+ ある うえきしょくにんのむすこ と おやしきのぼっちゃん の いちにち +

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□ 1.5 / 169-172 □
【ある うえきしょくにんの むすこのいちにち】

せんぞくというほど でもないけど うちのおやじがずっとかよってる
おやしき
おれが ついてくのはさん……よんどめ?
はめこみの まどぎわ やさしそうなやさしそうな ほんのすこしだけ
きれいな おないどしくらいのこが いつもすわってる

おやじにきいたら ひとつとしうえだって
あんまりそうはみえないなー と しょうじきにいったらなぐられた
とてもあたまがいいんだって
ああ そっちは ほんとにそんなかんじ

きょうは ぱじゃまですか めずらしい
「ごびょうき です?」
「だらだらと ねているんです」
かたくるしいけど なんかにあうので なんかつられるです
さいしょのころは たしかにおかしかったですよ
おやじに はらかかえてわらわれたですよ

くすくす
「まだ すこしへんです」
「これはわざとだから いいんです」
あなたがわらうのを ちょっとみたかったからいいんです

まどごしなんだけどね
そとに でてきませんかときいたら くびをよこにふる
どうしてですかと きいても こたえてくれない

「やっぱり からだがよわいんじゃないの?」
「ふつうに がっこうかよってるみたいだけどなぁ」
おやじにきいても そんなへんじ
ちなみに このへんのべつにしりつでもない しょうがっこう
おれの かよっているがっこうとは となり
うちのがっこと かわらないなら けっこう たいいくとかおおいよな

おまえがきらわれてんじゃないのか と からかわれたけど
おやじが くるときはいつも そうらしいので ほんきではないみたい
でも はめこみのまどのむこう いつもほんやり すわってる
「なんでとか かんがえたとなかったなぁ」
そんなふうにも いってた

うん どこにいても なにもしてなくても あんまりへんでないね
いちおう やくにもたたない てつだいをおえて もどってくると めがあう
にことわらう すこぅし くびがかしげられる
ほっとする

「おひさま きもちいいですよ」
「ここでもあたれますから」
でてこいと きょうはいってないのにね
まえにきたときと まえのまえにきたときには いったけど
そのまえの ときは まだ ことばは かわさなかったっけ

「おとうさんの おてつだい えらいですね」
「おっきいおうち だけですよー」
それに なじみのところでないと こどもにいいかおはしないしね
「おとうさんといえば あったこと ないですが」
「いないですし」
いない?

「しんでしまって いないそうです」
うわあああああああ
「ごめんなさいごめんなさいごめん
「いいですよ ふつうはいるものですし いないともいってなかったですし」
「 えと さみしくない ですか」
「はじめから いなかったから よくわかんないんです」

またわらってる
「おちゃ いれますね おとうさんにも」
こういうふうに いえにはいれて くれるのにね

なんか いつも おとなしいなあと かえりみち おやじにいわれる
みょうに せっきょくてきだとも
うん ふだんはなかなか てつだわない
このおやしきにだって ひきずってこられた

「おとうさん いないって」
「ああ あのうちは あにうえが しっかりしてるから すさんだかんじは
しないよな」
きょうだいそろって かんしんなことだと それっぽくうなずいている
さまになってないけど

なんだか えらいんだなとか もっともっとはなしたいなとおもって
それがなんでなのか じぶんでも ちっとも わかってない
ある うえきしょくにんの はるすこしすぎたひの いちにち

□ 1.5 / 216-218 □
【ある うそつきなしょうねんの いちにち】

やすみのひは いちにち ぼーっとまどのそとを みる
いけがきが いちぶぶんこわれていて そこから なかがみえる
わたしからは みえないけど
きんじょでも おおきなおやしきと いわれていて こうきしんで
とおりすがりに ながめていくひとがいることを しっている

だから ぼくはここに いちにち ほんをよむ
「なんででしょうね?」とも かせいふさんにきかれたけど わからない

こんこん
「そとにでませんか?」
いいです わたしはここにいます
にわしさんの むすこさんです
やさしいかおしてますね にわしさん すこしおおきくて こわかったけど

ときどき こえ かけてくれます
でも そとにでたら あなたはわたしに きょうみなどなくなるのでしょう?
しっているので つまらない にんげんなので
だからここにいます
おもいだしてくれるのが じつはうれしいことに ざいあくかんはあるけれど

「ていねいなことばを つかいなさいと あににいわれたので」
とわたしは いいわけをしましたが
したしいひとと そうでないひととの ことばのつかいわけが わからないだです

いえにしごとをしにきてくれるひとには いつもていねいに といわれたけど
きっと このおないどしくらいの このこは それにはいらないんだろうな
いけがきのそとのひとは とおりすがるばかり
わたしの なかみになど なんのきょうみもないだろうから らくなのに

どうせ がっこういっても ういてますよ
わたしという よびかたが どれだけおかしいか わからなくて
いちじは ちえねつまで だしたっけ
おじいさまが そうなさいと わたしにいったからだけど
あのひとは なにか わたしにうらみでもあったんでしょうかね

……まあ わたしみたいに うとかっただけだろうな
いでんて こわいよね
べつに おそわってもいないぶぶんなのに
いまでは ぼくとも いいますよ

あにさまは からだがよわかったので ほんとうに いじめられてたらしくて
わたしにも ずいぶんしんぱいしてくれたけど
そのへんはあまり しんぱいが ないのだけどな
あしもはやいし たかくとべる
あたまがよれけば ばかにはされない

でも たのしくないけどね
せわやく ばっかりにやってて くちうるさい おんなのこ なだめて
つまらない
わたしが あばれたら あんなていどですまないのに なんて
すこしひどいこと かんがえてみたり
まんがなんか よみませんよ というかおをしていなくては
ばかなはなしは せんせいのてまえ ばかにしたかおをしなくては

うそばっかり

こんこんこん
「……のはなが さきました」
とってきて くれたんですか?
「すぐです みにいってあげてください」
 わたしは こわい
  このひとが わたしに なんにも きたいしていなければ まだ

くちを とじていれば すかれなくても きらわれることは ……ないし
「なんの はなですか」
「おやじが うえたはなですよ きょねん おれいなかったけど」
「だから なんの

「いいですから どこにはえているか どんなはななのか
しらないと はなもきも なまえなんて おぼえられませんから」
「 はな きょうみ ないです」
「おれも べんきょう だいきらいです」
「 かんけい あり ますか? そのこと」

「ありますあります はなは わりとだれでもきれいと おもいます
べんきょうは やくにたつみたいですが
おれ あんまりさきのこと かんがえるの にがてです」
「 はい」
「でも はなは みて すぐにわかるので だいじょうぶです
しろい おおきなはなです」

それでも だまってしまう わたしに
「ごめんなさい」
と あのこは いいました

もう こえなんてかけてくれないだろうなと おもった
ある うそつきな しょうねんの ゆうぐれどき

□ 1.5 / 293-297 □
【ある うえきしょくにんのむすこの おみまいの いちにち】

にちようのあさ いきなりえりくびつかまれて
いつもいじょうのらんざつさで けいとらっくの にだいにのせられる
なんだよ てつだいは どようの やくそくなのに
「いいからついてこい こうかいするぞ」
と どすのきいたこえ
うちのおやじは ちかってかたぎの ひとなんだけどね
(だいくのなかとかには しょうじきあやしい ひといるけど)

ほいっ とおろされたのは おやしきのまえ
なななな、なんでと ふりかえると みまいにいけと げんめいくだる
いやだなんてことは ちっともないけれど!
とにかく じじょうがわからない
「おとうとさんがな ねてられるということなんだよ」
びょうきかなにか なのだろうか
「うん だからな とにかくいちどようす みてきてくれ」

うちと このおやしきとのけいやくは ひとつのきせつで だいたいさんかい
いっしゅうかんおきに どようになったのは たぶんおれのせい
このはるさんかい もうすぎて しばらくあえないとおもったのに

おやじ……

しょうじき いったいなにを かんがえているんだ

「えー おっきいおうちねー」
「あじさいやしき ってよばれてるらしいよ」
おねえさんがふたり だいがくせいくらいかな
あ いけがきこわれてる おやじなにしてるんだ
いくらすごくひろいからって なかを のぞきこむのはと はらはらした

あのひとの いつもいるまどは たぶんちかくにある
「なんか きれいなこがね たまにほんよんでる」
「やだー のぞき?」
「とおりすがりにだもの じろじろみたりはしてないよ とおいしさ」
どなりそうになって そんなことできないと がまんした
このうちのひとにまで めいわくかける
いけがき なおしてもらえばいいんだ おれ まだできないけど

いらいらしてたら『ごめんね』というかんじで おねえさんのかたわれが
てをあわせて こっちをみた
でもおれ ひとのこと いえるのかな……いってないけどさ

かよいのおてつだいさんに とりついでもらったら あらあら とわらわれた
「かわいい うさぎね」
みにうえきばちを かりこんで つくったうさぎ
おやじがれんしゅうしろ とわたしてくれたこれを なぜこんなかたちにして
しまったのかは じぶん はかりしれない
おやじに かってにもたせられた
でもこれ びみょうにぶさいくだよ われながら かわいいけどさ

「あれ どうしたの? おとうさんは」
「あ の おみまい……です」
「え わたし なんともないよ」
「でも ねまき」
「これ? はだあれというか あせもができてしまって このかっこう」
てんねんそざいで なきゃ いけないんだってさ

「まえにきた ときも そういえば」
「はだだけよわくてねー あにさまが なおりおそいから しんぱいかじょうで
ちょっとこまっていたりする」
きょう なんだか くちょうちがう どきどき

ぺろり あかいしたをだす
「びょうじゃく じゃないよ」
きたいうらぎって ごめんね なんてそんないいかた
「あなたが くるしいの なんできたいするんですか」
「……」
さきをあるいて いたのに すたすたもどってくる
ぶに

「い、いたいれす」
「そうぞういじょうに よごれていた ぼくへの じこけんおかな」
いや だったらおれのほっぺたおさなくても……いみわかんないし
「なんで ぼくとわたしが まざるんですか?」
「まざってた?」
じかくないのか なんでかな いやいいんだけど
ふりまわされているのかな おれ なんかそれがうれしいのが こわいけど

てぇ ほそいなー べつにやわらかくはないけど
ていうか ちゃんとくってるのかと おもうくらいほそい
「はい あがってあがって」
え?
ぎゃー いつのまにか じしつ……
そんなつもりは けっしてといおうとして そっちのがふしぜんと きづく

そりゃそうだよな どうせいのこどもどうしだもの へやとおされるわな
おれのつくった みにうえきばちを すごくよろこんでくれてる
さいしょはおみまい うけとることできないって いってたけど
「うさぎだー」
ねずみにも にてますよね ちょっと
なんでか みたにんげん みんなうさぎだと だんげんするけど

「わたしみたい」
「え?」
「さみしいと しんでしまうのだって」

きょう へん

このひと せんはほそいけど そとにはでないけど よわいひとじゃない
めをみれば わかる えがおみれば だれかによりかかるだけでないとわかる

「だいじょうぶ ですか?」
「なにが」
「たいちょう ほんとに わるいのでは」
「ちがうよ」
かみのけ たれる うつむいていると きづいたのが すこしあと
なんか みみきられてから あんまり みじかくしなくなったんだって

「ごめんね ごめんなさい」
ぱっと このひとらしくないうごきで かおあがる
よくみないと わからないくらい かすかにあかに そまったほほ
「うさぎ うれしいです ありがとう」
ああ なんだか もどった
……というより まるできりかわったみたい

「きょうも おとうさん おしごとですか?」
「あ はい どにちは だいたいやくそくはいりますね」
「おやすみなくて たいへんですね」
「いえいえ じえいですから それに うんどうかいとか そういうところで
きんじょのひとと しりあうのも いいせんでんになりますし」
がっこうきても さけかっくらって さらりーまんなんかのふけいと
おたがいたいへんですなと ぐち こぼしあってるくらいだし

「あそびに いけないでしょう? ゆうえんちとか」
「うん いわれてみれば そうですね」
べつに それがいいことだともおもえないのは つよがっているのかな?
「でも かわりに おとうさんのしごと てつだえるのだから……」
「さして やくにもたちませんよー」
ほほえみ いたいたしいと おもいながらも そのりゆうとか さっぱりわからない
だいたいこれは いったいなんのはなしなんだろうと
かんはよいが ひとのこころのやみとか さっぱりわかってない
ある うえきしょくにんのむすこの いまはまだひるさがり

「あ おちゃおいしいです みどりでびっくりしましたが」

□ 1.5 / 337-341 □
【ある ひねくれもののしょうねんの いちにち】

なんだかめずらしいさかなで あとぴー?
あれるぎーにひっかかった きゅうしょくだったんで ふいうち
べつにたいしたことはなかったけど しっしんがぜんしんにでて はだぼろぼろ
よる かがみでみたら しょうじきこわかった
かおとかは よくじつひいたけど

わたしよりよわい あにさまも きゅうきょ ぱっちてすと はんのうなし
おかあさんのえいきょうかもしれませんね と
おいしゃさまがいったら かってに あにさま おこってた
せめてもいいことと よくないことがあるでしょう いくらきらいでも

あかいしっしんを かきむしっていたら ないてとめられる
ほかのひとに みせたら ぜったいひかれるよ あにさま
めだつところだけ くすりをぬって あとはほうっておく くすりきらいだし
あんまり あつくもさむくもなくて よかった
さすがに そでとかえりとか かすれるところ あとがのこりそう

くすくす わらってたら かうんせらぁの おにいさんに おこられる
「あなたはすこし おにいさんをからかう くせがあるね」
「くすりが いやなほうを ぶんせきしてくださいな」
だって そんなのじかくしているし

あとねと つけくわえる
「あなたのせんせい なきながらあやまってましたよ きづかなかったって」
「いわなければ しょうがないでしょう?」
くらすめいとの おんなのこに ほけんしつにひきずっていかれたけどさ
かのじょにきづかれたのは まあ しょうがない

いじっぱりなかま だしね
わたしはうそつきな だけだけどさ
「ああ でも くちのなかに ぶつぶつできたのは きもちわるかった」
「さいなんでしたよね」
どぽどぽとにほんちゃ いれてくれる

かうんせらぁの しかくをもってても なんだかざつようがかりみたい
そんなふうに いったら なかれてしまった ごめんなさい
はだいたくない ぱじゃま かいたしておきましたよ とかえっていった
だから ざつようがかりっていわれるのにと おもうんだけどな
けいひで おとしてますよと ずれたへんじ
いいひとだよね

で ひまー
ごろごろごろ あにさまは おじうえにつれられて どっかにいってるし
♪ きんこーん
「はいはい」
ぱたぱたと かせいふさんが いんたーほんにはしる
すくなくとも きこえてないとおもうけどな
だれがきたのだろう めずらしいなと おもってたら わたしのきゃくだった

あにさまのせいかな とふたりぶんの ぐりーんてぃーをもらう
あのひとは わたしのともだちを かねでかうようなことをまえもした
「どう?」
と かせいふさんにきいたら わらわれた
「でんわは してられましたよ うえきやさんに」
わたしに あいにこいとね わたしにきをつかえとね ばかみたい

あいてに かくすきがまったくなくて そのきがなくても もれきこえたのは
「わかりました! うちのは きはききませんが ちからもからだもつよい
おんなでもなければ いつでもおかししましょう なに おたがいさまですよ!」
なんて ないようなんだそうな
「ありゃりゃ そんなこといわれてたの」
「もう そうじゃないとも いいにくくて でんわきって そのよこで
おちこんでられましたね」
めにうかぶ やっぱり にわしさん いいなぁ

なんだか とおしたへやで おちつかないみたい
なんていうのか みじろぎもしないね しせんさだまりすぎててこわいよ?
「はい おちゃ」
「あ すみません」
それから……
なんだかすこし へんなはなしをしたような
あんまり おもいだしたくもない

わたしっていつもこう しゃべりすぎるか だまりすぎる
うまくひととのきょりが つかめない
こんなはなし したいんじゃないのに もっともうすこし
「あ おちゃおいしいです みどりでびっくりしましたが」
え びっくり?
「あおじる かと」
「ああ たしかににてます けども」
おきゃくにだす なんてはっそう どこからでてくるのかなー
「いえいえ」となんだかまじめなかお

「うちのははが」
「……なぜ そんなことに」
「まったくです」

なんでも おいしいあおじるを たくさんかったそうな
でも いくらおいしくても かぞくははやばや あきてしまい
おかあさんも いじになってのみつづけて ついに
「ちょうないかいちょうさんに だしちゃったんですよね」
もとから したしかったこともあり わらいばなしで すんだらしいのだけど
「なんで あんなあやしいがいけんなのに のむかなー とおもってたんですよ
そしたら こういうみための のみものあったんですね」

おかしーよぅ ちょっとくるしい
「みょうな はなしきかせてごめんなさい」
「たのしいです たのしいっていっても しつれいじゃないですよね」
「だいじょうぶです おれらもわらいましたから」
いいなぁ そういうの
うちで そんなはなし あったっけ ただわらえるような

「んー そういうかんじじゃないですよ おにいさんもあなたも じょうひんで」
あー ≪こっとうまにあすいぜんの わふうびしょうねんきょうだい≫と
いわれたっけなどと いっしゅんふてくされたが
そんな うすよごれきったはなしを かれがしってるわけがない

いやだな

あれるぎーの はなしだけでなくて はなせないこと けっこうあるね

「うさぎ」
「え?」
「やっぱり なんだかにてますね」
どういういみだろう
「あの……すこしだけ」

てが ゆびが のびてきて みみのすぐそば
でも ふれるかふれないかで すうっとそれた
「ときどき みみをたたんでいるのが みえますよ」
そんなふうに みえるんだろうか わたしは だましているつもりなのに
でも あんまりしょっくでも なかった

かれが つよくてたのしくてやさしいかていで そだったからだろうか
わたしみたいな ひねくれものでも
ことばと ふれなかったゆびが うれしかった
ただそれだけの なにもない いちにち

□ 1.5 / 402-406 □
【あるうえきしょくにんのむすこの たぶん ちょっとだけでーと のいちにち】

おやじに
「どように ばいとでもしねぇか」ときさくにいわれる
むしろ よくそんなことば しってるよな
わたされたでんわ こーどれすほんにしたのは かーさんだ

それがきのう……おとといのはなし
「あついので ぼうしをかぶれって」
「にあいますよ」
「せめてやきゅうぼう」
あー それもかわいいよなぁ ぜったい
「ひとのはなし きいてます?」

えきで まちあわせ おれはじてんしゃ
このひとは なんていうか じどうしゃでくるし
あ あじさいやしきの りむじんだー とこどもがさわいだ
ちなみに りむじんではないらしいんだが よくわからん
「びょういんに ちゅうしゃじょうないんですよ」
「そりゃ ふべんじゃないですか」
「こじんびょういんなので えきからいちおう そうげいばす ありますが」

で なんでおれが いっしょにいくんだろ
「でんわ おにいさん なにいってんだかわかんなくて」
「あにのいうこと まにうけちゃいけませんよ」
え そんな
「なかすごくいいってききますよ」
「なかいいですよ」
「む、むずかしいものですね」

だまっちゃったな
すこし ひくいところにある まえがみが ふわ とうかぶ
「あには すこしかんがえすぎるんですよ」
ああ まだこたえをかんがえていたのか いみはわからないけれど
でんしゃがやってきたから かみのけがゆらいだのか
なんだか おれ こまかいこと どうでもよくなってるかんじ

きゅ とそでをつかまれた
「でんしゃ きらいで」
「おれも あんまりのったことないです よ」
すきとかいいにくいじゃないか がきっぽくて だってただでさえ……

なんていうのか おちこむじゃないか あっはっは

がたん

……かお あおい
「なんか あったんですか」
「まえにすこしね」
ああ はなしてはくれないんだろうなと なんだかおもう

ああああ でも どっかつかんでいいんだろうか まずいんじゃないだろうか
「そこそここんでるのに なにおどってるの」
「おおお、おどってますか おれ」
「かなり」
なんでおれ こんな みっともないんだろう
くーるってほどじゃないけど ふだんはもうすこし おちついてるのになー

「あとなんえき ですか」
すこしすいて どあのそば てすりのちかくにいけるようになった
ぼうしじゃまと はずしてしまう ひにやけますよ
「わたしは あんまり ひにやけないよ」
「え だって そんなにしろいのに」
「ひなたにいつもいるもの まどごしでも でもぜんぜん」

まどのそとのけしき どんどんながれるけど そとにめもくれない
「なんえきだっけ……」
「ええええ なにえきですかっ?」
「わすれた」
「そんなわけないでしょう あ そうだ びょういんのしんさつけん」
それでじゅうしょを みればたぶん

「いいよ あきた べつになんのいじょうもないし」
そういえば どこがわるいかもろくにしらないんだ
「だめですよ やくそく したんでしょう?」
「あ おりよ」
そのためのばいとかー?!

ぽん とほんとにおもいつきで おりてしまった
しょうがなくて あとをおう
なんかこう このひとって どっかでいきなりせいかくいれかわるんだよな

「あにさまがさー」
「はい」

ちょっとふりかえって にがわらい
「いつもかよってたんだ びょういん」
「そうなんですか?」
「うん よわくてさ いろいろ いのちにかかわるようなのはないけど」
「かわいそうですね」
さあ となんだかわらう

「わたしはどっこも わるくないんだけどね」
「え ひふは?」
「ものおぼえがよいねぇ あれはさんざんほうってたけど もうかんち」
みる? ときかれてしまったので ちからいっぱい くびをよこにふる

「べつにぐろくないのに ひどいんだ」
「どどど、どうして くちょうとか かわるんですか」
ていうか たいど おもにたいど!
「そっちこそ なんでどもるんだい?」
……なんででしょう おれもぜひしりたいんですが
ていうか おれに しろいぼうしかぶせないでください にあいません

「あにさまは わたしがあにさまよりよわいと しんじたい」
……
だから?
だからびょういんにいけと?
のろのろ おれ かおをあげる
「かえり ましょうか」
あたまがよわいので こまかいところはわかりませんけど
ぷらいどは わかります おとこの ばかみたいな
でも だからって

「いいんです ごめんなさい えき おもいだしました」
「そう ですか」
「かえりに どこかよりましょう」
ああ おれ なんもいう けんりないですね
こんなかおして びょうきでもないのに びょうきだといわれてる ひとなのに
おれ こんなどうしていいのか わからんようなかおして

「あまいもの すきですか?」
「はい」
「よかった」
わらってると すこしおとなびたつめたさもきえて ほんとうにきれいだなと
じつはほとんど あまいものも たべれないのに
いきおいでこたえてしまう ちょっと もうもくがはいりかけている
ある うえきしょくにんの むすこの すこしだけ でーとの いちにち

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