+ ある だいがくせい の いちにち +

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□ 690-693 □
【ある がんばってるだいがくせいの いちにち】

はらがへったな ねむいな
もう きょうだけでもなんべんかんがえたかわからないことを
またあたまのなかでくりかえす

ばいといって だいがくいって またばいといって ろくにねないでまた だいがくいく
でも せっかくじゅぎょううけても ねむくてねむくて こうぎがあたまにはいらない
きづくとじゅぎょうがおわってるのがもう ここなんにちかつづいてる

こんなんじゃだめだ こんなんじゃ
しっかりしないと もっとちゃんと ちゃんとしないと
あたまではわかっているけど うまくいかない ぜんぜんうまくいかない
なんでだろう
おれ なんでうまくできないんだろう

なんだかものすごくなきたくなった せつなくなった
つぎのじゅぎょうにいかなきゃならないのに かってにあしがとまってしまう
だめだ いかないと つぎはひっしゅうだから これおとしたらほんとにやばい
むりやりにでもうごこうとしたらてがふるえて もっていたものすべて じめんにおちた
ばさばさ のーととか ぷりんととか しゃーぺんなんかが おちていく ころがっていく

ひろわなきゃ
すわりこんだところで またなきそうになって うごけなくなった
どれくらいそうしてたのかわからない けれど たぶん いっぷんもない
ころん
ふいに みみにかるいおとがとびこんできた
なにか かるいものがころがるようなおと

かおをあげると おなじかっこうでしゃがみこんでいるやつがひとり
てをのばして ころころところがるぺんをひろっている
しらないやつだ ぼんやりおもいながらそのままみていると ぱちっとめがあった
にこりと なんだかとても おだやかな せいじつそうな やわらかいわらいかた

「はい」
めのまえにさしだされて いっしゅんはんのうにとまどう
あ ぜんぶ ひろってくれたんだ
きづいて はっとして あわててうけとる

あ ありがとう
「どういしたまして」
みじかいこたえとともに あいてがたちあがる
そのまま ぼーっとみあげてると また しせんがおりてきた
「どうしたの まだ なにかおちてんの」
あたりをさがすようなしぐさに あわててくびをふる
「じゃあ なんでたたないの」
…そんなこといわれても
こたえようがなくてこまってしまった

すこしのあいだかんがえるようなかおをしてから かれはふとうなずいた
なっとくしたようなかおで「ああ」とつぶやいて ちょっとこしをかがめる

ひょい と てがさしのべられた

「これで さいご?」

たぶん ものすごくまぬけなかおをしたとおもう
そのあとになんでかまた とてもなきたくなり なったとどうじになみだがこぼれて
ほとんどむいしきで さしだされたてをぐっとつかんでいた
「つぎじゅぎょう?」
ぐっとひっぱりおこされてきかれる うなずくとまた おだやかにわらう
「じゃ いこう おれもおつきあいする どうせつぎなにもないし」
え いや そんなの いいよ てかなんで
「べつに ひまだし することないし せっかくだし」

なにがせっかくなんだろう とつっこむまえにうでをひっぱられる
「かおあらいにいく?」
ひっぱられながらそんなことをきかれて あわててかたてでめもとをぬぐった
ちょっとあつい そしていきなりはずかしい

「だれかになにかいわれたらさ おれになかされたとか いっちゃえばいいよ」
たのしそうなかおでいいながら かれがふりかえる
なにいってるんだよ といおうとして ふときづいて おもわずあいてのそでをひっぱった
そして こえがぴたっとかさなった

「ところでなまえ なんていうの?」
あのねおまえ なまえなに?

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□ 714-718 □
【>690-693のだいがくせいの いちにち】

あれ しゃーぺん いっぽんたりない
きづいたのは じめんにばらかして にしゅうかんくらいたってから
われながらにぶいとおもう でも いっぽんあればことたりてたから

どうしようかと おもう
さがしにいっても もうないとおもう
たかいものじゃないし ひろうものじゃないし そうじもされてるだろうし
もう どこにもなくなってるとおもう でも

もしかしたらあえるかもしれないな と
すこしきたいするほんねが ある
あのときいろいろとひろってくれたやつのこと あれいらいみていない
なまえはきいたけれど それだけで じつは がくぶもわからない
このがっこうは とにかくひろくて ひともおおくて
ぐうぜんにあえるかくりつは とてもひくい でも

また あそこにいったら あえるかな
また やさしいかおして わらってくれるだろうか

なにをそんなに とおもうくらい ひとりのそんざいがおおきくなっている
ひとりぐらしでさみしいから いまだにひとりもともだちいないから
そんなあとづけのりゆうはどうでもよくて
ただ もういっぺんあいたいなと まいにちいっかいいじょうは おもいだす
つかれてても なきたくなっても なんとか おもいだせば なんとかやっていける

たぶん おれは かれのおかげですこし つよくなれていると おもう
ねむいめをこすりながら ひるやすみ このあいだのばしょにいってみる
もともとひとがすくないところがきにいっていたから きょうもだれもいない

そりゃそうか
しぼむきもちをなんとかふくらませて いちおう こうじつのしゃーぺんさがしをこころみる
このへんにおとしたっけな あ もしかしたら うえこみのなかにあるかも

しゃがみこんで うえこみにあたまつっこんでさがしていると
ふいに ぽんぽんとせなかをたたかれるかんしょく
まずい なんか へんなひととまちがえられたかも

あわててふりかえって ごめんなさいとくちばしって ぽかっとくちをあけてしまった
「さがしものはこれですかー?」
ちょうしっぱずれのおんがくにあわせて おれのしゃーぺんがめのまえでゆれる
そのおくで まいにちおもいだしてた やわらかいえがおが ゆれる
「どーもう」
おれほんとに ほんとにあいたかったんだなあ と かんどうした
「おれのとにててまちがえてた ごめんね」
はい とわたされたしゃーぺんをぽけっとにつっこんで うつむいてくちごもる

ありがとうかな ありがとうだよな おかしくないよな
いざめのまえにすると どうしていいかわからなくて かるくぱにくる
おれ こういうのだめで いつもごかいされてたっけな ふきげんそうとか
って そんなこといまかんがえてたら まさにそうおもわれる
いそいでかおをあげると いらだちもせず まっすぐにこっちをみているめと ぱちっとあう
そうしたらなんだか しぜんにぽろっとくちからこぼれてしまった

あいたかったー…

いっしゅん あたまがまっしろになる しまったこれではへんたいっぽい
…ぽくない それそのままだ そのとおりおかしなひとだ やばいやばいやばい
こんなぱにくってるのに きっとむひょうじょうのじぶんがむかつく なきたい
おろおろしていると いきなりひたいを べしっとはじかれた
「すってー」
つられていきをすって
「はいてー」
つられていきをはく

「おちついた?」
ゆっくりとしたこえにうなずくと まんぞくそうなかおでわらう
「んじゃとりあえず めし くいにいこう」
うん とまたつられてうなずいてから ことばのいみにきづいてびくっとした

「ちかくにやすいていしょくやあるの しってる?」
え ごめん しらない
「うん じゃそこいこう うまいよ けーたいもってる?」
あーっと いまはごめん ない もってきてない
「ちょっとけいたい けいたいしろよー まあいっか そしたらかみにかく」
え あ うん ありがとう…?
「ありがとうとか ごめんなさいとか すごく ていねいにいうよね」

つぶやいてふりかえって なまえしかしらないあいてが 「あのさ」とわらいかける
「なかよくしてね」

□ 770-772 □
【>714-718のだいがくせいの いちにち】

「ねえ おねえちゃんかいもうと いない?」

いきなりきかれたことをりかいするのに ちょっとじかんがかかった
とりあえずはんばーがーをのみこんで みずでながしこんで
やっといみがわかったので くびをよこにふる

いない おれ ひとりっこ
「あーそうなんだ ざんねん うーん」
ええと なんで
「うん しょうかいしてもらおうかなーと おもってね」

「これもおたべよ」とのんびりいいながら ぽてとをおしやってくるあいては
ううん ともういちどうなって ためいきをついて また 「うーん」とうなる
かのじょ いないんだ?
「いないの ひとりなの」
もてそうなのに おまえ
「もてるよ でも いないの」

はぐらかされているようなことばに ちょっとことばにつまる
ばーがーもってだまっていると 「ごめんね」のあとにさらだもきた

「これもおたべよ」
いいよ おまえさっきからぜんぜんたべてないだろ
「まあまあいいから やさいちゃんとたべないとかぜひくよ」

おしきられたさらだをもくもくとたべていると やけにしせんをかんじる
ひょいとめをあげれば じっとこっちをみてくるしょうめんのかお
ほんともてそうなてんけいのかおなのに どうしてこいびといないんだろう
「あのさ」
もしかしておれとこんなふうにめしくってばっかいるからじゃ とか
いやなことをかんがえそうになったところで ぽんとあたまをなでられた

「つぎのにちようび ひましてる? ばいと?」
ええと つぎはごごにじまでばいと それからひま
「そっか じゃあそれからあそぼう」
……いーけど あのさ かのじょほしいならおれとじゃなくてほかの
「ああ ちがうそういうことじゃないんだ」

「ちがうちがう」とふられたてで また ぽんぽんとあたまをなでられる
そしてこまったように でも とてもおだやかにわらった

「ごまかすのは もうやめるよ」

なんのことかきいても「ないしょないしょ」といきなりごまかされる
ただ ひたすらになでてくるては いつもよりさらにあたたかかった
であってそろそろにかげつ やっとなにかはじまりそうな だいがくせいたちのいちにち

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【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15