あるそのほかのひと の いちにち 2

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□ 37-39 □
【ある おれ の いちにち1/3】

あさ
めがさめると あいつはちょうど もどってきたばかり

おはよう

いっても へんじすらない
たぶん ねぶそくのふきげん
しかたないから ひとりでちょうしょくをたべる

やこうせいのあいつは ひるはべっどのなか
むぼうびな ねがお
のぞいてもゆすっても おきやしない

おれも ふきげん
かみついてやりたいきぶん
やったらおこられるから やらないけど

【ある おれ の いちにち2/3】

いちにちに いっかい おれはさんぽにでる
いえから こんびにまで いってかえって
とちゅうでこうえんに すこしたちよる
おれのこうどうはんいは せまいいえと こんびにと そのこうえん だけ

あいつは いつも どんなところにいってるんだろう
あいつは いつも おれのしらないなにを みてるんだろう

そんなことをかんがえながら おれは うちにかえる
やっぱり きょうも うちに かえる

ゆうがた
おきだしたあいつは やっぱり でていく
「どこ いくんだよ」
「おまえのしらないところ」
「おれのしらないところって どこだよ」
「いってもわからないところ だよ」
ふりかえった あいつが ばかにしたみたいに わらう
「べつに おまえ いきたいわけじゃないんだろ」
いきたくない わけじゃない
けど
いけないの しってるくせに そんなことをいうから
「おまえなんか どこへでも いっちまえ」
いくよ
おまえとちがって おれは じゆう
そういって あいつはでていく
きょうも おれをおいて

【ある おれ の いちにち3/3】

まどから よるのそら ながめる
あいつはいまごろ おれのしらないばしょ
おれの いけない ばしょ

おれは ひとり ふとんのうえで まるくなる

やがて
かたんと おとがして とびらがひらく
「あら きょうは はやいのね」
おんなのこえ
ちりんと すずがなって あいつのあしおと
「……さむい いれろ」
おれのはらにもぐりこむ
おれのところにもどってくる

「いちおう き つかってるつもりか」
「は? なんのはなし?」

それでも なんだかんだで
うまくいってるらしい

くろねこのあいつ と しろいぬのおれ

□ 220 □
【ある さみしいうけの いちにち】

なぜかぼくは、いつだってさみしい

なんでだろう、さみしいな。ひとりでいるから?
でも、ひとがたくさんいるところは きんちょうするし
ひとりでいるほうがらくだとおもう

だからなのかなあ、なにをすれば さみしくなくなるんだろう

ためいきひとつ。まどのそとをみる。

こうていで、ばすけをしてあそんでいる、だんしせいとたち。
めについたのはたのしそうにわらうひと。

どうして、あんなにたのしそうにわらえるのかなあと
おもいながら、みていたら そのひとと、めがあった

にかっとわらっててをふってくるのに、びっくりして、めをそらす。

あんなまぶしいえがおにこたえられない

だってぼくは、きみとちがってあかるいおひさまのしたにいない
さむくてくらい、さみしいところにいる、

こんなぼくが、わらいかえしていいひとじゃないと、ちょっかんがいう

でもちょっと、いんしょうわるくしたよなあとおもうと
すこし、またさみしくなる

どんどん じぶんから、さみしいところにはまっていく
ある さみしいうけの いちにち

□ 253-254 □
【ある かたおもいしているせめのいちにち】

いちにちのうちでいちばんすきなのは かれをみつめているじかん
ちいさなみせのかたすみで おとこはゆっくりとぐらすをつまむ
さくらんぼのはいったかくてる このみせのおりじなるなのだそうだ
んー ちょっとじんがききすぎてるかなーとつうぶってつぶやいてみたりして

すこしうるさいていどのざわめき おとなしやかなおんがく
きでできたついたてのむこうには おもいびとがいる
でもむこうはかれのことをすきではない むしろきらっているらしい
すきだといっておえば まゆをひそめてにげてゆく めんとむかっていわれたことすら

ああ せつないなあなんていいながら
いろあせたかくてるをすべてのどにながしこむ
しろいかうんたーのむこうで ますたーがだまってめせんをよこす
てでふたをして いらないというあいず

まるでどうけにもにたおもいのつたえかた ばかをやることですかれようとした
すこしのあいもうけとらぬまま かれはどこまでもにげていく
とどかないゆびさき つめたいしせん
どうしてもてにいれたいおもいがつのって こうしてかれのいきつけのみせまでつきとめて

けいたいがふるえた

もういちどだけついたてのむこうにめをやって けいたいをとる
れいじをとっくにまわったじかん かかってきたのはゆうじんからだった
のみのさそい いまなんじだとおもっているのだか
あいづちをうちながら じっとついたてのむこうをみる
いくよとへんじしてでんわをきった

きっとおれのあいはいつまでもとどかないんだろうな こんなことばっかりしてたんじゃ
もう あきらめることもできないけれど

いつまでも ついたてのむこうをみつめたままうごけないおとこ
よるのやみにうもれゆく むくわれないかたおもい

□ 318 □
【あるせんごちょくごのせめのいちにち】

あさおきる。となりでねてるおんなにぎょっとして、それからああそうだったとためいき。

かおでもあらおうかとおもいながらろうかをあるくとあちこちにまだけなげうけがいるきがして、そんなじぶんにくしょう。

かがみにうつるかおはもうずいぶんとしくっていて、それはほかのともだちにもいえることで、だけどけなげうけにだけはいえないことで、ようはかれのじかんはもうとまったということで。

めをさましたおんなをてひどいことばでおいだして、ちょうしょくなんてとらずにただえんがわでぼんやりまっていた。

おれがかえってくるときはかならずここだといったけなげうけはいまだにおれにおかえりをいわせない。

ただいまというあいつのあたまをしんそこたたいてやりたいのにやつはそれすらさせない。

みんなはせんそうがわるいという。ひとをころしてくにをころしておのれをころしてそのさきになにがみえるのかとけなげうけのようにみんないう。けど。

けど。

なあたのむよ。かえってきてくれよ。ただいまっていっておかえりっていわせてくれよ。
おまえなにしてたんだこのばかやろうってなぐらせてくれよ。

どうしようもない、さきのみえないかんじょうをかかえてこどものようになきさけぶこともできない。わすれることなんてろんがいだ。

どうしていいのかわからない。せんそうなんてごめん、おれにはどうでもいい。

なんでおまえここにいないんだと、えんがわでつぶやきながらもうこないひとをまっている。じつはじぶんがいちばんけなげだときがつかないけなげぜめのぼんやりしたごぜんちゅう。

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□ 659-661 □
【あるおさななじみのいちにち】>318のつづき

あさおきて、こめとみそしるとさけとつけものをくってそうじをしてからいえをでた。ありがとうかあちゃんあさからしっかりくえるのはあんたのおかげですとないしんははをおがむ。

てくてくみちをあるきながらあーどーせまたやってんだろーなーとためいき。

せんそうがはじまって、せんそうがおわって、かえってきたひともかえってこなかったひともたくさんたくさんいる。

かえってきたひとのかぞくはよろこんだし、そうじゃないひとのかぞくはかなしんだし、
まあけっきょくどっちもないている。

けれどおさななじみのけなげぜめはなきゃあしねえ。

ただまいにちばかみたいにえんがわにすわってばかみたいにここじゃないところをみて
ばかみたいにただひとりをまっている。

おかえりを、やつはいいたくていいたくてしょうがねえのだ。そんでただいまをいってほしくてしにそうなのだ。

しにそう、までかんがえて、いやちがうな、もうはんぶんしんでんだ、とあるくほちょうをはやめた。

きょうもやっぱりだらしないかっこうでえんがわにいるけなげぜめをみておもわずまたためいき。

おうつくしいはなしだとおもう。むねをしめつけられるようだとも、もちろんおもう。
けど。

けどさ。

いつもこえをかけるばしょについて、でもきょうはなにもいわずにたっていた。

ゆかたをはおっただけのだらしないかっこう。どうせまたおんなをつれこんだんだろう。
ひとりでよるをこすのがこわくて よるのあいだにけなげうけがかえってくるんじゃないかときたいして。
けれどひとりきりではこわいから おんなのぬくもりをけなげうけだとおもいこんでねているんだろう。

おまえのことなんてむかしからしってるよ。だからいまなにかんがえてるかだってすぐにわかる。
わかんだよ。
ちくしょう。

てめえいいかげんにしねえとなぐるぞ。

けなげうけはかえってこねえんだよ いつまでまってもどれだけまってもどんだけなげいてもぜったいぜったいかえってこない。
あたりまえだ、おまえだってしってるだろ あいつしんだんだよもういないんだいないんだよ!

できることならむなぐらつかんでいってやりたい。おれをみろこっちみろせかいはあかるいんだ
せんそうはもうおわったんだ けなげうけはいないけどそれでもたいようはのぼるしおれはめしだってくってる
おまえだってきがついてんだろこのばか

おまえのだいじなひとは もうしんだんだ どこにもいないんだ

けど、だからっていってなんでおまえまでそんな いきてんだかしんでんだかわかんないみたいになってんだ
めしをくえ さけをのめ しこたまのんでそれで

それでばかみたいになきわめいちまえ げんじつをうけいれるためにないちまえよ

ああちくしょうおれはむしんけいなやつださいていだ ごめんけなげうけとなげいて
けれどそういうのはしょうにあわずにけっきょくいつものようにこえをかけるおさななじみのひるさがり。

□ 363-365 □
【ある ほし のいちにち】

きょうは とても はれていて ぼくはうれしい
ところどころ くもがあるけれど こきょうはかいせい

やく さんまんごせんきろも はなれていると
こきょうは とても ちいさくみえるのだけれど
ぼくは めがいいし ずーむだっておてのもの

きょうは こきょうがよくはれて ぼくはうれしい
ひいきする わけじゃないけど やっぱり こきょうがだいじ

ぼくが とうけいひゃくよんじゅうどに きてから
もう かれこれ はちねん
ながかったかな とおもうけど やっぱりみじかい きもする

はちねんのあいだに ともだちも たくさんできた
びーえすくんには おなじなまえの でじたるくんっていう
おとうとができたし すかぱーくん なんて おしゃれなやつもいる

ちょっとこわい おにいさんも いるのだけれど
おとなりでも にひゃっきろは はなれているから
あまりこわくないかな でも ちょっとこわいかも

みえないくらい とおいところからの うわさばなしに はらはらしたり
すぱいおにいさんの すりりんぐなたいけんに どきどきしたり
それに とても すばらしい はなしを きいたりもしたんだ

しごとは たいへんだけど たのしいことが いっぱいあった
たのしいこと ばかりじゃなくて かなしいことも たくさんあったけど
ぼくのしごとは かなしいことがおきないように まいにちかかさず
めをおおきくあけて いることだから ないたりなんか しなかったよ

せかいじゅうの おともだちと まいにち おおきくめをあけて
こきょうと せかいじゅうのひとたちに かなしいことがおきないように
すこしでも はやく すこしでも やくにたてれば うれしいから
だから ないたり しなかったよ

でも きょうは こきょうがとっても はれていて

とっても うれしくて あんしんするから なきたいきぶん

まだ がまん

こきょうから つうしん
ごーすくんとの てすとは じゅんちょう

ぼくも こっそり でんごんしてもらおう
ごーすくん すこしのあいだ こきょうがおせわになるね
それから ぼくのおとうとへの ひきつぎ よろしくね

おともだちの みんな ぼくのおとうとと なかよくしてあげてね
すぱいくんの うわさとかは じょじょにたのむよ
おとうとを あまり こわがらせないで あげてね

それから

それから いままで なかよくしてくれて ありがとう
はちねんかん とっても たのしかったよ
これからも みんな がんばってね

こきょうから さいごの つうしん

ずっと ねむっていた ぼくの ぷろぐらむが きどうする
さいごのしごとは とうけいひゃくよんじゅうどからの りだつ

ぷろぐらむは せいじょうに さどうした
ちじょう さんまんごせんきろから ぼくは ゆっくり こうかする

あれ なにか きこえる

ごーすくんから こっそり でんごん

「また おれたちの そらで あおう」

ぼくたちのあいだで ずっと つたえられている すばらしい おはなし
ぼくたちは ながれて ぼくたちのそらで ほしになる

ぼくから みんなに さいごの でんごん
「ぼくたちの そらで また

さよならは いわなかった
どこかにある そらで ほしになった
ひまわりごごうの さいごの いちにち

□ 431 □

「しし あいしてる」
そういって あいつは ほほえんだものだった
よわよわしく おれなしでは いきていけないようにみえた うお
たわむれに ふれさせた ぴあのが すべてのはじまり

あいつは むちゅうになって はじめて おれをわすれた
みるまに じょうたつし てんさいと よばれるようになった
ひとびとは うおをかこみ しょうさんを あびせる
おれだけに むけられるのだと おもっていた ほほえみを うおは ふりまく
だれにでも あまえ あいされる

だが うお おれは だれにも おまえを…

すこしずつ くるっていく ししざの まよなか

□ 779 □
【ある かいごしの いちにち】

いちねんほどまえから おせわをしているおじいさん
かれはとてもむくちで なにひとつ しゃべろうとしない
しょくじをつくっても そうじをしても はなしかけても
ただ だまってめをほそめるだけ なにもかたらない

そんなかれが たったひとつ じぶんのいしをみせるのは
まいにちごご4じからの きんじょのおてらへの はかまいりのとき
いつもかかさず かっているちいさないぬをつれて そこへいく
あしこしがどんなによわっても だれかによばれるように

きょうもかれは ぼせきにむかって てをあわせる
ずっとずっと まるでじかんがとまったかのように ずっと
なにものにも しゅうちゃくしていないかれが こんなにこだわるなんて
いったいここに だれがねむっているんだろう

きいても こたえてくれないだろうから おれもだまって てだけあわせている
ぼせきをみると かれとはちがうみょうじで おとこのなまえがほられていた
おまごさん とかかな それとも ともだちかな
ぼんやりかんがえていると ちいさなしゃがれた こえがきこえた

あいしたおとこがねむってるんだ
たしかにそうきこえたのは かれのこえにちがいなかった
あいしたおとこ それがどんないみかなんて かれはかたらないけれど
ふしぎと いいかんけいだったんだなと すなおにそうおもえた
しんでからも こんなにあいされているおとこが すこしうらやましい
いつもとすこしちがうかれをしった ある かいごしの いちにち

□ 784-788 □
【あるさぽーたーのいちにち】

おれはめのまえでぐぅぐぅねむっているおとこの しごとのさぽーとをしている
ひとだすけのような しごとをしているおとこは いつもいのちをはっているくせに
へらへらとわらってばかりだった

そのおとこの しごとなかまが くりすますに しんだ
じゅんしょくだった
それからへらへらとわらっていたおとこは ときどきとおくをみてわらうようになった
おれは それを むしした

しょうがつになった
「はつもうでにいこう」
と おとこはいった
「ばかですか」
と おれはいった そして
「もにふくしているさいちゅうですよ」とも

だがおとこはゆずらなかった
「な いこう」
「いきません ふきんしんだ」
「どうして」
「あんた さんじゅうもすぎてるのに じょうしきがないんですか」
「なあ …はつもうでのいみ しってるか」
「…」
「むびょうそくさい いのってこようぜ」

だんじて このおとこに ほだされたわけではない
そして このおとこの あのかおが かなしそうだったから だなんて
「――」
なまえを よばれた きがした
だがひとごみのなかで それは そらみみだったにちがいない
よこでりょうてをあわせるおとこは ぶきみなほど むひょうじょうだ
なにかににている とおれはおもった

「ありがとうな」
「いいえ」
「どうしても」
おとこは おれをみた
そして わらった
「おまえと きたかったんだ」
「どうしてですか」
おれは あるくのをやめて となりのおとこをみた
ひとみが おれをとらえていた
「あいつが しんだって きいたとき いちばんに おまえのことをおもいだした
おまえがちゃんと いきているのか かくにんしたかった ほんとうに ふきんしんだったけれど
おまえのことしか かんがえられなかった」
「きっと あいつは くやしかったはずだ どうして しななくちゃいけないんだ
どうして まだ やりのこしていることが あるのに って こうかいが ぜったいあったはずなのに」

「なのに しんじまった」
わらったまま おれをみて まゆをひそめた
「…こうかいは したくない おれは しにたくない おまえと はなれたくない」
「かみさまに ねがったところで たかがしれてるけど な ――むびょうそくさい
ほんとうに ひさしぶりに ひっしでかみだのみしたよ」
「しにたくないなら つよくなったらどうですか」
おれは いつもどおりの にくまれぐちをきいた
おとこは ぽかんと おれをみた
「つよくなって じぶんをまもって おれを まもればいいだけです」

「でも かれはつよかったから とちゅうで あきらめなかったから しんだのかもしれない」

おとこは おれをみていた
おれも めをそらせなかった


「けっきょく どうしたら いいんでしょうかね」
じぶんでいっておきながら おれは おとこをきずつけたかもしれない とおびえた
さきに ひとみをそらしたのは おれだった
おとこをおいて おれは あるきだす ほほにあたるかぜが つきさすようだった
「おれだって!」
おとこが こうどうのまんなかで おれにむかって どなった
「おれだって わかんねぇよ!でもな!あがけるときに あがいとくんだよ!」
――こうかいは したくない
それが かれのだした こたえなら なんて こどもじみた それだろう
だが おれのしる おとことは そういう おとこだったではないか

おれはおとこにかけよった
「みちのまんなかで おおごえだすひとが どこにいますか…!」
「おまえ ほっぺた まっかだ」
「かぜが つめたいだけです」
かおをあげた
おとこが へらへらと わらっていた
「おまえが おれのとこにいて よかった」
「おめでたいですね」
「しょうがつだし よっぱらいってことにしておいてくれ」
こうして おとこは いつもみとおしていたように はなしをそらす
そして おれもそれに びんじょうする
「さけ かって かえりましょう」

そして そとがくらくなるころ おとこはさけをのんで ねむった
ぐぅぐぅと すこやかなねいきが こどもみたいだ と おもった
「…おれは あんたの さぽーたーですよ?」
さぽーたーの いみを しっているだろうか
このおとこが もし まんがいちにでも しぬようなときがあるのなら
それは おれの しも どうじに いみする

おとこは ねむっていた
おれは かれの かみのけをすいた
こたえは なにもでなかったが
さいごまで このおとこからはなれない
それだけは ちかう


あしたのあさは すこしだけやさしくしてあげようかな とおもった あるさぽーたーのいちにち

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【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15