あるふぁんたじー・じだいげきなひとびと の いちにち 3

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17-18 34-36 37-43 77

□ 17-18 □
【ある ほさかんの いちにち】

であったのは せんじょうだった。
あのひとは あるくにのしょうぐん、
わたしは じゃくしょうこくのしょうこうだった。
じょうさいとしをまもる たたかいにやぶれ、
しょけいをまつのみだった わたしのもとを、
あるひ、あのひとはおとずれた。

わたしにしたがい、いきるきはないか?
とあのひとはいった。
それが いきるためのじょうけんならばしたがいましょう。
ただし、いつかわたしはあなたをころします。
だんげんした わたしを しんしなひょうじょうでみつめ、
かまわない、とうなずいてみせた あのひと。
ひとみのかげにみえた かなしげないろが
いとわしくて、おもわずかおをそむけたのを
いまでもつよくおぼえている。

あのひとの ほさをつとめるようになって じゅうすうねんご、
しのやまいが くにをおそった。
あのひとも それにたおれたときき、あわてて
わたしは あのひとのへやへと かけつけた。
いきをなかばきらしながら べっどの かたわらにたったわたしに、
あのひとはあたまをさげた。
…ずいぶんとまたせてしまったな。
いま、きみとのやくそくをはたそう。

そう おだやかにかたることばが わたしのなかへとしみとおり、
いみにへんかんされるとともに、
わたしは あのひとのえりくびをつかみながら
おもわずどなっていた。
ふざけないでくれ!
しつないに ひびきわたるおおごえ。
からだをむりやり ちゅうとはんぱにおこされ
よこをむいて すうどせきこむと あのひとはみずからのてを、
えりくびをつかむ わたしのてにおしあてた。
あついてのひら。ほそくなったゆび。
おどろいて、かれのからだを あわててよこたえる。
そうしながら しんていから わきだしてきたおもいのまま、わたしはさけんだ。

わたしは あのときのわたしではない。
ときが あのときかんじた ふくしゅうしんをうすめ、
かわりに そんけいのねんをわたしにうめこんだ。
このような ちゅうとはんぱなおもいのまま あなたをあやめても、
そのことに なんのいみがありましょうか?
いまでもあなたのちを、にくを、そのねつを
ほっしているのはじじつなれども、
それらがもつ いみが むかしとちがう。
わたしのこえに、あなたは またあたまをさげた。

すまない。
のばされたてが、かたわらにたつ わたしのてにのばされた。
いのちがからだからぬけていくような ねつが、
わたしの つめたいてとかさなりあう。
ふたつのてのうえにおちるしずく、それをいしきすることもなく
ただてをにぎりしめつづける、そんなわたしのながいごご。

□ 34-36 □
【ある まほうつかいのいちにち】

めがさめると ととのったかおのおとこがのぞきこんでいる。
かれは、わたしとともに たびをしているけんし。
なのしられた けんしであるかれは、
せかいを おのれのはだで たいかんしたいと、
ちしきを もとめるわたしとともに たびをしている。
いまはあさだろうか? じかんかんかくがあいまいだ。
それに、きょうはひどく あたまのそこがいたい。
でも ふだんはおそくまでねている このおとこが
おこしにきてくれたのなら、きょうは こううんなひだとおもう。

おはよう。

じぶんのこえがあたまにひびくのをおさえて、できるだけ
ふだんどおりにのんびりとこえをかけた。

しゅんかん、しょうげきがみぎほおをおそう。
きがつけば わたしはべっどわきの かべにあたまをぶつけていた。
あたまをかかえながら まえをみると、
うでをつきだした かれのすがたがみえる。
つねのちからなら、はがくだけていても おかしくはないそくどだった。
ぎもんにおもい、うでをみると、かれのいふくのはしばしから
ほうたいがみえかくれしている。
しょうげきがひびくのか、かれはかためをほそめ
こらえるようなひょうじょうをしている。

そのときはじめてわたしはきがついた。かれのめのはしがあかいことに。

ばかやろう。

それだけつぶやくと、かれはべっどのわきにより、わたしのからだをひきよせだきしめた。

でも、まちがいなくおまえのことばだな、それは。

そうつぶやいた。
そのときになってふいにきおくがよみがえった。
めがさめるまえ、わたしはかれと あるいせきにいた。
そのおくでみつけた うすよごれた こもんじょ。
きんだんのちしきが しるされたそれに
みりょうされたわたしは、そのほんをよみふけり、そして…

くびをひねると、わたしのながいかみがゆれるのが
くすぐったらしく、かれがあたまをふって ちいさくわらった。

おまえはあのほんに あやつられそうになったんだよ。
すぐに それにきづいて、ほんをやきはらったから
だいじには いたらなかったけれども。
おだやかにかたるこえに、そのしゅんかんのえいぞうが がんかをよぎる。
かれのこういをとめようと、わたしは こうげきじゅもんを かれにむけた。
かれのほうたいは、それによるもの なのだろう。

もうしわけなさでむねがいっぱいになり、ことばのないわたしを、
かれがこんどは やさしくだきしめる。

いいんだ。
おまえがおまえでいてくれたから、それで。
おまえとはなれるのが、おれにはたえられないから。

かれのこえがとぎれる。

たくましいうでにだかれながら、かんしゃのねんとともに、
けんしのことばに じぶんもだと、くちでこもるようにかえす、
あるまほうつかいのあけがた。

□ 37-42 □
【あるじゅうしゃのいちにち】

あるところに わがままなおうじさまと やさしいじゅうしゃがおりました

おうじさまはきれいなはなをみつけては じゅうしゃをよびつけ
めずらしいくだものがたべたくなれば じゅうしゃをよびつけていたので
やさしいじゅうしゃは にしへひがしへ
さまざまなくにをいったりきたり
いちねんさんびゃくろくじゅうごにち やすまるひまもありません

あるひ おうじさまはいいました

にしのみさきに さんびゃくねんねむりつづけている ひめがいるという
そのうつくしさたるや ときのながれもとめるほど
ながめてもながめても あきないのだときく
よはあれがほしい

するとじゅうしゃは いつものようににっこりわらって
おうじさまのわがままをききいれ よもあけぬうちからしろをでました

にしのみさきにそびえたつしろをめざして

だがぼくがしのびこんだしろには
としおいたしんかたちと
ほうきとばけつをかかえた めしつかいのようなおとこがひとりと
ようえんなうつくしさのおとこがひとり

どこをみわたせど おひめさまはいなかった

「そうか のろいはとけても うわさはなかなかきえないんだな」

にがわらいをうかべながら めしつかいのようなおとこは はなしだした
その あまりにきのぬけるぶゆうでんをきいてぼくは
かたのにが いっきにすとんと おちてしまい そのばにすわりこんだ

「あるじにじゅうじゅんすぎるおとこか …きにいった」

うつくしいおとこは にやりとわらい
めしつかいのようなおとこに ほうきでこづかれていた

そのひはおとこのこういにあまえ あたたかいもうふにくるまってねむった

つぎのあさ
めしつかいのようなおとこは きょうもまたほうきとばけつをかつぎ
せわしなくはたらいていた
「なんせひろくておちつかないんだよ」とわらった

「よのあいてをしてればよい なんてあいつはいうけどな
 おれだってもとはゆうしゃだし おにんぎょうさんじゃないんだから」
あいつというのは あのうつくしいおとこのことだろうか
「ま あいつ おれいがいにともだちいないみたいだから あいてくらいしてやるけどさ」
「ひろったいぬすてられない みたいなさぁ」
そのわりに いぬあつかいをうけているのは どちらかといえばかれのほうだ
どうやらこのふたりはしゅじゅうかんけいではなさそうだ
わたしはあるじに ゆうじょうをもとめたことも
また もとめられたこともなかった

おさないころから まるできょうだいのように せいかつをともにし
だれもがためいきをつくなか ぼくだけがただひとり
おうじのわがままにわらってこたえていた
どんなむりなんだいにも にしへひがしへとびまわった

いつまでたいざいしてもよいのでしょう
ぼくがそうきくと うつくしいおとこはほほえんで
すきなだけいるとよいといった
ぼくはそのひも あたたかいもうふにくるまってねむった

つぎのひも そのつぎのひも ぼくはこのふたりとともにすごした
ねむりのひめはそんざいしなかった
はじめておうじのいいつけにこたえることができなかったのだ
どんなおしかりをうけるのだろう どんなことばをあびせられるのだろう
そうおもうと こわくてかえることができなかった

そうだ あなたもともにここをでませんか
あるひぼくは めしつかいのようなおとこにこういった
こころぼそかったというのはたんなるいいわけで
このみじかいせいかつのなかで きさくであかるいかれにこういをよせていた

「…いいよ おれここにいるよ」
おとこはしずかにわらった

「おれはここにいたいんだよ」

わらっていたのに なぜだろう むねがつまった
おうじのわがままをきいていたのは きいていたかったのは ぼくのいしだ
ぼくはかえらなければ

ふたりにわかれをつげ ぼくはおもいとびらをひらいた
ちかくのまちへゆき うまをかい ぜんりょくではしらせた
ふつかかけて ようやくみなれたこっきのもと もんのまえにたっていた

ひとつきのながたびからかえったぼくは おうせつまにとおされた
しろのみんなはぼくをふしぎそうにみている
ぼくも なぜかいわかんをおぼえた
このじゅうたんのむこう ぎょくざにいるのは おうじではない

「よくぞ かえった」

かおをあげたそのさきにいたのは ぼくのしる おさないおうじではなかった
いふうどうどうとぎょくざにこしをおろし
するどいがんこうでぼくをみつめているわかものはしかし ぼくのしるおうでもなかった
おうじのおもかげをのこす このせいねんはだれだ?

ほうけているぼくにみかねて おうはやさしくほほえんだ
「…おまえをおくりだしたあとにわかったことだ
 あのいちぞくは ときのめがみにものろいをかけられていてな」

「あのしろのなかのすなどけいは それはそれは ゆっくりとおちるそうだよ」

”そのうつくしさたるや ときのながれもとめるほど”

ああ あのせすじもこおるほどのうつくしさは

「そのはやさがわからないので むかえをやるわけにもいかなかった
 ごねんたち おまえがじぶんでかえってきてくれて …ほんとうによかった」

あのせいねんはしらないのだろうか
いや ここにいるといったときのあのえがお あれはかくごだ
かれはえらんだにちがいない じぶんで じぶんののぞむまま

こらえきれずなみだをながしながら ぼくはおうのあしもとにひざまずいた
もうしわけございませんと ありがとうございますを なんどもくりかえした
おうがごしょもうなされたひめは あのしろにはおりませんでした
さいごに そういうとおうはうれしそうにわらいだした

「そんなことはどうでもよい まじめなおまえらしいな
 むかしはおさなさゆえ おまえのきがひきたくてわがままをいった
 ずいぶんとめいわくをかけたな」

そういってわらう おうのおとなびたえがおを ぼくはしらない
わかくしてぎょくざにすわることとなった わがままおうじがこのごねん
どんなくろうをしいられたのか ぼくはしらない

うしなったごねんのかわりに えいえんのちゅうせいをちかった
あるやさしいじゅうしゃのみじかいごねんと
うしなったもののたいせつさにみをこがされ もうにどとなくすまいと
じゅうせきをになった あるおうさまのながいごねん


ついでに

めずらしいきゃくの ひとつきのたいざいがおわったそのよる
もとゆうしゃが おうじからあたえられたひろいべっどでみをまるめていると
じゅうにじもすぎたころだろうか みょうなねぐるしさをかんじた
かたくとじていたまぶたを うっすらひらき ねがえりをうつと
そこには いまにももうふにしのびこもうとする おうじのすがたがあった

…なにしてんだよあんた
「なにって…きまっているだろう することといえば」
なんのことだよ ねかせてくれよ
「いっただろう きさまは よのあいてをしていろと」

おうじはもとゆうしゃのほおをなで ながいゆびで かおをよせた
だがもとゆうしゃはそれにどうじたようすもなく
はんぶんしかひらかれないまなこでおうじをいちべつし

だから ひるま ちぇすのあいてとか してやってるだろ…

そうつぶやいたかとおもうと ふたたびまくらにかおをうずめた
ととのったねいきはそのぐすぐにきこえてきて
あっけにとられているおうじと
はしらのかげからふたりをみつめているしんかたちのきもしらず
もとゆうしゃはふかいねむりえとおちていった

そんな ときのはてをしらないあるしろのしゅうしんまえ

・2スレめからのけいぞくにっきです。>>642-647

□ 77 □
【あるしゅごしゃのいちにち】

おおむかし、このたいりくはまおうがしはいしていた。
が、とあるゆうしゃによってたおされた。
しかしまおうは しぬまえにふっかつをよこくし、
ゆうしゃはそのときのために、かつてのなかまに
まおうをたおすためのつるぎをたくした。

やまおくにかくれすむわたしのもとへ、けさひとりのせいねんがたずねてきた。
ひたむきなひとみと、かれのおもかげがやどるかおだち。
まちがいなく、ゆうしゃのしそんだろう。
ふっかつしたまおうをたおし、よにへいわをとりもどしたい
そうつげたせいねんに、わたしはつるぎをてわたした。

ながいあいだ、まもりつづけていたものをもって せいねんがたちさったあと、
わたしは じぶんがひどくつかれているのに きがついた。
むねにあながあいたようだ。しかしどうじに、あんどのきもちもある。

ゆうしゃのいしをうけつぐせいねんは、そのせきむをはたすだろう。
やがてせかいをおおうあんうんはきえ、ひとびとにえがおがもどる。
せかいにたちこめるあんうんは、さわやかなかぜが どこかへとながしさるだろう。

わたしのにんむははたされた。
そろそろ、わたしもじぶんのだいじなものを さがしにいくことにしよう。
かれと さいごにあってから、もうずいぶんとながいねんげつがながれた。
すこしねむったあとに、なによりもだいじな かれのもとへとむけてたびにでよう。
そしてめぐりあえたら、もうにどと、はなれないようにしよう。

からだをひきずりながら しんだいにはいり、
めをとじながらけついをかためた、あるしゅごしゃのいちにちのおわり。

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【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15