□ 2 / 192-193 □
【ある いいんちょうの いちにち】
あの いきものは だれにでも すかれるように できている
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きょうも きょうしつの まんなかで げんきに さわいでいる せめは さっかーぶの にんきもの
まんじょういっちで つぎの きゃぷてんに きまったらしい せめは
おんなのこにも ものすごく にんきが あって でーとの さそいは ひきもきらない
こんどの ばれんたいんにも もちきれないほど ちょこを もらうに ちがいないとの うわさ
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くらすでも むーどめーかー じゅぎょうちゅうも にぎやかだけど うるさいわけじゃなくて
はなしを もりあげてくれるから せんせいも せめがすき
かれを ちゅうしんに たのしい くうきが ひろがっているいつでも どんなときでも
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それを よこめで みる めがねの いいんちょうは ものしずかで まじめ
べんきょうは だれよりも できるし あたまの かいてんが はやいから
めんどうな ことは ぜんぶ じぶんでやってしまうので
いいんちょうに まかせておけば しんぱいいらないよね そういわれてる
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しんぱい いらない というのは
きょうみが ないのと いっしょ
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そんなふうにおもって いいんちょうは ちいさく わらう
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きょうも たのしそうに みんなのわのなかで ひときわ かがやいている せめをながめる
ひとの やくわりとか ぽじしょんとかは たいてい さいしょから きまっているので
あんなふうに だれからも すかれる いきものは そういうふうに うまれついているのだ
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ほおづえを ついて ぼんやりと そんなことを かんがえていると
きょうしつの いりぐちから せんせいが よぶ
くちの かたちで ようじが わかる
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おいで
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ゆがんだ よくぼうが したたるような わらいは いつもの よびだし。
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ああ、またか。
くちの なかの にがい あじとか。すえた たいいくそうこの においとか、よみがえって きぶんがわるかった
みっかまえに いろいろ されたときの あざも きすまーくも まだ きえてないのに
でも がっこうの なかで せんせいに さからえるわけもないから しかたない
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やさしくしたいとか あいしたいとか ひとに おもわれるような
そういう いきものに うまれてこなかったんだから。
しかたない。
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だれかと はしゃいで わらっている せめを もういちど ながめてから
おもいからだを もちあげ せんせいの ところへ むかう
きょうも めんどうな ことを ひとりで がまんして やりすごす
いいんちょうの たえがたい ひるやすみの はじまり
□ 2 / 198-200 □
【ある いいんちょうの いちにち】
がっこうのなかが そわそわ うきうきしてる ばれんたいん とうじつ
にんきものの せめのまわりは あさからあまいかおりでいっぱい
おまえばっかり いいなあ ちょっとは おすそわけしろよー
なんて からかわれてる せめを よこめに ひとり せきにつく いいんちょう
なにげなく つくえの したに てを やると かたい つつみの かんしょく
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? ふしぎに おもって とりだしてみると しんぷるな あおいつつみがみと ぎんいろの りぼん
なんだこれ ぼけっと てにとって ながめる
ちいさな めっせーじかーどに 「いいんちょうへ」。 さしだしにんの なまえは ない
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おおお?!いいんちょう それ ちょこじゃん!!
うしろのせきから だれかが めざとく みつけた さけびで やっときがつく
じぶんあての ちょこれーと?
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みみが あつくなって あわてて かばんにしまう
なんだよなんだよ だれからだよ いいんちょう おしえろよー!
まわりじゅうから こづかれて あわあわ ことばにつまる いいんちょう
しらない しらない なまえなんて かいてないし わかんないし
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こまって まっかになりながら ひとのわのなかから せめをみる
たのしそうに わらいながら せめも いいんちょうを みている
よけいに かおが あつくなって めを そらした
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やまほど もらってる せめから みたら いっこくらいで さわがれてる じぶんは ばかみたいに みえるかな
でも ほんとうは うれしかった だれか ひとりでも じぶんを すきなひとが いるってこと
まちがいじゃ なく かいてある 「いいんちょうへ」のもじ
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うれしかった。
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いつもどおり ほうかご せんせいに よびだされた たいいく きょうかんしつ
だけど かばんの なかに ひそませた あおい つつみがみと ぎんいろの りぼんを おもいだせば
いろいろ されて ぐったりしてても きょうは まだ すこしだけ むねが あたたかい
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なんだ いいことでも あったのか
いわれて かおを あげると せんせいが まんぞくそうな かおをして きすを してくる
たばこの きつい においが いやで かおをそむけたいけど そんなことをしたら
あごを おさえられて むりやりされるから さいきんはもう むていこうで されるまま
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あおい つつみがみと ぎんいろの りぼん
だれかが じぶんの ために よういしてくれた だいじな だいじな おくりもの
どんなに きたない ことを されても あれだけは じぶんのもの
うっとりと ためいきを ついた そのとき つめたく わらいをふくんだ せんせいの こえ
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…ちょこでも もらえたか?
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びっくりして かおを あげる いいんちょう
ひどく まぢかで せんせいが わらっている
きょうしつで おいでとわらう あのときの えがおで
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せんせいが どくが したたるように わらうときは いつも いやな たくらみが うまくいっているときだ
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せんせい
そうつぶやいた こえは じぶんではない だれか べつのひとが しゃべっているかのように とおかった
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せんせいが いれたのか
なんだ
…なぁんだ…
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あおい つつみがみと ぎんいろの りぼん
かばんの なかの それが きゅうそくに いろあせるようだった
せんせいの てのなかで おどらされていただけか
あたりまえだ なにを きたいしていたのか ばかみたいだ ばかみたいだ、ほんとに
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うれしかっただろ なあ
いたずらが せいこうしたような まんぞくげなかおで せんせいは けらけらわらって いいんちょうに きすした
いいんちょうの めが まっくらなところに おちていくのを うっとりとながめた
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にげられないのだ
にげられないのだから
そんなきたいなど するべきじゃなかった
するべきじゃなかった…
↓
おもい からだを ひきずるように ゆうやけの きょうしつに もどり かばんを さぐる
てに ふれる あおい つつみがみと ぎんいろの りぼん
あんなに うれしかった それが いまは きたない もののようで
ふるえるてで それを ゆかに たたきつけようと ふりあげた
↓
たたきつける ことが できずに ただ なみだが あふれた
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ごみばこに かたん と つつみを おとして
ゆっくりと きょうしつを でていく
ながい かげを ひきずるように さみしく つらい げんじつの なかに もどっていく
どろに あしを とられて ふかいやみへと しずんでいく ある いいんちょうの いちにち
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【ある にんきものの せめの いちにち】
ぶかつが おわれば もう そとは まっくら
きがえおわって わすれものを とりにきた だれもいない きょうしつの なか
けいこうとうに てらされて がらすに うつる にんきものの せめの うれいがお
その てには あおい つつみがみと ぎんいろの りぼん
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せっかく えらんだのにな
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かすかに にがく わらって ごみばこの なかに もどす
↓
それを ほそめた めで じっとみつめて
くらい ろうかで ひっそりと わらっている せんせいの すがたには きづかない
ある にんきものの せめの いちにちの おわり
からみあった いとの ゆくえを まだ だれも しらない
□ 2 / 226-228 □
【ある いいんちょうの いちにち】
ちょこ きらいだったのか
あるひ とうとつに にんきもののせめに きかれて いいんちょうは またたいた
すぐに すてた ちょこを みられたことは わかったけれど
せつめいなど できるわけもなくて すこし わらった
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ちょこがきらいなんじゃないよ…くれたひとが わかったから
なげやりに いいんちょうは しせんを そらして はきすてた
でも もう いいんだ どうでも
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…おとこだから?
え?
おとこからだから すてたの ちょこ
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おもいつめたような せめの まなざしを そうけだつようなきもちで みつめる いいんちょう
がくぜんとした ひょうじょうで つぶやく
なんで しってるんだ きみが
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せんせいが しゃべったのか!きみに!?
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せめの めが みひらかれた そのおどろきの おおきさに
いいんちょうは じぶんが なにを くちばしってしまったのかを しった
なにが こぼれてしまったのかを しった
↓
おびえたように あとずさり いいんちょうは はしりさった
あとに のこされた せめは ひとり ぼうぜんと たちつくすばかり
ろうかの いきどまりの かいだんの おどりばに そのひとはいた
いるだろうと わかっていたけれど どうせ まちかまえていたんだろう けれど
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せんせい
いいんちょうの よびかけに ふりかえる せんせいの ひょうじょうは ぎゃっこうで みえなかった
でも わらっている まんぞくそうに わらっている
このひとは いかりに ふるえる じぶんの かおをみて まんぞくしている
↓
きいてたんだろ せんせい
あんたが たくらんでたんだな ぜんぶ
↓
たのしそうに のどの おくで わらって せんせいは あとずさる いいんちょうに てを さしのべた
ばらしたのは おまえだ おれは なんにも うそもたくらみも してない
じぶんで おまえが はやがてんして ぶちこわしたんだ
↓
あんたは!!なんでだ、なんであいつに て だした!
はがみして いいんちょうは さけんだ
にげようとした てをつかまれ ごういんに ひきよせられながら せんせいの あつい むないたを ちからいっぱい たたいた
あいつは しっちゃいけなかった!なにもしらずに みんなのなかで わらってなきゃ いけなかった!
↓
さけびながら ないていた
しられたくなかった にんきもので あかるくて だれからも あいされている せめの あんなかおを みたくなかった
どろに まみれ よごれていくのは じぶんだけで じゅうぶんだったのに
ひとりで たえることなら いくらでも できるのに だれかを まもることは こんなに むずかしいなんて
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ばかな こだな おまえは
やけに やさしく いたわるような めで せんせいは もがく いいんちょうのかみを なでた
その くびすじに そっと つめたい きかいを おしあてる
↓
ひとの しんぱい してるばあいじゃ ないだろ?
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すたんがんで きぜつ させられて くったりと たおれる いいんちょう
いとおしそうに その ほそい からだを だいて かいだんを のぼっていく せんせい
↓
ほんとうの ほんとうの ことには まだきづいていない
ある いいんちょうの ぜつぼうの ひびは まだ おわらない
【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15