□ 17-18 □
【ある ほさかんの いちにち】
であったのは せんじょうだった。
あのひとは あるくにのしょうぐん、
わたしは じゃくしょうこくのしょうこうだった。
じょうさいとしをまもる たたかいにやぶれ、
しょけいをまつのみだった わたしのもとを、
あるひ、あのひとはおとずれた。
↓
わたしにしたがい、いきるきはないか?
とあのひとはいった。
それが いきるためのじょうけんならばしたがいましょう。
ただし、いつかわたしはあなたをころします。
だんげんした わたしを しんしなひょうじょうでみつめ、
かまわない、とうなずいてみせた あのひと。
ひとみのかげにみえた かなしげないろが
いとわしくて、おもわずかおをそむけたのを
いまでもつよくおぼえている。
↓
あのひとの ほさをつとめるようになって じゅうすうねんご、
しのやまいが くにをおそった。
あのひとも それにたおれたときき、あわてて
わたしは あのひとのへやへと かけつけた。
いきをなかばきらしながら べっどの かたわらにたったわたしに、
あのひとはあたまをさげた。
…ずいぶんとまたせてしまったな。
いま、きみとのやくそくをはたそう。
↓
そう おだやかにかたることばが わたしのなかへとしみとおり、
いみにへんかんされるとともに、
わたしは あのひとのえりくびをつかみながら
おもわずどなっていた。
ふざけないでくれ!
しつないに ひびきわたるおおごえ。
からだをむりやり ちゅうとはんぱにおこされ
よこをむいて すうどせきこむと あのひとはみずからのてを、
えりくびをつかむ わたしのてにおしあてた。
あついてのひら。ほそくなったゆび。
おどろいて、かれのからだを あわててよこたえる。
そうしながら しんていから わきだしてきたおもいのまま、わたしはさけんだ。
↓
わたしは あのときのわたしではない。
ときが あのときかんじた ふくしゅうしんをうすめ、
かわりに そんけいのねんをわたしにうめこんだ。
このような ちゅうとはんぱなおもいのまま あなたをあやめても、
そのことに なんのいみがありましょうか?
いまでもあなたのちを、にくを、そのねつを
ほっしているのはじじつなれども、
それらがもつ いみが むかしとちがう。
わたしのこえに、あなたは またあたまをさげた。
↓
すまない。
のばされたてが、かたわらにたつ わたしのてにのばされた。
いのちがからだからぬけていくような ねつが、
わたしの つめたいてとかさなりあう。
ふたつのてのうえにおちるしずく、それをいしきすることもなく
ただてをにぎりしめつづける、そんなわたしのながいごご。
□ 34-36 □
【ある まほうつかいのいちにち】
めがさめると ととのったかおのおとこがのぞきこんでいる。
かれは、わたしとともに たびをしているけんし。
なのしられた けんしであるかれは、
せかいを おのれのはだで たいかんしたいと、
ちしきを もとめるわたしとともに たびをしている。
いまはあさだろうか? じかんかんかくがあいまいだ。
それに、きょうはひどく あたまのそこがいたい。
でも ふだんはおそくまでねている このおとこが
おこしにきてくれたのなら、きょうは こううんなひだとおもう。
↓
おはよう。
↓
じぶんのこえがあたまにひびくのをおさえて、できるだけ
ふだんどおりにのんびりとこえをかけた。
↓
しゅんかん、しょうげきがみぎほおをおそう。
きがつけば わたしはべっどわきの かべにあたまをぶつけていた。
あたまをかかえながら まえをみると、
うでをつきだした かれのすがたがみえる。
つねのちからなら、はがくだけていても おかしくはないそくどだった。
ぎもんにおもい、うでをみると、かれのいふくのはしばしから
ほうたいがみえかくれしている。
しょうげきがひびくのか、かれはかためをほそめ
こらえるようなひょうじょうをしている。
↓
そのときはじめてわたしはきがついた。かれのめのはしがあかいことに。
↓
ばかやろう。
↓
それだけつぶやくと、かれはべっどのわきにより、わたしのからだをひきよせだきしめた。
↓
でも、まちがいなくおまえのことばだな、それは。
↓
そうつぶやいた。
そのときになってふいにきおくがよみがえった。
めがさめるまえ、わたしはかれと あるいせきにいた。
そのおくでみつけた うすよごれた こもんじょ。
きんだんのちしきが しるされたそれに
みりょうされたわたしは、そのほんをよみふけり、そして…
↓
くびをひねると、わたしのながいかみがゆれるのが
くすぐったらしく、かれがあたまをふって ちいさくわらった。
↓
おまえはあのほんに あやつられそうになったんだよ。
すぐに それにきづいて、ほんをやきはらったから
だいじには いたらなかったけれども。
おだやかにかたるこえに、そのしゅんかんのえいぞうが がんかをよぎる。
かれのこういをとめようと、わたしは こうげきじゅもんを かれにむけた。
かれのほうたいは、それによるもの なのだろう。
↓
もうしわけなさでむねがいっぱいになり、ことばのないわたしを、
かれがこんどは やさしくだきしめる。
↓
いいんだ。
おまえがおまえでいてくれたから、それで。
おまえとはなれるのが、おれにはたえられないから。
↓
かれのこえがとぎれる。
↓
たくましいうでにだかれながら、かんしゃのねんとともに、
けんしのことばに じぶんもだと、くちでこもるようにかえす、
あるまほうつかいのあけがた。
□ 37-42 □
【あるじゅうしゃのいちにち】
あるところに わがままなおうじさまと やさしいじゅうしゃがおりました
↓
おうじさまはきれいなはなをみつけては じゅうしゃをよびつけ
めずらしいくだものがたべたくなれば じゅうしゃをよびつけていたので
やさしいじゅうしゃは にしへひがしへ
さまざまなくにをいったりきたり
いちねんさんびゃくろくじゅうごにち やすまるひまもありません
↓
あるひ おうじさまはいいました
↓
にしのみさきに さんびゃくねんねむりつづけている ひめがいるという
そのうつくしさたるや ときのながれもとめるほど
ながめてもながめても あきないのだときく
よはあれがほしい
↓
するとじゅうしゃは いつものようににっこりわらって
おうじさまのわがままをききいれ よもあけぬうちからしろをでました
↓
にしのみさきにそびえたつしろをめざして
↓
だがぼくがしのびこんだしろには
としおいたしんかたちと
ほうきとばけつをかかえた めしつかいのようなおとこがひとりと
ようえんなうつくしさのおとこがひとり
↓
どこをみわたせど おひめさまはいなかった
↓
「そうか のろいはとけても うわさはなかなかきえないんだな」
↓
にがわらいをうかべながら めしつかいのようなおとこは はなしだした
その あまりにきのぬけるぶゆうでんをきいてぼくは
かたのにが いっきにすとんと おちてしまい そのばにすわりこんだ
↓
「あるじにじゅうじゅんすぎるおとこか …きにいった」
↓
うつくしいおとこは にやりとわらい
めしつかいのようなおとこに ほうきでこづかれていた
↓
そのひはおとこのこういにあまえ あたたかいもうふにくるまってねむった
↓
つぎのあさ
めしつかいのようなおとこは きょうもまたほうきとばけつをかつぎ
せわしなくはたらいていた
「なんせひろくておちつかないんだよ」とわらった
↓
「よのあいてをしてればよい なんてあいつはいうけどな
おれだってもとはゆうしゃだし おにんぎょうさんじゃないんだから」
あいつというのは あのうつくしいおとこのことだろうか
「ま あいつ おれいがいにともだちいないみたいだから あいてくらいしてやるけどさ」
「ひろったいぬすてられない みたいなさぁ」
そのわりに いぬあつかいをうけているのは どちらかといえばかれのほうだ
どうやらこのふたりはしゅじゅうかんけいではなさそうだ
わたしはあるじに ゆうじょうをもとめたことも
また もとめられたこともなかった
↓
おさないころから まるできょうだいのように せいかつをともにし
だれもがためいきをつくなか ぼくだけがただひとり
おうじのわがままにわらってこたえていた
どんなむりなんだいにも にしへひがしへとびまわった
↓
いつまでたいざいしてもよいのでしょう
ぼくがそうきくと うつくしいおとこはほほえんで
すきなだけいるとよいといった
ぼくはそのひも あたたかいもうふにくるまってねむった
↓
つぎのひも そのつぎのひも ぼくはこのふたりとともにすごした
ねむりのひめはそんざいしなかった
はじめておうじのいいつけにこたえることができなかったのだ
どんなおしかりをうけるのだろう どんなことばをあびせられるのだろう
そうおもうと こわくてかえることができなかった
↓
そうだ あなたもともにここをでませんか
あるひぼくは めしつかいのようなおとこにこういった
こころぼそかったというのはたんなるいいわけで
このみじかいせいかつのなかで きさくであかるいかれにこういをよせていた
↓
「…いいよ おれここにいるよ」
おとこはしずかにわらった
↓
「おれはここにいたいんだよ」
↓
わらっていたのに なぜだろう むねがつまった
おうじのわがままをきいていたのは きいていたかったのは ぼくのいしだ
ぼくはかえらなければ
↓
ふたりにわかれをつげ ぼくはおもいとびらをひらいた
ちかくのまちへゆき うまをかい ぜんりょくではしらせた
ふつかかけて ようやくみなれたこっきのもと もんのまえにたっていた
↓
ひとつきのながたびからかえったぼくは おうせつまにとおされた
しろのみんなはぼくをふしぎそうにみている
ぼくも なぜかいわかんをおぼえた
このじゅうたんのむこう ぎょくざにいるのは おうじではない
↓
「よくぞ かえった」
↓
かおをあげたそのさきにいたのは ぼくのしる おさないおうじではなかった
いふうどうどうとぎょくざにこしをおろし
するどいがんこうでぼくをみつめているわかものはしかし ぼくのしるおうでもなかった
おうじのおもかげをのこす このせいねんはだれだ?
↓
ほうけているぼくにみかねて おうはやさしくほほえんだ
「…おまえをおくりだしたあとにわかったことだ
あのいちぞくは ときのめがみにものろいをかけられていてな」
↓
「あのしろのなかのすなどけいは それはそれは ゆっくりとおちるそうだよ」
↓
”そのうつくしさたるや ときのながれもとめるほど”
↓
ああ あのせすじもこおるほどのうつくしさは
↓
「そのはやさがわからないので むかえをやるわけにもいかなかった
ごねんたち おまえがじぶんでかえってきてくれて …ほんとうによかった」
↓
あのせいねんはしらないのだろうか
いや ここにいるといったときのあのえがお あれはかくごだ
かれはえらんだにちがいない じぶんで じぶんののぞむまま
↓
こらえきれずなみだをながしながら ぼくはおうのあしもとにひざまずいた
もうしわけございませんと ありがとうございますを なんどもくりかえした
おうがごしょもうなされたひめは あのしろにはおりませんでした
さいごに そういうとおうはうれしそうにわらいだした
↓
「そんなことはどうでもよい まじめなおまえらしいな
むかしはおさなさゆえ おまえのきがひきたくてわがままをいった
ずいぶんとめいわくをかけたな」
↓
そういってわらう おうのおとなびたえがおを ぼくはしらない
わかくしてぎょくざにすわることとなった わがままおうじがこのごねん
どんなくろうをしいられたのか ぼくはしらない
↓
うしなったごねんのかわりに えいえんのちゅうせいをちかった
あるやさしいじゅうしゃのみじかいごねんと
うしなったもののたいせつさにみをこがされ もうにどとなくすまいと
じゅうせきをになった あるおうさまのながいごねん
ついでに
↓
めずらしいきゃくの ひとつきのたいざいがおわったそのよる
もとゆうしゃが おうじからあたえられたひろいべっどでみをまるめていると
じゅうにじもすぎたころだろうか みょうなねぐるしさをかんじた
かたくとじていたまぶたを うっすらひらき ねがえりをうつと
そこには いまにももうふにしのびこもうとする おうじのすがたがあった
↓
…なにしてんだよあんた
「なにって…きまっているだろう することといえば」
なんのことだよ ねかせてくれよ
「いっただろう きさまは よのあいてをしていろと」
↓
おうじはもとゆうしゃのほおをなで ながいゆびで かおをよせた
だがもとゆうしゃはそれにどうじたようすもなく
はんぶんしかひらかれないまなこでおうじをいちべつし
↓
だから ひるま ちぇすのあいてとか してやってるだろ…
↓
そうつぶやいたかとおもうと ふたたびまくらにかおをうずめた
ととのったねいきはそのぐすぐにきこえてきて
あっけにとられているおうじと
はしらのかげからふたりをみつめているしんかたちのきもしらず
もとゆうしゃはふかいねむりえとおちていった
↓
そんな ときのはてをしらないあるしろのしゅうしんまえ
・2スレめからのけいぞくにっきです。>>642-647
□ 77 □
【あるしゅごしゃのいちにち】
おおむかし、このたいりくはまおうがしはいしていた。
が、とあるゆうしゃによってたおされた。
しかしまおうは しぬまえにふっかつをよこくし、
ゆうしゃはそのときのために、かつてのなかまに
まおうをたおすためのつるぎをたくした。
↓
やまおくにかくれすむわたしのもとへ、けさひとりのせいねんがたずねてきた。
ひたむきなひとみと、かれのおもかげがやどるかおだち。
まちがいなく、ゆうしゃのしそんだろう。
ふっかつしたまおうをたおし、よにへいわをとりもどしたい
そうつげたせいねんに、わたしはつるぎをてわたした。
↓
ながいあいだ、まもりつづけていたものをもって せいねんがたちさったあと、
わたしは じぶんがひどくつかれているのに きがついた。
むねにあながあいたようだ。しかしどうじに、あんどのきもちもある。
↓
ゆうしゃのいしをうけつぐせいねんは、そのせきむをはたすだろう。
やがてせかいをおおうあんうんはきえ、ひとびとにえがおがもどる。
せかいにたちこめるあんうんは、さわやかなかぜが どこかへとながしさるだろう。
↓
わたしのにんむははたされた。
そろそろ、わたしもじぶんのだいじなものを さがしにいくことにしよう。
かれと さいごにあってから、もうずいぶんとながいねんげつがながれた。
すこしねむったあとに、なによりもだいじな かれのもとへとむけてたびにでよう。
そしてめぐりあえたら、もうにどと、はなれないようにしよう。
↓
からだをひきずりながら しんだいにはいり、
めをとじながらけついをかためた、あるしゅごしゃのいちにちのおわり。
【ある○○のいちにち】in 801 since 2004/5/15