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□ 2 / 301-303 □
【あるこうはいのいちにち】

ぼくはまどのそとをぼんやりみおろす
めせんのさきにはおなじいいんかいのせんぱい

としょいいんかいでいつもあわせるかお
でもかれをみつけると、ついついめでおってしまう

せんぱいはあまりしゃべらない
せんぱいはいつもほんをよんでいる
いいんかいちゅうだってかまわずにほんをよんでいる
「おもしろいですか?」とひかえめにきくと
せんぱいはぼくをちょっとだけみて、またすぐほんにしゅうちゅうした

しゃべらないけどぼくはせんぱいのいうことがわかる
ぼくをむししたわけではないけど、ぼくはちょっとほんにしっとした

きょうもきょうとてほんのせいり
へんきゃくのほんをかたづけていると、ちらりとみどりいろのひょうしがみえた
このあいだせんぱいがよんでいたほんだ

なにげなくひらいてみる
せんぱい、いつもこんなほんをよんでいたんだ
これにねっちゅうしていたせんぱいのせなかをおもいだす
おもしろくない、そうつぶやいたときぼくはひとかげにきづく

せんぱいがぼくをみおろしている
いがいと、かおが、ちかい
あわあわとしているぼくをよそに、せんぱいはぼくのもっているほんをてにとる
「……おもしろく、なかったか?」
「あ、そのほんがおもしろくないわけじゃなく……」
いえない。ぜったいいえません
せんぱいがそのほんにあいちゃくするのがおもしろくないだなんて

せんぱいはほんのひょうしをちらりとみて、たなにもどした
そのままなにもいわずにろびーのほうへもどっていく
しろとくろのせびょうしにまざったみどりいろは、ぼくのかなしみのいろ

あとごふんでとしょしつはへいかん
かしだしのらっしゅもすぎ、ぼくとせんぱいだけがのこってる
もうかぎをしめようか、とせんぱいがかうんたーからたちあがる

「あっ、あの」
ひっしでふりしぼったこえはうらがえってそとにでた
ああ、かっこわるい
へんなかおをしたせんぱいに、ぼくはほんをさしだす
「これっ、かりていっていいですか」

さしだしたほんは、みどりいろのひょうし
ますますへんなかおをしたせんぱいにぼくのかおがあつくなる
「さっきのおもしろくないってのは、ぼくのなかのもんだいなんです
このほんはぼくよんでないんでおもしろいかなんて」
そこまででぼくのこえはあたまのおもさにとぎれる
せんぱいのおおきなて。ぼくのあたまをわしゃわしゃする
「……きっと、おもしろいとおもうんで」
あなたがおもしろいといったほんだからということばはしょうりゃく
みあげるとせんぱいのちょっとわらったかおがみえた

みどりいろのひょうしはせんぱいのいろ
こんどはせんぱいがほんにしっとするといいとおもったあるこうはいのいちにち

□ 2 / 331-332 □
【あるこうはいのいちにちに】

へんきゃくびをいちにちすぎたとしょしつのほん
おもしろかったです、としたをむいていう
せんぱいのかおはみえない
としょかーどのしょりをするせんぱいのて
おおきくて、ほねっぽい
「……つぎからは」
きをつけて、ということばはしょうりゃくされている

がんばってよんだけどどうしてもよみきれなかった
かえさなきゃいけなかったけどさいごまでよみたかった
だって、ほんとうにおもしろかったから
「おもしろ、かったです」
ちょっとちからをこめていう
へんきゃくびをすぎてごめんなさい
いいわけはしません。おとこらしくいたいから

かうんたーからせんぱいのてがきえる
ぼくはなぜだかそれがちょっとさみしくかんじた
かんじた、ちょくご
がしっとあたまをつかまれてそのままわしわしとかみのけをかきまぜられる
わ、なにするんですか
「おもしろかったなら、いい」
まだわしわししながらまっすぐなめでいう
どきん
どきん、どきん

「すきです」

ふいにくちをついてでたことば

うえのにばんごうつけわすれ。うつ。

あんまりせんぱいのめがまっすぐだから
じぶんのまっすぐなかんじょうを
「……すき?」
あ、あああ、ああああああくぁwせdrftgyふじこlp
「ああの、ですね、そのほんをすすすきに」
しこうはぐるぐるまわる
いうつもりなんてなかったんですどうかごまかされてください
「……うん、わたしもすきだ」
せんぱいはあっさりとごまかされてくれた
ほっとむねをなでおろす
ちょっとわらったせんぱいに、まだすこしどきどきする
おもわずそらしためにうつる、せんぱいのて
さっきまでぼくのてのなかにあった、みどりいろのひょうし

きょうのとしょとうばんはきっとせんぱいをまともにみられない
へんきゃくのほんをかたづけながらひとつためいきをつく
いきおいとはいえ、ごまかしたとはいえ
「すきです」なんて
もういちどためいきをつくとどうじに、にょきっとしかいにせんぱいのてがうつる
「つづき」
そっけなくそういうとかうんたーにもどっていく
へんきゃくぼんのうえにおかれた、みどりいろのひょうし
ああ、すきだといったから

たしかにこのほんもすきだけど、もっとすきなのはあなたです
せんぱいのいった「すき」のほんとうのいみをまだしらない、ぼくのほうかご

□ 2 / 414-416 □
【あるこうはいのいちにちさん】

じかんがかわるのとおなじように、かわっていくひょうし
みどりいろがえんじいろに、こんいろ、もえぎいろに
「せんぱい、これぼくのおすすめです」
かうんたーにのせた、うすいぶんこぼん

たんぺんで、すぐによみおわってしまうようなものだけど
ぼくはこのものがたりがいちばんすきだった
つかみどころがないけど、いっぽんまっすぐなしんのようなものがあるはなしだった
しょうじきいうと、よんだときせんぱいのようだとおもいました
せんぱいのめがぼくをみつめる
あ、また
どきん、どきん
こどうがはやくなる
「―― 」
「え?」
しんぞうのおとにかくれて、せんぱいのこえがきこえなかった
すこし、ざんねん

せんぱいのこえはちいさい
ちいさいうえに、ひくい
でも、とてもここちよくて、ぼくはそのこえがすきだった
「なんていったんですか?」
「……いや」
よんでみるな、とせんぱいはかしだしかーどになまえをかく
おおきなてからながれるようにぺんをはしらせる
じ、きれいだな
そういえばてさきもきようだもんな
「……どうした?」
そのこえにはっとする
いつのまにかせんぱいのてをぎょうししてたみたいだ
「いや、じが…きれいだなとおもって……」
それだけいってそそくさとかうんたーをはなれる
このままだとまえみたいにまた、こくはくしてしまいそうだったから

「はぁ」
ぼくはとしょしつのすみっこでちいさくためいきをはく
なんかしんぞう、ばくはつしそう
かうんたーにすわるせんぱいはずいぶんとおいのに、まだどきどきいってる
すきなんて、いえないよなあ
せんぱいがいないのをたしかめて、こっそり「すきです」なんてつぶやいてみる
もういっかい。「すきです」
せんぱいのながれるようなじが、ゆびが、ぜんぶが

そういえば
「さっきせんぱいなんていってたんだろう」
「……すきだ、といった」
「ああ、すき……」
……
…………
………………すき?
ゆっくり、ぎこちなくうしろをふりむく
くびはろぼっとみたいにぎしぎしいってる
ぼくのはいごには
せんぱいが、いた

かげになっていてかおはみえない
あ、ちょっとわらっているのかな?
「……さっきのほん、よんだことあるんですか?」
ぼくのわたしたほんがすきだ、ということにしたかった
そう、このあいだのぼくみたいに
「そんなわけがないだろう。おまえじゃあるまいし」
おまえのことがすきなんだ、とせんぱいははっきりそういった
「ぼくもあのときそういったいみじゃなかったです
たしかにあのほんもすきだけど、ぼくは」
せんぱいはいつものようにぼくのあたまをわしわしなでた


ぼくがせんぱいをすきで、せんぱいがぼくをすきってこと
いまからはじまる、ぼくとせんぱいのこれから

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