで
せいねんは なにもいうことができない

ただまどのしたのたびびとにむかって てをひろげ
なんどもなんどもうなずくことしか
せいねんは できなかった


これはものがたりのぷろろーぐ
とまっていたせいねんのときがうごきだした
あるはれたあさ

□ 350-357 □
【あるおうこくのあるおとこのいちにち】

へやのなかは、ろうそくとつきあかりにてらされ、
うかびあがるのは、しんだいのうえにおきあがったひとかげ。

おかえりなさいませ。ごぶじでもどられて、なにより。
わずかにかすれた、ひくいすんだこえが、おとこへとなげかけられる。

うかがうのがおそくなり、もうしわけありません。
あたまをさげるおとこに、かれはくびをふった。

わたしこそ、みなりもととのえずおあいすることを、おゆるしください。

おとこのつよいひかりをはなつめは、
かれのからだがあいかわらずおもわしくないことを
ひとめでみてとり、くらくかげった。

あやまるそのひとのしろいはだも、やせたからだも、
びょうにんのそれだった。
やまいはながくこのひとのうえにとどまり、
そのいのちをうばってきたが、
それでもなお、かれはすんだひとみをしている。
きょうはあいさつにまいりました。あすのあさはやく、ここをたちます。

また、ゆくのですか?

ええ。ふたつきもあればもどってこれるでしょう。

そのこたえに、かれはめをとじた。

ゆくな、といったら、あなたはゆかずにいてくれますか?

おとこがかすかにかおをこわばらせたことを、
めをとじていたかれはしらない。
つかのまのちんもくのあと、おとこはこたえた。

いいえ。たとえあなたのねがいでも、それはきけません。

では、もうなにもいいますまい。
ごぶじでおもどりになることを、いのっています。

しずかにそうつげて、そのめがふたたびひらく。
かなしみをたたえたひとみは、すんで、ふかく、うつくしく、
じょうあいにみちていて、おとこはめをふせずにはいられなかった。
おとこはこのくにのおうだった。

かれには、ははおやちがいのあにがひとりいて、
なきおうひによくにたおもざしの、うつくしいそのひとは、
かしこくやさしく、くにをうれい、たみをあいし、
みなにあいされ、けいされて、おうになるにふさわしいじんぶつだった。
じゅうななになったあるひ、やまいにたおれるまでは。

だれもがかなしんだが、
とりわけちちおやたるおうのなげきはふかかった。
けれども、めをさましたおうじは、こういったのだ。

ちちうえ、あまりなげかれますな。
すべてをうしなわずにすんだのは、こううんだったのです。
おとうとはゆうしゅうなこです。きっとよいおうになるでしょう。
わたしもかれをたすけます。

やさしい、あいじょうにみちたことばに、うそはなかった。
かれはおきていられるじかんのほとんどを
おとうとをよきおうへとみちびくためにつかい、
そのせいちょうをだれよりもよろこんだのだ。
しょしたるおとうとは、あにとちがい、ははおやのみぶんがひくく、
きぞくからはかろんじられ、
おうぞくたちからはうとんじられもしたが、
あにだけはかれにやさしかった。

おさないころ、ちちおやすらもかれをかえりみなかったとき、
あにだけはかれをかまい、あそびあいてになり、
ときにけんを、ときにしょもつをあたえ、
ははおやのちがいなどいしきさせないほどに、
よきあにでありつづけたのだ。

いつしかそのうつくしいおもざしに、すんだこえに、やさしいてに、
おとうとはこがれるようなむねのくるしさをかんじたが、
いってはいけないのだとしっていた。
しられることもあってはいけないのだと。

それでもあにはうつくしく、やさしく、
めをとじたくらやみのなかでさえ、まぶたにうかぶのはそのかお。
おとうとをおどろかせようと、にわのしげみをくぐりぬけるとちゅうで、
えだにかみがからまり、ぬけられずにいたひと。

あきれたかおをしながら、そのかみをほどくおとうとの、
ゆびがふるえていたことを、かれはしらなかっただろう。
きぬのようなかみに、うしろめたさをかんじながら、
いつまでもさわっていたいとねがったことも。
おとうとはじゅういち、あにはじゅうろくの、あるはれたはるのひのこと。

あにがねつでたおれたのは、それからいちねんご。

あにがおきているじかんのほとんどをどくせんし、
そのそばですごすひびの、くるしいようなあまさ。
あにがめをさましたあのひ、
それだけでよろこびとかんしゃとでみたされたのに、
いまではそれいじょうのものをもとめている。

くるしみからのがれるように、しょもつにけんにとうちこめば、
あにはこころからよろこび、まぶしげなめでおとうとをみた。
そのたびにかれのむねがいたむこともしらず。
すうねんのうちに、おとうとはあにのせをおいこし、
けんのうでも、あらゆるちしきも、
さきをみとおすちからも、がいこうのうでも、
だれもがめをみはるほどにすぐれたさいのうをみせた。

ちちおやであるおうが、
そのせいちょうにあんどしていきをひきとったあと、
おういをついだかれがはじめたのは、
このひろいたいりくのとういつ。

だれもがめざし、だれひとりとしてせいこうしたことのない、
きのとおくなるようなれきしのはじまり。
たくさんのぎせいとじかんのうえにきずかれるえいこうは、
あにがおとうとにおしえたおうのみちとは、
あまりにかけはなれていた。
さいしょのいくさからもどったとき、
おとうとをみるあにのかおから、それまでのあかるさはきえていた。
あおざめたかおで、あにはおとうとにとう。
なぜ、と。

そのといにおとこがこたえることはなく、
いちねんがすぎ、にねんがすぎて、ごねんめになると、
あにのひとみはかなしみをたたえるようになり、
おとこのおさめるりょうどはさんばいに、
ほろぼしたくには、とおをこえた。

いくさのたびに、もたらされるのは、
そのくににつたわるいじゅつとひやく。
かぞえきれないほどのそれらをためし、
それでもあにのからだがよくなることはない。
ゆくな、といったら、あなたはゆかずにいてくれますか?

いいえ。いいえ。あにうえ。
あなたのからだをもとにもどせるなら、
あなたのそばをはなれるためなら、
わたしはなんでもするでしょう。
いくさをやめはしないでしょう。
あなたのそばにいて、あなたにふれたいとおもういっぽうで、
あなたのそのめが、わたしのよくぼうをみぬくことをおそれている。
なによりも、そうとおくないみらいに
あなたがわたしをおいてゆくことがおそろしい。
あにうえ、あなたをおもうとき、わたしはきがくるいそうなのです。
このかんじょうはせんじょうにしかゆきばがない。
あいしています。
あいしています。だれよりも。

あすにはまたいくさへともどる、あるわかいおうのいちにちのおわり。

□ 524-527 □
【ある えいゆうの さいごの いちにち】

だれもがにくむ、てきのしょうぐんのあなたを、なぜかにくめなかった。

さいしょにあったときのことを、あなたはきっと、おぼえてないだろうね。
あなたにころされそうなちちをたすけにかけつけて、あなたとけんをかわした。
まけることをしらないあなたのめを、わすれられずにいたよ。

それからずっと、ときがながれて。
おれは、あなたをたおすことだけを、かんがえていた。
あなたのくにに、こんどはおれがせめこんだ。
あなたはかえってきた。
おれとたたかうために、かえってきた。

あなたはてがみをくれたね、たたかうまえに、あわないかと。
ねえ、おもってもいいのかな。あなたもおれをわすれずにいたのだと。

たかなるむねのおとがうるさいほどで、あなたとふたり。
あなたがなにをいうのか、きたいにこころは、たかまって。
いきをころして あなたがくちをひらくのを まっていた。

あなたはゆっくりと、でも、はっきりとじしんにあふれたこえで、かたったね。
そういうはなしかたをするひとだということも、このときはじめてしったよ。
そのこえで、あなたはなにを、かたるのかな。
おれは、ぜんしんをみみにして、あなたのはなしにききいってた。
だから、おどろいた。

だって、あなたは、こういうんだ。おれのことをしんぱいしてる、だなんて。
はんそくだよね、それは。そんなふうにいえば、おれがたたかいをやめるとでもおもっているの?

おれは、たたかわなくちゃいけない。もう、あとにはひけない。あなたをたおす、ただそのためだけに、ながいとしつきをすごし、どうほうのちしおをのりこえてきた。
こんな、ばくぜんとした、あわくて、もやもやしたおもいのために、くにをうらぎるわけには、いかないんだ。

よくじつ、おれはあなたにしょうりした。
あなたのふはいのしょうごうに、おれがはじめてきずをつけた。

おれは、えいゆうになった。まつりあげられ、そんけいされた。
えいこうも、めいよも、すべてがおれのものだった。

けれど、おれは、つかのまのえいゆうだった。
やがておれはうとまれていく。いばしょのないくに。
あのときおれは、いったいなんのために、あなたとたたかったんだろう? こんなくにのために?

そんなとき、もういちど、あなたにあった。
あなたもおなじように、くにをおわれていた。
おれたち、にていたね。
あなたも、おれとおなじようなくるしみに、さいなまれているのかもしれないね。
あなたも、そうおもってくれるかな。

あなたにとって、おれはいったい、なに?……なんて、きけないから。
ねえ、いちばんすぐれたひとは、だれだとおもう?、そう、きいてみた。
あなたがこたえたのは、べつのひとのなまえ。
じゃあ、にばんめは?
また、べつのなまえ。
さんばんめは?
あなたじしん、だって。
じゃあさ、もしも。

もしも、あのとき、かったのがあなただったら? あなたのふはいのしょうごうに、きずがつくことがなかったならば?
あなたは、こたえた。そのときは、あなたじしんが、いちばんだと。

ねえ、あなたにとって、おれはなんばんめ?
はっきりきいたところで、きっとあなたは、こたえてくれないんだろうね。
そういうおもいを、ことばにすること、あなたはしらないから。

ねえ、おれたち、にてたよね。てきだったけど、おなじだったよね。
みかたのだれよりも、あなたのことをわかるのはおれで、おれのことをわかるのはあなただったよね。
このよでは、ほんのすうかいしか、あえなかったけど、これからゆっくりはなしをしながら、いっしょにいこうよ。

□ 528-529 □
【くにをすべる ひとりのおうのいちにち】

わたしはだめなおう おまえはすぐれたさいしょう
だれもがそういう だれもひていしない れいがいはさいしょうくらいだ
かれは わたしのことをひょうかしてくれたことがない

かりがすきだといったときも おんながすきだといったときも
ばかさわぎとさけがすきだといったときも
おまえはなんだか それでかまわないですよというだけだったね
さいしょうはやっぱり みながみとめるおかたいにんげんなので
わたしたちのなかかわるいとおもっているにんげんは おおぜいいるね

それがわるいともなんとも わたしはおもわないけれど

あさかゆうに おまえがかならずくる
わたしはいいっぱいべんきょうしていて せいじのはなしをする
いっとうりょうだんにされたり きづけばまるめこまれていたり
そもそも こんなはなしはすきではない
おまえとはなすためでなければ だれがこんなこと

このくには おまえがまもってくれればいい
わたしは たんじゅんなめいれいだけをやるよ
それはもちろん おまえのふたんをへらすためならばなんでもするけどさ

おんなあそびも ちゃんとりえきのあるあいてにしたよ
そもそもめかけはみとめられているし こづくりにもはげんだ
けどなんだか あまりたのしくなくなったのはなんでだろう
おうにかしずくおんなどもが むかし くどくのにくろうしたころとちがって
すこしもいとおしくないのはなんでだろう

ぽつりとつぶやいたら ばかなはなしをしてしまったとみっともないと
わたわたととりけそうとするわたしにわらって
おまえは「あなたがやさしいひとだからですよ」といったね

おせじなんてらしくない らしくない
おまえがわたしのきげんをとらなくてはならなくなったら くにのおわりだ
どれだけふだんからせわになっているとおもっているのだ
みながいっていると ねつべんをふるっていたら なんだかわらわれた

なぜわらう

しかし かれのえがおなんて やっぱりそうそうみられないのでひどくうれしい
おまえがよろこぶことならば なんでもやるよ
けれど おまえはわたしのばかなこういなんてよろこばないからね
なにをやったところで きっとよろこびなどしないだろうなとおもうので

だからおまえが どうしようもなくすきなのだが

わたしはだめなおう おまえはすぐれたさいしょう
だってこの ゆたかでうつくしいくによりも
すこしうつむいて すこしまゆをよせる おまえのほうがすきなのだもの

きょうもあいにきてくれて うれしかったとそれだけの
ばかなおうの そんないちにち

□ 585-588 □
【あるかていきょうしのいちにち】

そのひのおやしきは えらいさわぎになっていた
なんせ がっこうからかえって じしつでどくしょをしていたはずの
でんかのすがたが こつぜんときえたのだ
これはくにのいちだいじだと はしりまわるだいじんたち
みなにどなりちらされ ただただろうばいする そばづかえたち

そのさわぎのなかを ぼくは するりととおりぬけ
いつものじかんどおり ごごはちじに でんかのじしつのとびらをあけた

あんのじょうそこには つくえにむかい どくしょにふける
でんかのしたりがおがあった

さあ そんなじどうしょはおしまいになって
きのうのつづきからですよ えいごのてきすとをだしてください

どうせ そんなことだろうとおもっていたぼくが にべなくそういうと
すなおなでんかは かおをしかめて
「せんせい もっと おどろいてくださいよ」
そうふまんそうにいった

「ちょっと ぬけだして がくゆうのもとへいっていたんです」
みな えらいさわぎですよ
じゅぎょうがおわったら すがたをみせて あんしんさせておあげなさい
「わたしがだいふごうをやったことがないといったら みんなおどろくんです
 へやでみんなでわになって いままでさわいでいて…」
でんか おしゃべりはかまいませんが そろそろじゅぎょうを…

はなしをさえぎろうと なんどくちをはさんでも いきいきといいかえしてくる
きょうはいつもいじょうに ききわけがよろしくない

へいかのおるすにかってなことをなさるのは あまりかんしんしませんね

ぼくはわざといじわるく そっけなく そういってみた
おさないころから くにをせおうかくごを なさっているこのかたには
こういうことばが いちばんきくのだと ぼくはながいつきあいからしっていたのだ
むかしからぼくはよくでんかにたいして このてのくげんをくちにする
くちうるさいかていきょうしだと おもっておいでだろう

ところが いつもなら かちきににらみかえしてくるでんかが きょうはちがった

「… それで わたしはおせろもやったことがないんです おせろ」
でんか じゅぎょうのつづきをいたしましょう
「もちろん ちぇすやしょうぎはひとなみいじょうです でもね」
でんか
「せんせい せんせいはありますか おせろ あれはたのしいですね」
…でんか?

まるでなみだのようにしずかに ことばがこぼれてゆく
もちろんきじょうなでんかのめからは ほほえみしか こぼれないのだけれど

「じゅぎょうをはじめましょうか そのかわりせんせい
 おわったら こうちゃでものみながら いっしょにおせろをしましょうね」

まだ じゅうごにもみたないしょうねんとは おもえないほど
りんとのびたせなかに このくにのしょうらいがせおわれているのだ
このほそいかたに おおくのこくみんのいのちと そしてまた ぼくじしんも

…ええ おつきあいいたします

みけんのしわをなくして ちいさなこえでそういうと
でんかはめずらしいものでも みたかというように めをまるめた
おおきなほこりと ちいさなさみしさで むねをしめつけられながら
えいごのてきすとをひらく あるかていきょうしのよる

□ 642-647 □
【あるゆうしゃのいちにち】

おれはいま かつてないほどのだつりょくかんを あじわっている
そびえたつしろのさいじょうかいに さんびゃくねんかん ねむりつづけるひめがいる
からみつくいばらは ひとびとのゆくてをはばみ
あんでっどになりさがった しろのじゅうにんたちが おそいかかってくる
ぼうけんしゃのあいだではゆうめいな こうりゃくこんなんといわれるばしょだった

そこにあらわれたのが おれだ
おれといえば じもとではちょっとしたゆうめいじん
ひがしのやどやであまもりがするときけば いってしゅうりをてつだってやり
にしのさかばでおどりこがかけおちしたときけば いっててんしゅのぐちをきいてやる
そんな ちいきみっちゃくがたのゆうしゃだ
れべるでいえばななくらい

そんなおれが おどろくなかれ そのしろをこうりゃくしてしまった
それはもう こんなんなたびだったが あえてなにもかたるまい
じゅうようなのは なにせ ここからなんだ

「…だまってきいていれば ゆうしゃさまともあろうおかたがなにをおっしゃいますやら
 あなたはわれわれのえいゆうです ひーろーです」
なんだと ちょうしのいいことをいうな!
「じじつではありませんか あなたがあのおかたをすくってくださったのは」
そのおまえらの ごしゅじんさまは まだめをさまさないのか!
というか あれ き きすもしたじゃないか!

「すいません おうじさまは むかしから おっとりとしたかたでして…」

そうなのだ
べっどによこたわり さんびゃくねんかんねむりつづけるにんげん
ときのながれも このせんれんされたうつくしさだけはうばえなかったのだろう
だが どこでうわさがたがえたのか なんとおとこだったのだ
さいじょうかいまで えれべーたーでいっちょくせんにのぼっていけたじてんで
おかしいとおもわなければいけなかった

「たいていのかたは おとこだとしるなり かえってしまわれます
 あんなあつくじょうねつてきな きすまでほどこしてくださったのはあなただけです」
おまえらが きょうようしたんだろーが!

じまんではないがおれはもてない
ついさいきん いいよっていたおどりこに かけおちされたところだ
おうじのくちびるは まるでおんなのそれのように やわらかくつめたかった
びんぼうくじをひかされたと こうかいするはんめん
かれがおきあがりほほえみかけてくるのを まちどおしいとおもうじぶんがいる
あんまりきれいなかおなので まだおんなだとしんじたいだけかもしれないが

これがおんなならばどれだけよかっただろう
さんびゃくねんのじゅばくからときはなってやったんだ
こんやくとなればたまのこしだし うつくしいつまをもてばほこらしい
ああ なんてすばらしいんだ

ほんとうにこれがおんななら…って え あ
「…ふん さんびゃくねんもまたせおっておろかものが」
え す すいません
「かおはわるくないな なさけなさがしみでているが きらいではない」
ありがとうございます ってなんでおれがこんな へりくだらなきゃいけないんだ
「おとこならけらいに おんなならめかけにしてやろうかとおもっていた
 きさまなら かこうてやってもかまわんのだが…」
はい こうえいです…ってだから え ちょっと

はんろんするまもあたえられず すきをついて くちびるをうばわれた
つめたくて やわらかいくちびるに よわされるひまもない
いっしゅんのきすのあと めにとびこんできたおうじのかおは やはりうつくしく
おとことわかっていながら どきどきしてしまう じぶんにもなっとくできた

「かまわんのだが… ざんねんだな」

ぼんやりみとれていたおれは われにかえって おうじのかおをみあげる

おれのあごをもちあげていた ほそいゆびが さらさらと すなになっておちていく
おうじはかなしそうにほほえむと
「ああ ときのながれがもどってゆく」
そうつぶやいた

なんだと

なんだと うそだろ
おれがたすけたんだ あんたを さんびゃくねんののろいから
あっけにとられ おもわずしがみついたりょううでも あっというまに とけてきえた

いつのまにか しろはしずまりかえっていた

ふざけるなよ! これじゃあ おれがころすみたいじゃないか!
「きにやむな とわのねむりも きっといままでと そうかわらない」
おれがいやなんだよ! め めざめがわるいだろ!!

いくなよ きえるなよ いやだよ!!

もうめのまえにはいちめんのすなしかのこっていなかった
どれだけかきあつめても ゆびのすきまからかれはきえていった
ひとけのないしろは おれがおとずれたときよりも よっぽどぶきみで
かなしかった

れべるはななから じゅうごぐらいまであがるだろう
またまちにかえって
ひがしにまいごがあれば いってははおやをさがしてやり
にしにゆうしゃがくれば いってじょうほうをくれてやる
そんな ちいきみっちゃくがたの なにげのないにちじょうをすごそう

ああ でも

めのまえできえた きれいなきれいなかお
おれのてで きえた

そんなの いやだ

ゆうしゃの おしころすような なきごえがむなしくひびいた
それを にやにやとうれしそうに ものかげからながめているあるじをみながら
だいじんはあたまをかかえずにはいられなかった

「きにいった よは あれがきにいった」
しかしへいか いったい あのおかたに なんともうしあげるのです
わがいちぞくは だいだい ごーれむののろいにもくるしめられていて ほんとうは

しょっちゅう すなになったり もどったりするのだと

…あれほどおなげきになられていらっしゃるのが きのどくでなりません
こたびのまじょののろいを といてくださったのは あのおかたですのに
「ふん ならば ごーれむののろいも とかせてやるといい」
と いいますと?
「にしのとうげにいって ごーれむのおさにあいにいくのだ
 なもしらぬせんぞのうらみをひきずる めめしいいちぞくに いたいめをみせてやる」
それに あのおかたをつきあわせるのですね? けらいとして

「… よは あれがきにいったといったであろう」

そのとき おうじがうかべた ふてきなえみを だいじんがしったのはすこしあとのこと
いまはなにもしらず ただなみだをこぼす ある ゆうしゃのいちにち

■ 68-71… ■ 

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ある たびびとの いちにち

■ 174-177… ■ 

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ある でしとせんせい の いちにち

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