+ ある すてられたしょうねん の いちにち +

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【あるすてられたしょうねんのいちにち】

すてられて きょうで じゅうななにちめ
くうふくにはなれていたけれど とかいのごみばこなんて せいぜんとならびすぎていて
せいぜい ぱんやのろじうらから きれはしをぬすむのがせいいっぱい
みちにねっころんで ぶーつがこつこつとおとをならすのをきくのは
とてもここちがよいけれど そろそろかいどうをおちばがうめるきせつだ
ねつのない いしだたみは よけいにぼくのたいおんをうばう

かえりたい
いちどしか やさしくしてもらえなかったけど あのいえに

そんなことをおもって よろよろと もうふをひきずりながらあるく
もうふといっても うすよごれた ちいさなたおるけっと
それにすら あのひとのあいじょうをかんじて なきそうになった
もちろん あのいえにたどりつくことはなく そもそもぼくのいばしょは もうあそこになく
ちいさなあぱーとのかいだんのまえで ちからつきて たてなくなってしまった

ことことと きいたこともないおとがして ぼくはめをさました
ありえもしないゆめをみて きたいをむねに からだをおこすと
だいどころにだれかのうしろすがたがあった
あのひとともぼくともちがう くろいかみが ふかいなべをみおろして ねっしんにかきまぜている
ぶつぶつ きいたこともないことばをしゃべっている

なんだ… あのひとじゃないのか
そんなためいきをききつけたらしく
かれは とつぜんふりかえると ぼくのしっていることばでしゃべりだした

おはよう おとこのこ

いんとねーしょんも そのひょうじょうも どちらもぎこちなく
ほそまっためのいろは ぼくとちがい まっくろだった。
しゃべるのがへたくそなくせに ぺらぺらと じょうきげんにしゃべりかけてくる

あ みねすとろーね あるよ おばがつくってくれたんだ
こんやは いちだんと ひえるから あったまると いいよ
ほら えすぷれっそも いま いれるから まっててね
ごめんね おれ いちどにふたつのこと なかなか できなくてさっきも なべ こがして…

つたないことばを いっしょうけんめいはなすかれのようすと
じぶんがいま おかれているじょうきょうを はあくするうちにぼくは
なんだかとても かなしくなってきた

せいけつなしーつからかおる ひなたのにおい
ひるまほしたばかりの ふかふかのもうふ
あわあわみるくのこーひー ゆげがたつぐだくさんのすーぷ
あかりのともったきっちん

こんなの あのひとは おわかれのひにしか してくれなかった

なんてひどいんだ このくろいひとみのおとこは
ぼくをひろったばかりなのに もうすてるきなんだ
どうせすてるんならはじめから ひろわなければよかったのに

あんなつめたいいしだたみのうえに ぼくはかえりたくないのに

そうおもってわんわんないて おたまかたてのとうようじんをうんとこまらせた
あるしあわせになれていないしょうねんのよあけまえ

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【あるりゅうがくせいのいちにち】

はじめてとどいたてがみは どうしても やぶれなかった
かといって ふうをきるのも ためらわれたので おれは
めのとどかない つくえの おくのおくに それをつっこんだ

なれないくにでの なれないまいにちは めまぐるしくまわり
そのてがみのそんざいを わすれかけたころ につうめがとどいた
こんどは やぶいたよ

よんでやるもんかと おもった
どうせ うわきのいいわけとか もどってこいとか なさけないことばかり
おまえのことだから そんな かっこうわるいことばかり かいてあるんだろう
おじがすすめてくれた このりゅうがくは このしつれんに せなかをおされたようなものだ

てがみがとどくたび そのくずきれは どんどんふえていった
やぶくかいすうも にかい さんかい よんかい ごかい
さいきんではもう こまぎれだ
なんのためらいも かんしょうもなく おれのてで たんなるごみに なっていった

かいたてのしゅれっだー
らんらんとかがやいためで あかげのしょうねんはそれをみつめていた
にくのつかないてあしのせいだろうが より おさなくみえる
だが こうきしんは ひとなみいじょうらしい
あれからみっかみばん なきつづけられたおかげだろうか
おれはそうぞういじょうに このこのえがおで あんしんさせられた
すいみんぶそくも はれるというものだ

なににつかうのか とききたいのだろう ひっしにゆびをさしている
うまくせつめいできるほど おれだって ことばをしらないので
もうすぐとどく てがみをすてるんだよ とだけいった
くびをかしげているしょうねんをしりめに おれは なんども げんかんにめをむけていた
まいつき きまってこのひにとどく あいつからのてがみ
はやくこいよ
しゅれっだーまで かったんだぞ

けっきょくそのひ いんたーほんがなることはなかった

むなさわぎがして とびおきたのは そのばんのこと
おかしい ぜったいおかしい …まさか なにかあったんじゃないか
べっどとゆうびんうけを おうふくするうちに あかげのしょうねんもめをさました
ごめんね おこしちゃって
わらって しょうねんにあやまると かれはふしぎそうにおれをみつめながら いった

そんなに はやく よみたいの?

ちりちりと こころがやけるおとがした
ちがうよ おれ
よみたくないんだ はやく やぶってすてたいだけなんだよ
じゃないと おちつかないんだ

きがつけばおれは なきそうになりながら
あのてがみをおしこんだひきだしを ひっくりかえしていた
いやなよかんがする
いままでひっしにかくして やぶいて ごみばこにすてていた いやなよかんが
みるみるおれをしはいしていく

いままで あけることのなかったてがみに つづられていたのは
ただひたすら おれのしあわせを いのることばだった
うわきしょうで いいかげんなおとこだった
ごめんも ありがとうも いってもらったことがなかった
それなのに てがみには そのすべてが つまっていた

でも ひとことだって やりなおそうとは かかれていなかったよ

なにがかいてあるの? とてがみをのぞきこみながら しょうねんが おれにといかけた
そうか このこは にほんごがよめないんだ

うれしいことだよ というと ばかみたいに なみだがこぼれてきた
もうたぶん てがみはこないんだろう

おどろくしょうねんのかたにしがみついて なんとかおえつをこらえる
そんな ぶきようななきかたしかできない あるせいねんの
ようやくしつれんにきづいた はだざむいあけがた

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【あるころしやのいちにち】

おれはしばらくみをかくす おまえもよそとしごとをしろ

…わるいがあんたは おれのにじゅうねんらいのおとくいさまだ
にげるんならおれもつれていけ ようじんぼうていどになってやる

おまえのような けちでいなかのころしやが よくをはるな
おれはかんぶからおわれるみだ いっしょにきてもいいことなんてひとつもない

そんなもんかんけいねえ あんたにしなれちゃこまるんだ
いいからつれていけ

…ならば ひとつじょうけんだ
ここより きたのまちにいって さがしてほしいものがある
ごうりゅうは みっかごのしょうごに いつものばーで

かたのいたみと いきぐるしさでおれはめをさました
だんろのともる うすぐらいへやを おちつきなくあるきわっていたのは
じゅうごかそこらの あかげのしょうねんだった
ほこりをかぶったろじうらで きをうしなったことまでは よくおぼえているのだが
じぶんが なぜ こうして こぎれいなべっどによこになっているのかは
おもいだすことができなかった

どうやらおれは このあかげのしょうねんにひろわれたようだ
けいかいしんもうすく おれにちかよってくると ぎこちなくほほえんだ

ぼくもむかしひろわれた だから あんたをひろった それ いたそうだし

としかっこうのわりに とぼしいごいで
それにあんた あのひとと おなじにおいだ といい
しょうねんは おれのちでよごれたこーとにはなをおしつけて てれくさそうにわらった

へえ ちとどろとあせとしょうえんのにおいをつけた しりあいがいるのか

いきもたえだえ そういうと そうぞういじょうのいたみがはしる
しょうねんはそんなおれのきもしらず にがわらいをうかべて
むかしね
といいながら もうしわけなさそうにうつむいた

いいんだ いまのほうがしあわせなんだ
あのひとがぼくにくれたのは なまえだけだったよ

なつかしんでいるのだろう そのしぐさが すこしじぶんとにているきがして
おれは このしょうねんにみとられるのなら
こんな らしくないさいごをむかえるのも わるくはないとおもった
こいつが まるで すてられたいぬのようなめをするからだ

そうか おまえのなまえは なんというんだ?

しょうねんが ほこらしげにこたえたなまえに おれはおもわず わらってしまった
そうかそうか それはおまえ むかしまずしいにんげんをすくったえらいやつのなまえだぞ
たいそうなもんもらったな にあってないんじゃないか?

ばかにしたようにそういうと しょうねんはくちびるをとがらせて
でも きれいななまえだろ? そういった

しごとができるだけの まったくいやなおとこだった
おれのなまりをきいては いなかものだとばかにし
おれがぴすとるをつかうたび へたくそだといってわらった
けれども ながいつきあいのなかで おれのなまえをわらったことは いちどもなかった

このたいそうななまえのせいで がきのころからばかにされてきたんだ と
しごとのあとのいきおいにまかせて いちどだけこぼしたことがある
するとあいつは おれとめをあわそうともせず

そうか? きれいななまえじゃないか

そうつぶやいた

もうすぐ あいつ かえってくる
そしたら あったかいすーぷとこーひー いれてもらおう

そんなしょうねんのこえがちいさく とおくなっていくのをききながら
おれは はるか みなみのまちへおもいをはせていた
じかんまでにおれがこなければ あいつはひとりでゆくだろう
いつものばーでういすきーをかたむけ おれがこないとはらをくくっている

わるかったな きたいどおり やくそくははたせそうにない
あかげのいぬは みあたらなかったよ

ころしやはしずかにめをつむった
にじゅうねんかん おとこの きもちにきづくこともなく
しょうがいでたったいちどだけ ちちおやにかんしゃしたしゅんかん
めばえたきもちを おとこにつたえることもなく
ただ おとこのぶじをいのって
あたたかいべっどのなかでしずかに いきをひきとった あるころしやのいちにち

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