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【ある おれのいちにち】

ごーるでんうぃーくなんて せけんはいうけれど
おれのかいしゃは れんきゅうへんじょう なんてこった

ちいさなこうじょう ちゅうもんうけすぎて おおいそがし
ひまよりはましだと からげんきだして のうきげんしゅのふるかいてん
さいごのしゅくじつくらい やすみたいよな といったら
しゃちょうがひとこと「よし そんじゃあ きょうから ざんぎょうだ」

ええー

じょししゃいんに にらまれ どうりょうに こづかれ
どうきの たなかには へっどろっくを かまされた

それでも まあ けっこうなかよし あっとほーむなこうじょう
がんばってかたづけて ぱーっとのみにでもいこうぜ なんて
わらいながら へびーなざんぎょう つづけましたとも

そしたらびっくり ほんとうにしごとが かたづいてしまった
くじまできかいをうごかしてりゃ とうぜんだと しゃちょうはいうけれど
しょうじき しゃいんいちどう おどろきすぎて こえもでない
なんともかんとも ふつかもやすみが のこってるじゃあないか

いやあ ほんとうに おつかれさん しあさってから またよろしくな
こえかけあって よるのみち のみかいなんて するきりょくもなく
それでもはれやかなえがおで かいさんする しゃいんいちどう

おまえは どうするよと なにげなく こえをかけてみた
きがつけば ちゅうしゃじょうにのこった どうきふたり
おれは くるま たなかは ばいくつうきん
「うーん そうだな のんだら うんてんできないしな」

お これは ひょっとするかも

あしたはやすみ あさってもやすみ どくしんおとこに よていなどなし
そんなかんがえが かおをみただけで よめてしまう
たなかはけっこう たんじゅんなおとこ なんでもすぐに かおにでる

めしでもどうだと きたいはんぶんに さそってみる
「だなー はらへったし どこにする」

やった だいせいこう おれはおもわず こころでがっつぽーず
にやけがおをおさえながら ふぁみれすでいいんじゃねーの とかなんとか
てきとうにきめて げんちしゅうごう さあ しゅっぱつだ

たなかのばいくは にひゃくごじゅうの れーさーしよう
あっというまに きえてゆく てーるらいとをみおくって
よぞらにてをあげ いみなくさけぶ よっしゃー

にゅうしゃ よねんめ いそがしいこうじょうの きかいこうふたり
いっしょにけんしゅう おなじきかい ふざけあい はげましあって
みんなに おまえらなかがいいよな といわれるけれど
じつは ふたりだけでめしくうことすら なかったのだ

みんななかよし あっとほーむなこうじょうの あれはしょにちのよる
かんげいかいで となりにすわったたなかの あかるいえがおに
ひとめぼれして はやよねん おもえばながい としつきであった

くるまにのりこみ ふぁみれすへむかう しゅくじつのどうろは すいていて
きっとふぁみれすは こんでいるのだろうけれど そんなことより
はじめてふたりきりで さてなにを はなそうかな などと
どきどきわくわく ざんぎょうあけのよるは はじまったばかり

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【ある おれのいちにち】

「とりあえず びーる」
かいこういちばん たなかのしょうげきのひとこと なんじゃそりゃ
「びーるなんて じゅーすみたいなもんだし」
いやいや ちがう まったくちがう それにおまえ さけよわいし
「なんだとてめえ いざかやでのまなくて どーするんだよ」
はあ それはまあ ごもっとも いや やっぱりまちがってるって

ふぁみれすさんけん はしごして どこもかしこも おおにぎわい
ちょっとくらいまとうぜと いったのに たなかはきくみみ もちゃしない
きがついたら えきまえのびる いざかやにて ふきんをうけとっていた

こら かおをふくな ああ くびすじまで おっさんかおまえは
「えびくおうぜ えび それからからあげと くしやきもりあわせ」
うわーたなかさん のむきまんまん おつまみこーすぜんかい
「えだまめと ちゃまめって なにがどう ちがうんだろ」
しらねーよそんなの あーあ そんないっきに じょっきあけて

かわいいてんいんさんが おちゃいかがですかーなんて きくころには
すっかりできあがった たなかのなれのはてと しらふのおれ

「おれは いつかこうじょうもって しゃちょうに なるおとこだからね」
うんうん たなかさんは にんきものだしね ひとをひっぱる さいのうあるし
「でもなー くちわるいからな じょしにんきも ひくいしな」
そうだね たなかさんは おもったことなんでも かおとくちにでるからね
「だからな おまえが こうじょうちょうとして そのへんのふぉろーを」
なんどめかな それきくの どうでもいいけど たなかさんよ

どうしておれが あんたをかついで よるのみち あるいているんでしょう

ほら おとなしくすわって しーとべるとも ちゃんとしめて
まったくなんで こんなことに こんやはまったり ふたりでめしくって
それから それからなあ おれは

あしたはいっしょに でかけたりなんてこと できたらうれしいなあ
なんて みはてぬゆめを みていたわけよ それがどうだい
たなかはひとりで よっぱらっちまって おれはかんぜんに しらふで

あんたのからだを かかえてるだけで たまんなくなってるのなんて
しらないんだろうけどな このばか さけくせーんだよ まったく
あ しかもこいつ ひとのくるまで ねてやがるし

たなかのみじかいかみを こぶしでたたいてから すこしなでてみる
ちいさくて かたちのいいあたま まえがみだけちょっとながい
つんつんたってる ちゃいろいたんぱつが やせたほほに よくにあう

くちでかいな っていったら うるせーおまえって わらったっけ
しょたいめんなのに えんりょのないくちょう ぜんかいのえがお
すばしこそうなやつだと おもったら ほんとうにみがるで
しょにちの しかも かんげいかいなのに ざしきのすみからすみまで
とびまわって はしゃいでいたっけ ばかみたいに

「はやく しごとしたかったから うれしくってさ」
よくじつから なぜかとなりにいて てれたように またわらう
どうきだけど たなかはまだ じゅうはちで おれは にじゅうさん

あれは いつごろの ことだっけ ひるめしくいながら たなかがいった
「だいがくって おもしれーの? おれも いきたかったな」
おもしろいけど あんたには にあわないよ
「なんだとてめえ おれはこうみえても ばかじゃないんだぞ」
いや ごめん そうじゃなくて こんなことがいいたいんじゃあなくて

あんたが あっとほーむなこうじょうに きかいのしくみもしらないのに
あっというまに うちとけたから そのながれで なんとなく
だいがくでで ずうたいばかりでかくて くちべたなおれが
ほんとうはやるきのなかった きかいこうに やりがいをかんじて
いつのまにか かいしゃになじんだなんて あんたはしらない

あんたがばかみたいに あかるくて げんきで はしりまわるから
それをおいかけて ふぉろーするうちに おれのくちべたが なおったりとか
しょたいめんから としうえのおれに ためぐちのあんたが いてくれたから
へんなきおくれ かんじることなく とししたのせんぱいとも つきあえて
きがつけばしゃないで あんたたちは ふたりでいないとだめねーなんて
しゃちょうのおくさんに からかわれたりして

ひとめぼれは まちがいだったな
あれは ただのよかんで いまにくらべたら こいというのもはずかしい

なあ たなか たなかさんよ あれからよねんだぜ
かいしゃでしかあわない ただのどうきと おもってるか
つきあいやすい としうえの からかいがいのある ともだちだけか

おれは あれからよねんで とんでもないところまで きちまったよ
こうして あんたのあたまなんか なでてると
むねがいたくて なみだまで でてきそうだよ

ちいさくて かたちのいいあたま わらうためにあるような でかいくち
ちからしごとで やせたからだ あんた ちゃんとめし くってるのか

おれは たなかのことを なにもしらない
ばいくのしゅみとか よくきくおんがくとか ちゅうにちのふぁんだとか
がくせいじだいのぶゆうでんに すきなまんがなんて そんなのは
しっているうちに はいらないよな

あんた どこにすんでるんだっけ いわないと いつまでもこのままだぞ
はやくおきて なびしてくれなきゃ しんやなのに おくることもできない

たなか たなかさん かたをゆすって こえをかける
おい たなかさんよ あなたのおうちは どこですか

こたえるのは すやすやときもちよさそうな ねいきばかり

ああ なんてむぼうびなんだ あんたは
おくりおおかみってことば しらないのか

えんじんかけて ふろんとがらすごし えきびるちかくの くらいみち
たなかのいえなんて しらないんだから しかたがない
いをけっして あぱーとへむかう しらふのはずのおれ ごぜんいちじ

□ 384-403 □
【ある おれのいちにち】

しらなかった にんげんってのは ねぼけていると おそろしくおもい
さらに よっぱらって あしもとのおぼつかない おとなのおとこは
たいりょくじまんのおれでも かかえるだけで ひとくろう

ああ どうしよう おれのあぱーとには えれべーたーなんてない
しかも さんかいだったりする どうすればいいんだ おい たなか
「おー ここはどこだ」
よかった やっとおきて くれましたか

「おまえは ひとりぐらしか」
なんどもいった きがするけどな だいがくじだいから このへやだよ
「さすがだな おまえは にっぽんいちの みょうじだけのことはある」
あのな いつもいうけど たなかさん にっぽんいちは さとうだぞ
「いや さすがのおれも にんずうじゃ かなわないから」
せんそうするわけじゃ あるまいし ただのせたいひりつでしょうが
「にっぽんいちのおとこは きっとやさしいから みずをくれるな」
ああ はい そういうこと

さぎょうふくも てぃーしゃつも くつしたまで ちらかして
ぱんついちまいのたなかが たたみのうえで ごろごろしている
たなかが おれのいえで はんらのまま ねころんでいる

しんぞうが はれつしそうだ

「おまえは つかえないおとこだな でかいぱんつ はきやがって」
みずはいいのか こらたなか かってにたんすを あさるんじゃない
「これ かっこいいな おれにくれ」
やらねーよ つか はいてもいいけど ちゃんとかえせよ
「そのまえに ふろだ もっとまえに みずだ」
なら いつまでもほふくぜんしんしてないで おちつけっての

たなかを ふろにほうりこんで ぬぎちらかしたふくを かたづけて
きがえにたおるまで よういするおれ なんてできた ともだちなんだろ
れいぞうこから かんびーるだして ようやくおれも おつかれさん
ごくごく ぷはー しっかし ほんとうにおれ

よく へいせいで いられたもんだ よくやったよ

「てめー このやろう おれにもびーるよこせ」
すいません たなかさん おれいま じぶんをほめた ところなんです
ごしょうですから ぜんらであるきまわるのは やめてください
「ふろはいったら めがさめちまったな」
だから ばすたおるってのは あたまにかぶる ものじゃなくて
「ごがつなのに あちーな びーるがうめえや」
たなかさんは かはんしんに じしんがおありの ごようすですが
あしをひろげるのは ほんとうに かんべんしてください

おれがふろから あがってみると よかった たなかはふくをきている
「そういやおれ はぶらしがねえぞ」
こんびににでも いきますか
「せかいいちのおとこは ひとりでもだいじょうぶだろ」
いつから おれがせかいいちに つか じょうだんじゃない おまえがいけ
「だっておれ このへんのちり さっぱりわかんねえ」
あ そうだった じゃあいっしょに でかけるとするか

ふたりでなかよく かたをならべて よるのみち
こんびにまでは とほにふん これがあるから ひっこせない
「おまえさ」
はい なんだね たなかさん
「いや やっぱり いいや」
はあ そうですか

あした……いや きょうはやすみ あしたもやすみ
ゆっくりねて ゆっくりやすもう ざんぎょうつづきで つかれたからな
こんびにには ぱんつもしゃつもあるし おれのふくも きていいから
こんやも ひるまも あしたも あんたがいえに いてくれないかな
でも そうしたら おれはがまんが つづくのかな

「あのさ」
うん なに
「おまえさ おれのこと」


「おまえとか あんたとか たなかとか たなかさんとか よぶじゃん」
ああ びっくりした ええと それがなにか
「でさ めったに おまえとか いわねーだろ」
はい? うーんと そうかな
「かぞえてるから わかる おまえってのは きんちょうしたり
おこってるときの よびかただ」
かぞえてるんですか すごいなたなかさん で なんのはなしなの これ
「おれさっき おこられたとおもったから でてきたんだ」

なにがなにやら さっぱりわからない
「おれ えんりょなしだから としうえあいてなのに すぐちょうしのって
わがままいったり おまえにめいわくかけたり するだろ」
そんなこと ないぞ おれが せわやきなだけで
「いやべつに あやまらねーけど」
あやまらないのかよ まあいいけどな
「おまえが いらついたときは よびかたとかで すぐわかるし」
ふーん けっこうさくしだな たなかさんは
「だけどさ もう やめる」

ええと なにが?

「えんりょするの もうやめだ おこられても おれ きにしないことにする」
いや すこしはきにしてくれないと こまるんだけど
「だから おこってもいいんだよ おれも すきにするから」
そんな かってなはなしがあるかよ これ なんのかいわなんだよ

たなかはそれきり だまったままで とほにふんのあぱーとに とうちゃく

ああ きょうはつきが きれいだな
そんなことを かんがえながら きもちをおちつかせる
いみのわからないかいわと みょうないらだちと おそろしいふあんに
それでも いっしょにねるしかないと ためいきをつくおれ ごぜんさんじ
こんびにからかえって たなかも おれも だまったまま
たなかは ふとんをしくのを てつだってもくれない
そのくせ さきにふとんにもぐりこむと ひとつしかないまくらを せんりょう

そんなに すみっこで ねなくてもいいのに

あかりをけすと おもてのがいとうが ぼんやりとへやをてらす
ふとんの はしとはしで おやすみもいわないまま ねむりにつく
おなじふとんの すぐそばで おれのぱんつと しゃつをきた たなかが
おれにせなかをむけて まったくむぼうびに ねいきをたてる

おやすみ たなか ゆっくりやすめよ
おきたらばいくを とりにいかなきゃな あれ たかいんだろ
ついでに ひるめしでもくって それから それから

いろいろと いいたかったはずなのに さっきのかいわで あたまがこんらん
なあ たなか あんたはなにが いいたかったんだ

「おい」
うわ びっくりした おきてたのかよ たなか

「おまえは ほんとうに つかえないおとこだな」
ええと なにが ふとんが くさかったりしたとか?
「それとも おれの かんちがいかよ」

たなかが こっちをむいた かおはくらくて よくみえない
「おれ かんちがいしたか? やっぱり こんなのは まちがいだったか」
きのせいかも しれないけれど たなかのこえが かすれている
「やっぱりな ふるいてだと おもってたけど」
こんどは わらうけはい おれは わけがわからず こえもでない
「わるかったな よったふりして あがりこんだりして」

わけがわからない それなのに なぜかこどうが どきどきとはやい

「あーおれ かっこわりいな なにいってんだろ」
たなか たなかさんよ ほんとうにごめん たのむから
「おんなじゃあるまいし ぬいでさそうとか まじありえねえ」
そんなのじゃなくて はっきりと たしかなことばで いってくれ
「でもさ おれ さっきまでほんと かんちがいしてたから」
ああ ちがう ちがうんだよ たなか
「おまえが あたまなでたり するから もしかしたら なんてさ」
なきそうになったり しなくていいんだ

「こんながきに つきあって めいわくだったろ」
ああ どうしよう たなかが ぼうそうを はじめている
「それなのに ごめんな おれ あたまわるいからな」
そんなことない あんたはかしこいよ にぶいのは おれのほうだ
「でもな おれ おまえのこと おまえが」
だめだ まってくれ たなか

おれは あわてて てをのばす
はなみずをすすってた たなかが びっくりして おしだまる

としうえで にぶくて あんたに たすけてもらって ばかりいて
それなのに かんじんなせりふまで あんたにいわせる わけにはいかない

ちいさなあたまが まくらのむこうに にげていく
それをおいかけて ちからずくでひきよせて ほそくてかたい かたをだく
たなかが ぜんしんをこわばらせて うでのなかで ふるえている

ごめん ほんとうにおれは つかえないおとこだ

たなか
へんじがない
たなか すきだよ おれ あんたのことが すきだ

むねのなかの こうとうぶに かおをよせて きすをする
みじかいかみが くすぐったくて かんじるあつさに いきがつまる

たなか おれは はじめてあったときから あんたがすきだった

「うそつけ」
ちょっとまてよ こくはくしてんのに それはないだろ
「にっぽんいちだからって ちょうしにのるな」
のってねーし おい なんでにげようとするんだ
「あちーんだよ しかもくるしいんだよ はなせ ばかやろう」
はなせるわけが ないだろう せっかくつかまえたのに
「きんにくばかが いかげんにしろ」
いてっ こらたなか けるんじゃない

にげられてしまった てか こんどこそかんぜんに わけがわからない
たなかは おれをけどばして はらに ぱんちまで くらわすと
かけぶとんをかかえたまま ごろごろと へやのすみまで ころがっていく

ああ あぶない たなかさん たんすにぶつかる

ごん と すごいおとがした ほら だから いわんこっちゃない
あわててかけよると みのむしみたいな たなかが ころりとはんてん
まるくなる たなかのふとんまき だいじょうぶかよ あたま うたなかったか

「うるせえ さわんな」
わかったよ さわらないから
「あっちいけ ばか けりころすぞ」
いかないよ いってもいいけど ふとんかえせよ
「もう いいから ねちまえって」

さっきまでの ふんいきはどこへやら おれをかたくなに きょひするたなか
あついんだろ なんでふとんに くるまってんだ しつこくきく おれ
そうこうするうち ついにきづく なあ たなか もしかして あんた

とつぜん はねあがるふとん にんじゃのように きえるたなか
あしおともあらく といれへとかけこむ そんなばかな ちょっとまて
このてんかいで こんなじょうきょうで おまえ

そんなのありかー

ぼうぜんじしつ たたみにすわり といれのかぎが しまるおとをきく
なかのじょうきょうを そうぞうして こうふんするが するのだが
こうふんしてしまった おれはどうなると とほうにくれる さんじはん
からから からから こらたなか かみのつかいすぎだ

たなかが といれで ますたーべーしょんなるものを おこなっていて
それはつまり おれのこくはくとか だきしめたりとか そういうもので
たなかが せいりてきなよっきゅうを もよおしたと いういみで

ふらのは もう はるです とかいってる ばあいじゃねえ

くそ あんまりかわいいこと いうから ゆだんした おれが ばかだった
そうだよ たなかは そういうやつだよ じぶんかってで えんりょなしで
としうえを としうえともおもわない たいどで ちくしょう

しかもここは おれのいえだぞ たてこもってるそこは おれのといれだぞ

いらいらと まちつづけて かれこれもう さんじゅっぷん
まてどくらせど たなかは といれからでてこない

おーい たなか でてこいよ いつまでそこに いるつもりだ
ふるいといれだ ゆかはたいるだし ごがつのよるじゃ かぜひくぞ

かちゃりと どあがあく
ああ よかった たなかがやっと でてきてくれた

って またしめるか こら

あきらめて ふとんにくるまり まくらもつかって ねてしまうことにした
つかれたからだは すぐにゆめのなか めがさめたときには もうひるま

たなかが いない

といれは あきっぱなし げんかんのかぎも あけっぱなし
たたんだふくも くつも けはいすらきえて たなかがしっそう
そんなばかな いくらなんでも よにげするとは おもわなかった

あわててきがえ そとにとびだすが どこをさがせば よいものやら
じこくはすでに おひるまえ きっとたなかは いえにかえっているだろう
おれのしらない いえに おれを おきざりにして

とぼとぼと あぱーとへもどる たたみにすわり なきそうになる

すきだって いったのに まあ あんたは いわなかったけれど
よったふりまでして おれについてきたのは なんのためだったんだよ
ふるちんで あるきまわりやがって さそってたんじゃ なかったのかよ
はじめてみた あんたのはだかから ひっしにめを そらせたのは
こんなふうに あんたをにがすためじゃ なかったのに

なんでかな どうしてこのじょうきょうで たつかなおれは

しんそこ じこけんお うでにのこる たなかが たなかのかんしょくが
どうしても おもいだされて たんじゅんすぎるはんのうの じぶんのからだに
あきれはてて なけてくる たなか たなか どうしてにげたんだ

こわかったのか おれが あんなふうにつかまえたから
こうかいしたのか やっぱり ちがうと きづいたのか
おれは あんたのことを おもいだしただけで このざまだ
こんなおれじゃ あんたにきらわれても しかたないな

なあ たなか よねんのおもいが たったひとばんで
どうにかなる わけがないだろう それなのに なんてことだ

もっとちゃんと こくはくしたかったよ おびえさせたりせずに
いきおいじゃなく めんとむかって せいせいどうどう こくはくしたかった
たとえ それでもあんたが にげたとしても きらわれて しまっても

とうとう たえきれずに ないてしまった なさけないおれ
たなかのなを よびながら ふとんにくるまる ごぜんじゅういちじ
はらがへって めがさめる にんげんなんて かんたんなもんだ
かぎと さいふだけもって いえをでる めしをたく きりょくもない

うそだろ

あぱーとのちゅうしゃじょう ほこりだらけの おれのくるま
ぼんねっとのかげに かくれるように うずくまる たなか

めのさっかく かと しんぞうが はれつする かと

おれのぱんつと おれのしゃつをきた ほそくて ちいさなからだ
まるめたさぎょうぎ ひざにかかえて じゃりのうえに たいいくすわり
おれの おきにいりのとらんくすが ほこりだらけの すなまみれ

あんた そんなうすぎで かぜひくぞ くちにだすと のどがつまる
わらいたいのか なきたいのか じぶんでも わからない

おそるおそる ちかづく こわがらせないように しゃがんでみる

「あのな」
うん
「さいふが」
なに?
「さいふ わすれたから もどろうと したんだけど」
さざえさんか あんたは
「うるせー」
ああ ごめん

「なんか もどる ゆうきが でなくて」
そうか ごめんな きづかなくて
「おまえが おきてたら どうしようとか おもうと」
どうもしないよ だいじょうぶだよ
「それに あんなことして はずかしいし」
いや おとこならまあ とうぜんのことだ きにするな
「おまえが おれのこと きらいになったんじゃ ないかとか」
それはない ぜったいにない だっておれは
「もう どうしたらいいか わかんなくて」

たなか それはおれも おなじだよ

こんなとき にっぽんだいにいのくせに つかえないおとこの おれは
だいすきなおとこが めのまえでないているのに みうごきひとつ できない

「すずき」
うん
「おれ すずきが おまえが」
うん
「おまえが すき かも」

おもわず わらってしまう ここまできてあんた かもって

わらいながら うずくまるからだを だきしめたら
うでのなかから ばかやろうと かえされた

たなかは ばかやろうといいながら ほそいうでで しがみついてくる
ひえてしまった からだと あたたかい ほほが
すきだとくりかえす おれの うでのなかにある

まだ あんたのこと なにもしらないけれど
あんたが おれのこと すきだとしって それだけで じゅうぶんだよ

ここで きすなんかしたら また けられるかな

にっぽん だいにいのすずきが せかいいち しあわせになるまでの
ながい いちにちのはなしは これでおしまい

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