□ 1 / 361 □
【あるびょうじゃくしょうねんのいちにち】
うまれたころからわるかった ぼくのしんぞう
たいりょくがついたから やっとしゅじゅつができる
せいこうりつは はんぶんはんぶん むずかしいしゅじゅつ
しっとういは いがくかいでもゆうめいなせんせい
ぼくのはつこいのひと
↓
すとれっちゃーにのせられて しゅじゅつしつへいどう
からだじゅうに いろんなくだをつけられる
てんじょうのらいとをみているところへ せんせいがきた
↓
こわいかときくせんせいに ぼくはううんとくびをふる
このよのだれよりもちかいところで せんせいがぼくにさわってくれるから
そういうと せんせいはだまったまま ぼくのかおをじっとみつめた
↓
しゅじゅつはこわくない
こわいのは せんせいにあえなくなることだけ
↓
ぼくのくちに とうめいなますくをあてて せんせいがいう
またあとであおう
↓
かずをかぞえるせんせいの やさしいこえをききながら
ふかいねむりにおちていくぼく
↓
めがさめたら せんせいにいいたいことがある
だから ぜったい またあおうね
↓
ひらたく まっしろなむねに いっぽんのあかいすじがはしる
あるびょうじゃくしょうねんの ながいよるのはじまり
□ 1 / 322-323 □
【あるしんぞうげかいのいちにち】
きょうは じゅうごさいしょうねんのおぺのひ
わたしのかんじゃになってさんねん
ひとりみで しごとひとすじ ちいとめいよがすべてのわたしに
ひとをおもうこうふくをおしえてくれた
だれよりも なによりも いとしいしょうねん
↓
しゅじゅつだいによこたわるしょうねんが わたしをみとめてほほえむ
こわいかととえば かれはえがおのままくびをふった
このよのだれよりもちかいところで せんせいがぼくにさわってくれるから
けなげなことばに わたしのむねはあまくうずく
おもいをつたえることはできないが このてでかならずすくってみせる
↓
ますいでねむるしょうねんの すべらかなはだにめすをいれる
せいめいのみゃくどう つたわるぬくもり
わかるか わたしはいま きみのいのちにふれている
↓
ようだいきゅうへん しゅっけつがひどい おぺしつにきんちょうがはしる
ゆけつをいそげ きびしいこえでしじをだす
↓
このよにかみがいるのなら どうかわたしにちからをかしてくれ
つちかったぎじゅつと けいけんのすべてを いま このゆびさきに
↓
いのりはとどき おぺはぶじしゅうりょう
じゅうじかんをこえるだいしゅじゅつをおえ しょうねんはあいしーゆーへ
よろこびになみだする しょうねんのかぞく
かれらがかえり しょうねんのそばにわたしがのこる
↓
ゆっくりとめをあけたしょうねん しせんがわたしにむけられた
またあえたな
しずかにつげると しょうねんのめから なみだがこぼれた
どんなにつらいいたみにもたえてきたかれが はじめてみせたなみだだった
↓
なにごとかをつたえようと しょうねんのくちびるがわずかにひらく
さんそますくをずらし そのくちもとへみみをよせる
かすかにとどいた しょうねんのことば
せんせいが すきです
↓
ひとはいつか かならず そのいのちのともしびをけす
だから ておくれにならぬように
このむねにあふれるおもいを いまこそつたえよう
↓
しょうねんのみみもとへ そっとささやく
わたしも きみを あいしているよ
ほほにくちづけをすれば しょうねんがほほえんだ
はながほころぶかのように あでやかなほほえみだった
↓
よりそいあったふたりのこころが おなじじかんをきざみはじめる
あるしんぞうげかいと びょうじゃくしょうねんの
きぼうにみちたひびのはじまり
□ 1 / 520-522 □
【あるもとびょうじゃくしょうねんのいちにち】
ごねんまえの しんぞうのしゅじゅつで
ぼくのいのちをたすけてくれた ゆうしゅうなしんぞうげかい
ずっと ずっと だいすきだったせんせい
いまでは ぼくのこいびと
↓
ぼくがはたちになったおいわいに
れすとらんにしょくじにさそってくれた
いそがしいのにごめんね
そういうと せんせいはわらってくびをふった
おまえにあえることが わたしのゆいいつのいきぬきさ
↓
しょくじがおわり せんせいのくるまでいえにおくってもらう
でーとのおわりのいつものこーす
でも きょうはこのままかえりたくない
だからぼくは せんせいのてから
くるまのきーをとりあげた
↓
おどろいて めをみひらくせんせい
そのせんせいのかおが かすんでみえた
↓
あいしているといってくれる
まいにちめーるもしてくれる
せんせいのこころは ぼくのもの
ぼくのこころも せんせいのもの
だけど せんせい
ぼくはこころだけじゃ まんぞくできないよ
ひとはわがままになるね
いきているだけでしあわせだとおもっていたのに
せんせいのそばにいられるだけでよかったはずなのに
もっと もっと そのさきをほしがってしまう
↓
ぼくはもうはたち おとなになった
おもいきりはしることもできる
せんせいのせなかを ずっとおいかけることができるんだ
なにをされても こわれたりなんかしないんだ
↓
しゃつのまえをひらき むねのきずをあらわにする
みなれたきずのはずなのに せんせいはあわててめをそらす
ぼくはせんせいのてをつかみ むりやりそこにふれさせた
↓
しんぞうのこどうがきこえる?
これは せんせいのぜんぶがほしいっていう
ぼくのこころのこえだよ
↓
むねにあたるせんせいのてが ゆっくりときずあとをたどる
そして むなもとへおとされた やわらかなきす
がいはくのきょかをとりなさい
そのいいつけにうなずいて ぼくはきーをせんせいにかえした
けいたいでいえにれんらくしているうちに
くるまはほてるのえんとらんすへ
↓
くるまをおりたせんせいが きーをどあぼーいになげわたす
そしてぼくのてをにぎりしめ そのてにくちびるをよせた
めをまるくするどあぼーい
ぼくらはわらい てをつないだまま とびらをくぐった
↓
ごねんかん たいせつにはぐくまれた ふたりのおもい
それはきをじゅくして こんや あらたにみをむすぶ
もとびょうじゃくしょうねんと しんぞうげかいの
ながいながいはるのおわり
□ 1 / 526-527 □
【あるしんぞうげかいのいちにち】
しろいしーつにくるまって しょうねんがやすらかなねいきをたてている
いや もうしょうねんとはよべないだろう
きゃしゃで たおやかではあるけれど
つやめいたくうきをまとい はげしいじょうねつをうちにひめた
いとしい いとしい わたしだけのせいねん
↓
びょうきでおくれたがくぎょうをとりもどすべく おまえはとてもどりょくした
とししたのゆうじんたちにかこまれ こうこうせいかつをおくりながら
からだをいといつつも どんよくなまでに
さまざまなものをきゅうしゅうしようとしている
しゅじゅつがせいこうし けんこうになり
おまえのせかいは いくばいにもひろがった
↓
わたしはこわかった
おまえがわたしのもとをはなれ てのとどかぬばしょへとびたってしまうのではないか
だが げきじょうのままにおまえのからだをうばい このうでにとじこめてしまうほど
わたしは あおくも おろかでもない
そうおもっていた
↓
しかし それはまちがいだったようだ
わたしはおまえをもとめ おまえもわたしをもとめていた
それはそくばくではなく たがいにあたえあうことだった
せいねんがちいさくいきをつき けだるげにねがえりをうつ
はずみではだけたしーつを はだかのかたまであげてやる
やさしくだいたつもりだが やはりからだはつらいだろう
せいねんのくびすじにちる いくつものあかいしるし
わたしはせいねんのかたわらによこたわり そのしるしにくちびるをあてた
↓
せんせい
せいねんがめをさまし かすれたこえでつぶやいた
ほそいうでをのばし だきついてくるせいねんに くるおしいおもいでくちづける
ながいくちづけのあと せいねんはぬれたひとみでわたしをみつめた
しーつごしにつたわる きざしたもの
わたしはほほえみ そのしなやかなからだを つよくだきしめた
↓
ふたつのこどうがかさなり こころとからだがひとつにとける
しんぞうげかいと もとびょうじゃくしょうねんの
あまく みちたりた よるのひととき
□ 1.5 / 515 □
【あるびょうじゃくしょうねんのいちにち】
きょうは はじめて あたらしいせんせいにあうひ
↓
かあさんといっしょに しんさつしつにはいる
↓
「やあ はじめまして」と せんせいが ひとこと
↓
かたいこえ わらわないかお もったいない かっこいいのに
↓
だから ぼくは わらった ぼくがわらえば せんせいもわらうかな?
↓
せんせい よろしく おねがいします
↓
おじぎして かおをあげてびっくり せんせい わらってた
ひとみが わらってた
↓
きゅうに ぼくは はずかしくなった
しゃつのまえをあけるのが とても とても
↓
これがまだ うんめいのであいとはきづかない
あるびょうじゃくしょうねんの はつこいのはじまり
□ 2 / 347 □
【あるもとびょうじゃくしょうねんのいちにち】
しゃわーをあびたあと せんめんだいのまえにたつ
↓
ほのぐらいあかりのなか かがみにうつる ひらたいむねの いっぽんのきずあと
↓
それは くるしみと よろこびの あかし
↓
じゅうねんたったいまも ぼくのからだに こころに つよくきざまれている
↓
ぼくのせなかを あたたかなぬくもりがつつむ
↓
はいごから ひだりむねにそっとのびてきた おおきなて
↓
ぼくをすくい あいしてくれる せんせいの て
↓
あるもとびょうじゃくしょうねんの こうふくをおもうひととき
【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15