+ ある びょうじゃくしょうねん と しゅじい の いちにち +

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【あるびょうじゃくしょうねんのいちにち】

うまれたころからわるかった ぼくのしんぞう
たいりょくがついたから やっとしゅじゅつができる
せいこうりつは はんぶんはんぶん むずかしいしゅじゅつ
しっとういは いがくかいでもゆうめいなせんせい
ぼくのはつこいのひと

すとれっちゃーにのせられて しゅじゅつしつへいどう
からだじゅうに いろんなくだをつけられる
てんじょうのらいとをみているところへ せんせいがきた

こわいかときくせんせいに ぼくはううんとくびをふる
このよのだれよりもちかいところで せんせいがぼくにさわってくれるから
そういうと せんせいはだまったまま ぼくのかおをじっとみつめた

しゅじゅつはこわくない
こわいのは せんせいにあえなくなることだけ

ぼくのくちに とうめいなますくをあてて せんせいがいう
またあとであおう

かずをかぞえるせんせいの やさしいこえをききながら
ふかいねむりにおちていくぼく

めがさめたら せんせいにいいたいことがある
だから ぜったい またあおうね

ひらたく まっしろなむねに いっぽんのあかいすじがはしる
あるびょうじゃくしょうねんの ながいよるのはじまり

□ 1 / 322-323 □
【あるしんぞうげかいのいちにち】

きょうは じゅうごさいしょうねんのおぺのひ
わたしのかんじゃになってさんねん
ひとりみで しごとひとすじ ちいとめいよがすべてのわたしに
ひとをおもうこうふくをおしえてくれた
だれよりも なによりも いとしいしょうねん

しゅじゅつだいによこたわるしょうねんが わたしをみとめてほほえむ
こわいかととえば かれはえがおのままくびをふった
このよのだれよりもちかいところで せんせいがぼくにさわってくれるから
けなげなことばに わたしのむねはあまくうずく
おもいをつたえることはできないが このてでかならずすくってみせる

ますいでねむるしょうねんの すべらかなはだにめすをいれる
せいめいのみゃくどう つたわるぬくもり
わかるか わたしはいま きみのいのちにふれている

ようだいきゅうへん しゅっけつがひどい おぺしつにきんちょうがはしる
ゆけつをいそげ きびしいこえでしじをだす

このよにかみがいるのなら どうかわたしにちからをかしてくれ
つちかったぎじゅつと けいけんのすべてを いま このゆびさきに

いのりはとどき おぺはぶじしゅうりょう
じゅうじかんをこえるだいしゅじゅつをおえ しょうねんはあいしーゆーへ
よろこびになみだする しょうねんのかぞく
かれらがかえり しょうねんのそばにわたしがのこる

ゆっくりとめをあけたしょうねん しせんがわたしにむけられた
またあえたな
しずかにつげると しょうねんのめから なみだがこぼれた
どんなにつらいいたみにもたえてきたかれが はじめてみせたなみだだった

なにごとかをつたえようと しょうねんのくちびるがわずかにひらく
さんそますくをずらし そのくちもとへみみをよせる
かすかにとどいた しょうねんのことば
せんせいが すきです

ひとはいつか かならず そのいのちのともしびをけす
だから ておくれにならぬように
このむねにあふれるおもいを いまこそつたえよう

しょうねんのみみもとへ そっとささやく
わたしも きみを あいしているよ
ほほにくちづけをすれば しょうねんがほほえんだ
はながほころぶかのように あでやかなほほえみだった

よりそいあったふたりのこころが おなじじかんをきざみはじめる
あるしんぞうげかいと びょうじゃくしょうねんの
きぼうにみちたひびのはじまり

□ 1 / 520-522 □
【あるもとびょうじゃくしょうねんのいちにち】

ごねんまえの しんぞうのしゅじゅつで
ぼくのいのちをたすけてくれた ゆうしゅうなしんぞうげかい
ずっと ずっと だいすきだったせんせい
いまでは ぼくのこいびと

ぼくがはたちになったおいわいに
れすとらんにしょくじにさそってくれた
いそがしいのにごめんね
そういうと せんせいはわらってくびをふった
おまえにあえることが わたしのゆいいつのいきぬきさ

しょくじがおわり せんせいのくるまでいえにおくってもらう
でーとのおわりのいつものこーす
でも きょうはこのままかえりたくない
だからぼくは せんせいのてから
くるまのきーをとりあげた

おどろいて めをみひらくせんせい
そのせんせいのかおが かすんでみえた

あいしているといってくれる
まいにちめーるもしてくれる
せんせいのこころは ぼくのもの
ぼくのこころも せんせいのもの
だけど せんせい
ぼくはこころだけじゃ まんぞくできないよ
ひとはわがままになるね
いきているだけでしあわせだとおもっていたのに
せんせいのそばにいられるだけでよかったはずなのに
もっと もっと そのさきをほしがってしまう

ぼくはもうはたち おとなになった
おもいきりはしることもできる
せんせいのせなかを ずっとおいかけることができるんだ
なにをされても こわれたりなんかしないんだ

しゃつのまえをひらき むねのきずをあらわにする
みなれたきずのはずなのに せんせいはあわててめをそらす
ぼくはせんせいのてをつかみ むりやりそこにふれさせた

しんぞうのこどうがきこえる?
これは せんせいのぜんぶがほしいっていう
ぼくのこころのこえだよ

むねにあたるせんせいのてが ゆっくりときずあとをたどる
そして むなもとへおとされた やわらかなきす
がいはくのきょかをとりなさい
そのいいつけにうなずいて ぼくはきーをせんせいにかえした
けいたいでいえにれんらくしているうちに
くるまはほてるのえんとらんすへ

くるまをおりたせんせいが きーをどあぼーいになげわたす
そしてぼくのてをにぎりしめ そのてにくちびるをよせた
めをまるくするどあぼーい
ぼくらはわらい てをつないだまま とびらをくぐった

ごねんかん たいせつにはぐくまれた ふたりのおもい
それはきをじゅくして こんや あらたにみをむすぶ
もとびょうじゃくしょうねんと しんぞうげかいの
ながいながいはるのおわり

□ 1 / 526-527 □
【あるしんぞうげかいのいちにち】

しろいしーつにくるまって しょうねんがやすらかなねいきをたてている
いや もうしょうねんとはよべないだろう
きゃしゃで たおやかではあるけれど
つやめいたくうきをまとい はげしいじょうねつをうちにひめた
いとしい いとしい わたしだけのせいねん

びょうきでおくれたがくぎょうをとりもどすべく おまえはとてもどりょくした
とししたのゆうじんたちにかこまれ こうこうせいかつをおくりながら
からだをいといつつも どんよくなまでに
さまざまなものをきゅうしゅうしようとしている
しゅじゅつがせいこうし けんこうになり
おまえのせかいは いくばいにもひろがった

わたしはこわかった
おまえがわたしのもとをはなれ てのとどかぬばしょへとびたってしまうのではないか
だが げきじょうのままにおまえのからだをうばい このうでにとじこめてしまうほど
わたしは あおくも おろかでもない
そうおもっていた

しかし それはまちがいだったようだ
わたしはおまえをもとめ おまえもわたしをもとめていた
それはそくばくではなく たがいにあたえあうことだった

せいねんがちいさくいきをつき けだるげにねがえりをうつ
はずみではだけたしーつを はだかのかたまであげてやる
やさしくだいたつもりだが やはりからだはつらいだろう
せいねんのくびすじにちる いくつものあかいしるし
わたしはせいねんのかたわらによこたわり そのしるしにくちびるをあてた

せんせい
せいねんがめをさまし かすれたこえでつぶやいた
ほそいうでをのばし だきついてくるせいねんに くるおしいおもいでくちづける
ながいくちづけのあと せいねんはぬれたひとみでわたしをみつめた
しーつごしにつたわる きざしたもの
わたしはほほえみ そのしなやかなからだを つよくだきしめた

ふたつのこどうがかさなり こころとからだがひとつにとける
しんぞうげかいと もとびょうじゃくしょうねんの
あまく みちたりた よるのひととき

□ 1.5 / 515 □
【あるびょうじゃくしょうねんのいちにち】

きょうは はじめて あたらしいせんせいにあうひ

かあさんといっしょに しんさつしつにはいる

「やあ はじめまして」と せんせいが ひとこと

かたいこえ わらわないかお もったいない かっこいいのに

だから ぼくは わらった ぼくがわらえば せんせいもわらうかな?

せんせい よろしく おねがいします

おじぎして かおをあげてびっくり せんせい わらってた
ひとみが わらってた

きゅうに ぼくは はずかしくなった
しゃつのまえをあけるのが とても とても

これがまだ うんめいのであいとはきづかない あるびょうじゃくしょうねんの はつこいのはじまり

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【あるもとびょうじゃくしょうねんのいちにち】

しゃわーをあびたあと せんめんだいのまえにたつ

ほのぐらいあかりのなか かがみにうつる ひらたいむねの いっぽんのきずあと

それは くるしみと よろこびの あかし

じゅうねんたったいまも ぼくのからだに こころに つよくきざまれている

ぼくのせなかを あたたかなぬくもりがつつむ

はいごから ひだりむねにそっとのびてきた おおきなて

ぼくをすくい あいしてくれる せんせいの て

あるもとびょうじゃくしょうねんの こうふくをおもうひととき

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【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15