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【ある たびびとの いちにち】
なんでもできると うわさのおとこを たずねてみた。
ところがおとこは、うわさに はんして なにもしない おとこだった。
ひがないちにち うたおんなのひざで まどろんでいるだけで はたらこうともしていなかった。
あなたは なにができるのか ときいたところ
おとこは いやなわらいをうかべただけで こたえようとはしなかった。
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うたおんなは かなしそうなかおで おとこになにかをきたいするなとつぶやいた。
おとこになにかをさせようとおもってはいけない。
おとこはもう じゅうぶんつらいおもいをしてきたのだから。
そのことばのいみは あいにくたびびとにはわからなかった。
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まちのひとにたずねてみた。
あのひとにはなにができるのか?
あるまちのひとはおとことおなじようなわらいかたで、なにもできるものかとわらった。
あるまちのひとはほほえんで、なんでもできるひとだ、じぶんのやまいをなおしてくれた、と
なみだをうかべてかたった。
あるまちのひとは、なんでもできるくせに、なにもしない ひどいひとだ と くらいめでいった。
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うたおんなのうたを ききながら、たびびとは おとこについてかんがえた。
おとこはなんでもできるが、いまとなってはなにもしないらしい。
おとこはなぜ、なにもしなくなってしまったのだろう。
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ひがないちにち、うたおんなの ひざから うごかない おとこのそばに、
たびびともすわってみた。
おとこは まどろんでなどいなかった。
まちをみおろすおかのうえで、じっとそらをみていた。けわしいひょうじょうだった。
うたおんなは ずっと うたっていた。
あかるい うたが おおかったが みょうにものがなしく きこえた。
うたのうまい おんなだった。
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ほしをみたことがあるか。
とおかほどかよって、あきもせず おとこのよこにいるたびびとに、ふいにおとこがつぶやいた。
おちてくるあかいほしだ。すべてをうばい、すべてをころすあかいほしをしっているか。
ふるいしょもつにかいてあった、まのほしのことだろうか。
なんねんかごとにやってくる、おそろしい しのつかい。
すべてのいきものの いきをうばうという そのほしのはなしをすると、おとこは うなずいた。
もうすぐおちてくるんだ。いまはだれもしらない。
なぜそれがわかるのかとたびびとはたずねた。おとこはこたえなかった。
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なんでもできるおとこには、なんでもみえるのだろうか。そんなふうにおもった。
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ほしがおちてくるとみな、しんでしまいますね。
そうだな。しぬな。
なんだか まのぬけた かいわのようにも おもえた。
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なんでもできる あなたにも ほしは どうにもできませんか。
そういうと おとこは さいしょのときのような いやなわらいを うかべた。
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できるさ。しないだけで。
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ほんのすこし たびびとが うかべた うたがいのまなざしに おとこはあざわらった。
できないとおもってるな。それが できるんだよ。おれにはな。
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では なぜしないのです。たずねると おとこは きのふれたようにかんだかくわらった。
うたおんなが うたをやめて かなしそうに おとこをみていた。
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おまえ おれをみて いくつだとおもう。
おとこは さんじゅうをこえたくらいに みえたので たびびとは そのとおりに こたえた。
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おれは ことしで じゅうに さ。
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みみをうたがって たびびとが ききかえすと おとこは ひすてりっくに さけんだ。
じゅうに だ。まだ ほんの じゅうに で おれはこのありさまだ。
なんでも できるかわりに おれは なにかをかなえるたび としをとる。
やまいを なおし おちた はしを かけなおし ひとのねがいを かなえるたびに
きがつけば よけいに としを くっていたんだ
たった じゅうにで!さんじゅうあまりの こんなすがたに なっちまった。
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うたおんなが ないていた。なきながら おかのむこうへ さっていった。
そのとき たびびとは おんなが おとこのははであることに きづいた。
じゅうにの こどもと さんじゅうあまりの ははなら
ひざで まどろむことなど あたりまえだった。
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ほしなんか おちればいい。
おれの いのちと ひきかえに たすけてやる ぎりなんか なにもない。
しぬなら みな いっしょにしねばいい。おれも それで しぬんだ。
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そう いいながら おとこのめは ゆっくりと とじられた。
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そうですか。たびびとには それしか ことばがなかった。
もし おとこのことばが うそであっても ほんとうで あっても きっとほしは おちない。
そして うそなら まいにち そらを にらんでいる ひつようは ない。
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おとこは いのちを ためているのだ。
きたるべき そのひのために。
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なんで なくんだ。
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おとこが たびびとに たずねたが たびびとに こたえる すべはなかった。
ただ おとこを とても だいじに おもった。
いとおしいと おもった。
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わたしに できることは ありませんか。
そう たずねると おとこは すこし かんがえた。
はじめてなのだろう。ひとから たのまれることばかりで じぶんの ねがいを きかれることなど。
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ひざを かせ。ねむい。
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たびびとの ひざで ねむるおとこの おさないねがおに くっきりとおちる かげ。
どんな おもいで こんなふうになるまで ひとのねがいを きいてきたのか。
それを おもうと たびびとは かなしくて ならなかった。
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まだ じゅうにの こどもなのに。
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なんとか たすけるほうほうは ないのかと おもいめぐらしながら
ねむる おとこの くちびるに そっときすをする
ある たびびとの ぼうけんと こいの はじまり
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【ある たびびとの いちにち】
すこしずつ おとこは また としをとっているように みえた
ほしの いちを しるだけでも ちからをつかっているのだ
だるそうに たびびとの ひざに おさまりながら うたおんなの うたを きいているおとこを
たびびとは きょうも いつくしむ めで みつめていた
↓
ああ やっかいなのが きたぜ
ふいに そう おとこが なげやりに つぶやく
ふりむくと いしを てにてに おかを のぼってくる ひとびとが みえた
いやな よかんに たびびとは けわしく そちらをみやった
↓
ひとびとは しんだ めをして くちぐちに さけんだ
はやりやまいが まちを おそい さくもつは しにたえている
なんでも できるくせに なぜ おまえはなにもしないのだ
うらぎりものめ やまいを なおせ さくもつを よみがえらせろ!
↓
かおを しかめる おとこに うたおんなが かばうようにおおいかぶさる
おとこを めがけて とんでくる いしの まえに たびびとはたちはだかった
いしが ほおをかすめ ちがながれた
↓
おろかなまねは やめなさい、たみよ!
このひとが なにをしているのか わかっているのか
あなたたちを まもるために このひとは いのちを けずっているのに
↓
よせ とおとこが こごえで たびびとを とめる
ほしが おちてくることを しらせれば ますます まちは こんらんする
よけいなことを いうことはない
↓
くちびるを かんで たびびとは まちの ひとびとへ むきなおった
↓
このひとを せめても なにも かわりません ふしぎなちからには もうたよれない
ほんとうは さいしょから そんなちからに たよっては ならなかったのです
↓
わたしには かくちをさまよって てにいれた ちしきがあります
やまいなら わたしが くすりを せんじましょう
かならず なおると ほしょうは できかねますが くるしみは やわらげることができます
さくもつが しにたえたなら つよい しょくぶつの たねを さしあげましょう
↓
だから まず みずからで たちなさい
ふしぎなちからに たよるまえに だれかを せめるまえに
あなたたちのちからで!
↓
いしを てにした ひとびとは だんだんと いきおいを うしない
ひざを ついて なきだすひとびともいた
↓
やまいの こどもを だいた おんなが いざりよって たびびとに うったえた
みずからのちからなど あまりに ちいさすぎます
ふりしぼるものは もうふりしぼってしまった それでも
たすけが ひつようなのです どうか たすけて
↓
たびびとは ちからづよく うなずいた ちいさなちからも あつめれば つよいちからになります
まだ できることが あるうちは あきらめてはなりません さあ くすりを せんじましょう
そして さいごまで たたかいましょう わたしたちの ちからで
↓
みずからの ちからで…
↓
おえつしながら あつまってくる まちのひとびとに こえをかけながら ふりかえると
うたおんなの うでのなかで おとこが たびびとをみていた
ちいさく そのくちびるが ばかだな とつぶやいたのが みえたので
たびびとは すこしわらった
みつめあう しせんに たしかに なにかが かよっていた
↓
…どの くちが いえた ぎりだろう
そのよる ほんのすこし じぶんを あざけるえみで たびびとは せきこみ
くちもとからしたたる あかい ちを そっとぬぐった
↓
じぶんも なんでもできるおとこに かってなねがいをたくして やってきたというのに…
↓
なおらないといわれた ないぞうの やまいに なんとかうちかつほうほうはないかと
たびびとは せかいを さまよってきたのだった
そして なんでもできるおとこのうわさに さいごののぞみを たくして たずねてきたが
いまや たびびとの もくてきは もう じぶんのための ねがいでは なかった
↓
どのみち ほしが おちてくるなら みな しんでしまうのだから
だれが いまさら てまえがってな ねがいなど のぞめるものか
↓
おとこの ひとみを おもいだすと むねが あつく もえるようで ゆびさきが ふるえた
たった じゅうにさいのこどもが みずからの いのちを ひとのために なげだそうとしている
その とうとさに くらべれば じぶんはもう じゅうぶんに いきてきた
ひとのためでなく じぶんのためだけに いきてきた
↓
ふるえるゆびさきを つよく にぎりしめ めを とじる
ひとびとのために あのおとこのために わたしには まだ できることが ある
それは なんとしあわせなことだろうか
↓
よがあけ あさもやが たちこめるなか たびびとは めざめ たちあがった
きょうもやってくるだろう おとこにのぞみをたくした ひとびとに ちしきを あたえるために
↓
のこりすくない いのちを もやす ある たびびとと おとこの いちにちの はじまり
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【ある たびびとの いちにち】
うたおんなが しんだ
やまいに かかったことを だれにもしらせず くすりも ほしがらず
くるしそうなようすさえ みせずに ひっそりと ひとりで しんだ
↓
せめてもの たむけに そなえた たくさんの はなのなか うたおんなは ほほえんでいた
おかに たてた はかのそばで おとこは ながいこと うごかなかった
↓
なにもいわずに そばにいた たびびとの ひざで ふと おとこが つぶやいた
おまえ からだが わるいな
↓
みぬかれた と みをかたくした たびびとに おとこは わらった
↓
おれが なおしてやろうか
↓
おどろく たびびとの からだに おとこの ちからが ながれこんでくる
たえがたかった ないぞうの いたみが ひいていくのを かんじて たびびとは あせった
↓
やめて やめてくれ そんなことに ちからをつかってはいけない
ひっしで のがれようとする たびびとを おとこは ごういんに くみしいた
↓
いっただろう ほしなんか かってに おちればいい
しぬなら みな しねばいい!!
おれは もう おまえさえ いれば それでいいんだ
↓
その ことばは あまりに ざんこくで たびびとは かおを おおった
かおを おおって なきながら わらった
↓
ひどい うそだ…
↓
そんなこと おもっても いないくせに
そういうと おとこの てから ちからが ぬけた
おとこも なきわらいの かおで たびびとの かたぐちに もたれかかった
うたおんなの うたが もう きこえない せかいは
このよに たった ふたりしか いないように ひどく しずかだった
↓
ははぎみを たすけたかったのですか まにあうなら なにを すてても
たびびとが そっとたずねると おとこが くるしそうに みじろぎした
↓
おれが どんなに たすけたくても それを ははは よろこばない…
だから ひとりで しんでいったんだ その くすりで たすかる だれかのために
いたいのも くるしいのも みせずに
↓
たびびとは ほほえんだ
↓
なら わたしも おなじです
…おなじに してください
↓
おとこが こえもなく なくのを だきしめて たびびとは よぞらを みあげる
ないぞうの いたみは やわらいでいて それを つみのように かんじながら
もえながら おちてくる ほしを おもった
↓
もう きくことのできない うたおんなの うたが みみの おくで かすかに ながれていた
↓
ある たびびとと おとこと ねむれぬ よるの はじまり
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【ある たびびとの いちにち】
おちてくるほしは もう めでみえるほどに ちかづいていて おとこは ますますおいていった
かおに しわが めだつのを うっとうしがる おとこに すてきですよ と たびびとはわらった
たびびとの いのちも つきかけていて もう おかから うごくことすら できなかったので
ばか とぶっきらぼうに こたえる おとこの こえも もう あまり きこえなかったが
それでも きみょうに たびびとは しあわせだった
↓
おかの ふもとで やまいに おかされた ひとびとは すくなくなりつつあった
さくもつも ほそぼそと みのりはじめ むらは よみがえっていくようだった
↓
あとは おわりを まつだけだった
↓
くるぞ
あるひ おとこが ちいさく つぶやいた
くちびるの うごきで たびびとは それを さっした
そのときが きたのだ
たびびとは うごかない からだを おして たちあがろうとした
ひとりで おかのうえに むかおうとする おとこに ひっしで すがる
↓
さいごまで あなたの そばに いたいのです
どんな おわりを むかえたとしても あなたの そばに
↓
こえに ならない こえで うったえる たびびとを
おとこは あきれたように わらって だきあげた
おまえは ほんとに ばかだな
↓
ばかで かまいません たびびとは わらった
その かみを おとこが くしゃくしゃと なでた
↓
そらが みわたせる おかの いちばん うえの たいぼくに たびびとを よりかからせて
おとこは せまりくる ほしに むかって うでを のばした
その からだから ひかりのように あふれでる ちからが たびびとには みえた
↓
みるまに おとこの しわがふえ せすじが まがっていく
おとこから ぼうだいなちからが あふれているのが わかる
その ちからが まばゆく またたいたとき
すこし おくれて このよの おわりのような すさまじい おとと
しょうげきが ちじょうを かけぬけた
↓
つんざくような おとと かぜが たいぼくを おおきく ゆらす
きに すがって しょうげきに たえた たびびとが めを こらした そのさきに
しんじられない こうけいが ひろがっていた
↓
おかの うえから みえるかぎりの ほしぞらの なかを
いくすじも いくすじも よぞら いっぱいに ほしが ながれていた
まるで ふりしきる ぎんいろの あめのように うつくしい こを えがいて
それは ゆめのような けしきだった
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くだけた ほしが もえおちているんだ
↓
かみが しらがだらけになり しわだらけに なってはいても まだ
しっかりとしたくちょうで おとこが いった
↓
もう ちじょうに おちてくる ことはない
↓
ゆめみるようなひとみで たびびとは きに よりかかったまま そらをみていた
せかいは なにごともなかったかのように しずかで そらばかりが うつくしく
おとこが せかいを すくったことなど だれも しることは なかった
けれど それは じぶんさえ しっていれば いいことだと たびびとには わかっていた
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では あなたは まだ いきられるのですね
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たえかけた いきのしたから たびびとが ほほえんで ささやくと
おとこは ふりかえって こたえるように めで わらった
なにげないような しぐさで かおを よせ たびびとの くちびるに くちびるを おしあてた
↓
ほほえんだ たびびとの かおが あおざめる
↓
くちびるから ながれこんでくる おとこの ちからが どんどん いたみを けしていく
いつかの よるとは まったくちがう それは ほんきの ちからで
めを みひらいて おとこを みると おとこは みるみるうちに おいていった
↓
おさえつける ちからが あまりに つよくて のがれることもできずに たびびとは
ふりこぼれるように なみだを ながして くびを ふろうとしたが おとこは ゆるさなかった
そうして くちびるから さいごの ちからが ながれこんだとき
おとこの からだは ふしぎな ひかりに つつまれて とけるように きえようとしていた
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まぶしいひかりに めを やかれ たびびとが なきながら てをのばした
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いっただろう
↓
ひかりの なかで おとこの くちびるが かすかに うごいて まんぞくそうに わらった
いたずらに せいこうした こどものような えがおで わらった
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おれは おまえさえ いきていれば それで いい
↓
のどがさけるほどに おとこの なを さけんだ その こえは とどいたのだろうか
めのくらむような まばゆい ひかりが いっぱいにひろがり たびびとは かおを おおった
↓
どれくらい たったのだろう
いしきを とりもどした たびびとは ながれる なみだを ぬぐいもせず
しょうげきで えぐられた つちの なかを ひざで すすんだ
↓
おとこの ふくが そのままに おちている
おとこの すがたは どこにもなかった
↓
おそろしいほどの せいじゃくの なかで ふるえながら
たびびとは その ふくに てをのばした
↓
そのとき ばちがいに おおきな なきごえを たびびとは きいた
↓
ふくの なかで ちいさな はっぱのような てあしが じたばたと もがいている
あわてて ふくを さぐると うまれたばかりのような あかごが かおを だした
まっかなかおで はりさけんばかりに せいいっぱいのなきごえを あげて
どんな けがれも くるしみも しらないような すがたで そこにいた
↓
ああ
↓
ひとこと さけんで たびびとは なみだにぬれたかおを あかごに よせた
みたこともない かみに いのりを ささげた
↓
どうか これからの あなたには たくさんの しあわせを
かかえきれないほどの しあわせと あいを
そう ねがいを こめて ふしぎそうに なきやんだ くちびるに くちびるを よせた
↓
ある せかいの かたすみの だれも しらない あたらしい はじまりのひ
【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15