あるこいびと の いちにち 3

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12 15-16 47-48,52-53

□ 12 □

あー なつかしいな

しんぶんをみながら せめがぽつんとつぶやいた

なに いきなり
せんたーしけん きょうだったんだな

ほら とみせてくれたしんぶんには
いまではいみふめいのきごうたち

いまやったら もうできねえよなあ
あたりまえだろ おれらいくつになったとおもってんの もうにじゅうはちだよ

もう じゅうねんも たったんだよ

はじめてあったのは せんたーしけんのひ
まえのせきのせめに えんぴつけずりをかしてやった

にどめにあったのは ほんめいのこくりつのぜんきしけん
あのときはありがと そういってあったかいおちゃをくれた

あれから じゅうねん
いまじゃ となりにいるのが あたりまえ

なあ いまからやってみない これ

それはおれにたいするちょうせんだな

よし そのしょうぶ うけた

かくものとかみをさがしながら
ものわすれのおおいせめには ぜったいにまけてやらないとけついする
ある うけの ふゆのいちにち

□ 15-16 □
【あるとししたぜめのいちにち】

いえにかえるとねんぱいうけがほんとにらめっこしていた。
どうやらせつめいしょらしい。ちかくにはけいたいのはいったはこがおかれている。
そういえば、きたくまえのでんわで、このまえこわした
けいたいのかわりをかったっていっていたな。
よこからのぞきこんでみるが、それにたいするはんのうもない。
どうやら、まえのものよりそうさがふくざつであるらしい。

しんけんなよこがお。おもわずわいたいたずらごころのまま、みみにいきをふきかけてくる。
いきをつめるかれ。よこめでこちらをみやることすうびょう、
きがつけばげんこつがおちていた。
しかいがまっしろだ。いたい。
こどもか、おまえは。
つぶやいたねんぱいうけのこえはすぐにとだえる。
いつもならこの3ばいはもんくがつづくのに。

あたまをおさえるおれをしりめに、ねんぱいうけはほんとしばらくにらめっこしていたが、
やがてけいたいをとりだしいじりはじめた。
なにごとかをつぶやきつつぼたんをおしまくっているが、やっぱりわかっていないらしく、
めにゅーをひらいてもすぐにまちうけのがめんにもどってしまう。
しょうじき、みていられない。
いらいらしたおれがけいたいをいきなりとりあげたのを、
かれがめをみひらいてみつめてくる。
ああ、このかいしゃのやつはつかったことがあるから…そうさは、こうかな。
たんたんとぼたんをおし、けいたいのせいのうをせつめいしていくうちに、
かれのめがそんけいのねんにそまっていく。

すごいね、
とかんしんするこえに
どんなけいたいも、きほんてきなそうさはあるていどきょうつうしているから。
あんたも、まえのとおなじめーかーのをかえば、
すくなくてもいまよりはとまどわなかったとおもうよ?と
いらえるおれをみつめるかれ。
こういうときだけこどもっぽくもみえる、かんしんしたひょうじょう。
やば。こんなのみてたらしゅうちゅうできない。
あわててしせんをけいたいにもどす。

ひととおりせつめいがおわりけいたいをねんぱいうけにかえすと、
ものすごいいきおいであたまをさげられた。
ありがとう。またわからないことがあったらおしえてくれ。
そういいながらえがおをむけられると、…このひょうじょうにおれはよわい。
やばい。このあとなにかおねがいされたら、どんなむちゃなようきゅうでもことわれないだろう。

なにもいえず、ただあいそわらいをかえしながらこころのなかでどくはくする。
そんなとししたせめのほんわりとしたよる。

□ 47-48 □
【ねんぱいおとこと だいがくせいの あるいちにち】

もうおわったしけんのほんなんかみるな。

おれのこえにふりかえったのは、どうきょにんのねんぱいのおとこ。
さきほど、しけんかいじょうからもどってきたばかりで
つかれているだろうに、かれはこたつにすわり
きょうかしょをずっとよんでいる。
きょうでてきた もんだいのちぇっくをしていたらしい。
かれはここすうつき、しごといがいでは ほとんどべんきょうばかりしていた。
あのしかくをとるのが かれのながねんのゆめなのは しっているが…。

「…ちからがおよばなかったところがしりたいから」

つぶやくようにそうかえし、また ほんへとめせんをおとすおとこ。
なんだかむっときて、うしろへといき すわりざまにせなかをだいた。
どうした? といわんばかりのしせんが こちらにむけられるが、
だまってうでをおとこのむねのまえでくむ。

「おまえみたいにあたまがいいわけではないし、
もう としだからおぼえがわるくてな。
おまえの りはつさをわけてほしいよ」
「まだわかいだろう」

こまったようなこえにむかんじょうなひびきのこえでいらえて、みをよせる。
ふくのしたの きんにくのかんしょくが やたらとあたたかくてなんだかくやしい。

こちらのようすをうかがうものの、それいじょう はんのうないおれのようすに、
おとこはまた きょうかしょにめせんをおとした。
おれは くちはをひきむすぶと、てのひらをひらいて おとこのからだをまさぐりはじめる。
けっこうおぼえてきた からだのせんをたしかめるように ふれまわっていると、
ほんが こたつのうえにおかれた。
つづいておれのうでにかさねられる、おとこのりょうほうのて。

かためでおれをみやりながら

「いいかげんにしないと あしたがっこうにいけなくなるぞ?」
こまったような びしょうとともにささやく、こえ。

やれるものなら やってみろとつめたくかえしながらも、
ないしんでは ひさしぶりに それもよいかもしれないとおもってみる、
あるだいがくせいのゆうがた。

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□ 52-53 □
【ねんぱいおとこと だいがくせいの あるいちにち】

きがつけば、そふぁの となりにすわった
おとこのからだを だいていた。
「さかっているのか?」
からかうこえに くちはがさがり、
はんがんになってにらみつけるおれ。
たとえそうでも、あっさりとかわすだけのくせに。
こうぎのこえに、かれのかたがふるえる。

いえにかえり、いまにて かんびーるをあけていると、
どうきょにんの ねんぱいおとこがやってきた。
くびに たおるをまき、おかえりといいながら おれのよこにこしをおろす。
ただようほうこう。せっけんのふんわりとしたかおり。
どうやらおれはこれにさそわれたらしい。

ながれていくじかん。なにもいいだせないおれ。
ふろあがりなのであろうかれの、あたたかな
からだのここちよさに、
みをまかせこのままで いたくなる。

でも、
……はなれなくては。

ときをとめたい こころをふるいたたせて
うでをほどこうとしたときに、

またせているな。
おちついたら、りょこうにでもいこうな。

おれのかたにまわされたて。
やや せをかがめ、しせんをちかづけて
かたりかけてくるおだやかなこえがこころにしみる。

わかいころ くろうして、やっと こうこうをでたこのひとは、
きんねんになってようやく、じぶんのあるきたい みちを
すすみはじめた。
そして、かくじつにみちを あゆんでいる。
くろうといえば にゅうしのための べんがくくらい、
おやのかねでがっこうにかよう じぶんとたいひすると
なさけなくかんじる。

われしらずつよくなるほうよう。
ゆびさきが、がんけんなせなかをたどる。
このひとのせなかは なんとなくだけれども、
ずっと おいこせそうにはない。
はなれずに あるいていくだけでも
せいいっぱいかもしれない。
でも、それでもよいから ついていきたいとかんじている
じぶんにとまどう、あるだいがくせいのよる。

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【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15